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2016/12/03
食べる栗を表す言葉は、フランスでは「シャテーニュ」と「マロン」があります。トチノキの一種のマロニエという木になる実も「マロン」と呼ばれ、綴りも同じでmarronです。

それに、マロンも栗の実としてシャテーニュの一種ではあるので、それを「シャテーニュ(châtaigne)」と呼ぶことも出来ます。逆に、マロニエの実を「シャテーニュ」と言ったら間違いになります。

ややっこしい。

栗のマロンとは何なのか?

食べられる実がなる栗の木(châtaigner)と、食べられない実がなるマロニエ(marronnier)の違いについて書いた「食べられないマロンがなる木、マロニエ」の続きです。




日本で「マロン」と言ったら、
  毬(いが)の中に実が1つしか入っていない栗のことらしい


ブログに入れてくださったコメントで、とても興味深いことを教えていただいたことがありました。

マロングラッセなどに使う「マロン」というのは、イガの中に実が1つしか入っていない栗のことです、というものでした。

私はフランスで聞いたことがなかったのですが、これが日本の情報では定義になっているので驚きました。しかも、例外なく毬(いが)に入っている実の数でマロンとシャテーニュを分けているのでした。

インターネットに入っていた情報を少し並べてみます。私が引っかかった部分を赤字にします。

マロン
 Wikipedia
フランス語で大型のヨーロッパグリ(Castanea sativa)の実。本来はトチノキ科の木であるマロニエ(仏: marronnier、学名:Aesculus hippocastanum)の実。
マロン (植物) 
Wikipedia
イガの中に2~3個の小さな種子が入っているのがシャテーニュ、1つの大きな種子が入っているのがマロンと呼ばれる。
マロングラッセ
Wikipedia
フランス語でマロン(Marron)とは、イガの中に一つだけ入っている大きくて丸い栗のことである。
フランスの食ネタ帳イガの中にひとつの粒しか入っていないものがマロン、3つの実に分かれている小粒のものがシャテーニュと呼ばれるそうです。クレーム・ド・マロンやマロングラッセを作るために使われるのは、マロンではなくて、シャテーニュ
All Aboutchâtaigneとmarronの違いは複雑で、いろいろ細かい定義があるようですが、要は、bouge(ボグ/イガ)の中に入っている実が小さくていくつかの実に別れている小型の栗をchâtaigne、大きいものがmarronと考えればいいでしょう。

これら説明を読んだ方々が書いている記事は、ネットに無数に入っているようです。

それでも、栗を扱う日本の食品業界では、「イガの中に実が1つだけ入ったマロンを使用しています」という風にしては売っていないように見えました。



フランスで栗が売られているときは、「マロン」と書いてあるものの方が「シャテーニュ」より大きいようには思います。でも、イガの中に1つしか入っていなかったと思うほどには大きくなかったような...。

私は何かを言われれば「本当なのだろうか?」というところからスタートしてしまうのですが、全員が「実が1つ」ということに疑いを持っていらっしゃらないらしいのを見て、私は日本人にしてはへそ曲がりすぎるのだと、またしても反省。

コメントをいただいてから、フランスでは何をもってマロンと呼ぶのかも調べたのでした。フランスには正式に「マロン」と呼べる「シャテーニュ」の定義があったのですが(どのくらい市場で守られているかは知りませんが)、日本とは違うのです。どうして違うのだろうか、私がフランス情報を読み違えているのかと調べまくってしましました。


どこから日本では「イガの中にある実が1つなのがマロンだ」ということになったのか?

Wikipediaの「マロングラッセ」の項目で出典として挙がっていましたので、この本の中の記載からだったのではないでしょうか? 66頁にあるのだそうです。

大森 由紀子著『フランス菓子図鑑 お菓子の名前と由来』世界文化社


Wikipediaの日本語ページでフランスについて書かれていることに関しては、7割が正しくないと思って読んだ方が安全だと思っているのですが、料理研究家の方が言われているなら、何か理由があってのことのはず。

日本語で「マロン」という言葉を使うときには、フランスで「マロン(marron)」と呼ばれる栗とは同じにしてはいけないのだと学んだわけですが、気になる...。


イガの中に栗が1つあるのが「マロン」という定義

フランスでも、栗の実に「マロン」という言葉を使い始めたときには、そうだったのだろうという気はしました。

栗の木(châtaignier シャテニエ)の実は「シャテーニュ(châtaigne)」と呼ばれるのが自然。フランス語では果実の名前の語尾を変化させて樹木の名前にしますから。リンゴ(pomme)がなる木はpommierという具合。

それなのに、特定の栗の実を「シャテーニュ」ではなくて「マロン(marron)」と呼んだのですから、何か理由があったはずです。

Les plantes et leurs noms: Histoires insolites』と題された植物のガイドブックがあり、その中にある栗の木(Châtaigner)のところで、「マロン」とは何なのかが書かれています:
⇒ この部分(41ページ)

マロンとは、イガの中の外側にある2つの胚珠の発育不全によって生じた大きくて丸いchâtaigne(栗の実)である。

つまり、イガの中に実が1つしかないのがマロンというわけです!

