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2017/04/12
むかし、フランスに行くたびに泊めてもらっている友人を日本に招待したとき、私の小さなアパートに滞在してもらいました。

茶の間にしている畳の部屋で食事をして、それを片づけて、夜は彼女の布団を敷いて寝てもらいました。フランスでは来客用のベッドルームがあることが普通なのに、私のアパートは狭いので申し訳ないと謝ったら、とても合理的な部屋の使い方だと褒めてくれたのでした。まんざらお世辞で言っているわけでもないらしくて、部屋をダイニングと寝室に使ってしまうということに感心していたようなのです。

ずっと後になって、フランスだって、昔は、寝室で食事をすることが多かったのだ、と知りました。

ただし、何事も文句を言うのがフランス人。私のアパートの茶の間は6畳間と狭いし、天井は低いのが問題だったようです。泊めた彼女は、布団に入ったときに食べ物の臭いがこもっているのは難点だ、と文句はつけていたのです。

その後に自分で実験してみたら、鍋物などをした後の部屋は耐え難いほど臭いのでした。私たち日本人は意識しない傾向にあるのでしょうが、醤油や魚を使った日本料理は、たまらなく嫌な臭いがするのです。これについては、いつか書きたいと思っています。

シリーズ記事 【フランスの食事の歴史】目次へ
その8


フランスの家庭で、ダイニングルームがあるのが普通になったのは19世紀になってからだそうです。庶民はもちろん、貴族や裕福な階層が住む広い城や館でも、寝室や居間のような部屋に食卓が整えられて食事をしていました。


テーブルは食事の度に設える

昔のフランスには、ダイニングルームというものが存在していませんでした。

食事の時には、組み立て式のテーブルを設えました。足組をセットして、そこに板を乗せてテーブルにし、その上にテーブルクロスをかけて食卓にしていたわけです。

中世についてはすでに書いています:
★ 中世の食事