この本の著者は、野生植物に詳しい民族植物学者・作家のFrançois Couplanなので、植物学的にはマロンの定義はそうなのでしょう。

Littré(19世紀末の仏語の仏仏辞典)でも同じような説明をしています:
« marron », définition dans le dictionnaire Littré

これは、日本で言われていることと一致していて、Wikipediaの仏語ページにある「Marron (fruit)」も、この文献から引用しているらしい定義が入っています。ただし、もう1つのマロンの定義も挙げていて、それが現代のフランスで栗の生産や加工に係わる関係者が言うマロンの定義になっているのですが、それは次回に書くことにします。


イガの中に実が1つだけ入っている栗があるのなら、どんなものなのか見てみたい!

ところが、なかなかフランスのサイトでは見つからないのでした。本当を言って、そんなのは無いのではないかとも思っていたのです。

もう画像検索するのは止めようと思ったら、1つ見つかりました。



でも、どのサイトでも栗のイメージ写真として使っているだけなので、これがどんな品種なのか、そもそも食べられる栗なのかさえも分からない。

画像があるということは、存在しているということなので、また探す。

YouTubeに入っているフランスでのマロンの収穫を見せる動画で、イガの中に1つしか実が入っていないような栗もチラリと映し出されているものがありました。でも、同じ映像の中で、マロンとしながらも、イガの中に複数の実が入っている栗も出てきていましたので、何だか分からない...。

そうしたら、なんのことはないのでした。


イタリアが浮上!

Wikipediaでフランスの「Châtaigne(シャテーニュ)」の項目からリンクされているイタリア語のページ「Castagna」には、こんな写真が入っていたのです。



日本で言われるイガの中に実が1つだという「マロン」は、これなんだと思えますよね?

この栗の実に関する記事では、生栗の写真としては、これしか入っていませんでした。イタリアでは、イガの中に栗が1つしかないものが代表的なのかな?...

Wikipediaの「ヨーロッパグリ」にリンクしているイタリア語の項目「Castanea sativa」にも、またまたイガの中に実が1つしかない栗が登場!

イタリアでマロンとされる品種の栗のようです。

 

イタリアでもフランスと同様に栗の呼び名には2つあり、シャテーニュはCastagna(複数形はcastagne)で、マロンはMarrone(複数形はmarroni)。

イタリア語のページをフランス語に自動翻訳して読んだだけですが、マロンの方はイガに入っている栗の数は1つか2つで、普通の栗に比べて栽培が難しく、生産性が低い、と書かれてありました。マロンとシャテーニュの違いはフランスで言われていることと同じ。

マロンに関するフランス情報では、実が1つと書いてあったのには出会っていません。2から5つなどと書いているサイトもありました。イタリアでは1つしか入っていない品種の栗が多いのでしょうか?

【フランス直輸入】BOISSIER ボワシエマロングラッセ ナチュラル 8個...
マロンは、イタリアのトリノ産の高級栗をはじめとする有名産地の大粒マロンのみを使用!



フランス語の「マロン」はラテン語に語源がある

そもそも、マロングラッセはフランスの菓子だと言われますが、イタリアのピエモンテで生まれたとする説もあります。もっとも、ピエモンテは18世紀始めまでフランスにまたがるサヴォア公国でしたから、文化は共有していたでしょうけれど。

フランス語の「マロン(marron)」という単語は、ラテン語のmaro(複数形はmarrones)に語源があるという説が有力です。
リヨン周辺地域で昔にあった言葉では、そのラテン語を受けて「marr-」という接頭語が「小石」の意味で使われていたのだそう。

「Marrons de Lyon(リヨンのマロン)」という名前の品種がありました。リヨン市で生産されていたわけではなく、近くにあるサヴォア地方のような山間部があるので栗の集まる場所だったからのようです。

リヨンで「マロン」と呼ばれている栗がフランス中でもてはやされているという記述が16世紀の文献にあるので、そのころには栗を「マロン」と呼んでいたらしい。

「リヨン」という地名の他に「金色の」と付けて「Marron Doré de Lyon」とも呼ばれている栗のようです。

この品種ならイガの中に実が1つなのかと画像を探してら、そうでもないのですよね...:
こちら とか こちら

でも、こちらだと実は1つに見える。でも、入っている画像を拡大すると、実を1つだけ残して撮影しているようにも見える...。

ここまで来て、自分なりに結論を出すことにしました。

マロンというのは、本来はイガの中に1つしか実がない栗のことなのだけれど、それを選んでいたら生産者は商売にならないので、大きな実が入っている程度ならマロンの仲間として認めることにした。それでは曖昧すぎるので、何を持ってマロンとするかの基準も決めた。


同じ栗の実なのに、なぜマロンという名前で呼ぶのか?

イガの中に実が1つだけな栗を「マロン」とするのは、本来の定義だったのかもしれないと思えてきました。

私の勝手な憶測です。

昔のフランスでは、小麦が充分に生産できない山岳地域(特にセヴェンヌ山脈がある地方)では、乾燥した栗で作った粉でパンを作ったりして食べることもあったそうで、栗の木には「Arbre à pain(パンの木)」 というあだ名もついていました。でも、「Arbre à saucisses(ソーセージの木)」というのもある。家畜(特に豚)に食べさせていたからです。ドングリを食べさせて豚を太らせたのは有名ですが、栗があればそれも食べさせるでしょうね。

栗を豚がたべるなら、人間が食べるにはイメージが悪い。それで、美味しくて大きな実の栗は「シャテーニュ」ではなくて、「マロン」という別の名前で呼んだのではないでしょうか?

栗にマロンという呼び名が付けたのは16世紀という記載がありました(1カ所でしか見ていないので確かかは不明)。そういう栗が、イタリアから入ったということもあり得る...。


ともかく、マロンの方がシャテーニュよりは大きな栗であることは確かだと思っていました。... というのは都会人の妄想である、と書いている業界の人もいましたけれだ。

でも、大きいからって美味しいという理由にはならないと思うのです。その点で、フランスでマロンとシャテーニュを区分する定義の方が納得できます。上に書いた自動翻訳させたイタリア情報でも、フランスと同じように12%でボーダーラインをひくという定義をしていました。

日本では、なぜかそれを言っていないのです。これだけ検索したのに、1度も出会いませんでした。不思議...。
その12%とは何なのかを次回に書きます。



追記:

日本の情報では、フランスやイタリアで言われるマロンの定義を出しているところが見つからなかったと書いたのですが、すぐに入ったコメントで教えていただいた日本のメーカーのサイトに、それが入っていることを知りました♪

イタリアでは「マローネ」と呼ばれるマロンの説明です。

仏蘭西焼菓子調進所 足立音衛門」の「ヨーロッパ栗へのこだわり」のページでは、シャテーニュ(イタリアではカスターニャ)とマロン(イタリアではマローネ)の違いについて、こういう風に説明されていました:

音衛門の製品では、この「カスターニャ」種と「マローネ」種、二つの種類のイタリア栗を使っております。こちらの二種ですが、双方とも「ヨーロッパグリ(Castanea sativa)」の中の一種となります。両者の違いを簡単に説明すれば、カスターニャは毬の中に複数の栗の実が入った日本でもお馴染みの栗に近い見た目の栗、マローネは基本的に毬の中に栗の実が一つ程度入った大粒の栗で、中央部に割れ目のないものを指すと言われています。


私が推察したように、マロンは「基本的には」イガの中に1つだけ栗が入っているものであること。そして、中央部に「割れ目がない」ことがポイントなのです!

さすが、この道のプロの方はきちんとしたご説明をなさると感心しました。

この「割れ目がないこと」を表現する単語が曲者なのです。普通に使われる単語なのに、植物では特別な意味を持っていることに気がつくまでに私は苦労しましたし、それがイガの中に栗が1つしか入っていないことを意味すると受け取られても無理ないのです。




つづく
栗とマロンについて
  1. フランス人が栗を嫌う理由 2012/11/06
  2. 食べられないマロンがなる木、マロニエ 2016/12/01
  3. イガの中に実が1つだけの栗がマロンって、本当なの? 2016/12/03


ブログ内リンク:
胡椒の値段をつり上がらせた豚 2006/01/08
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
La châtaigne ou anciennement appelé « Arbre à pain »
Le chataîgnier l'arbre à pain, providence de nos ancêtres
Châtaignes et marrons en Cévennes
☆ CNRTL: Etymologie de MARRON
☆ Etymologie-occitane: Marron
☆ Wiktionnaire: marron
ヨーロッパ栗へのこだわり » 栗を訪ねて イタリアムアベリーノ編


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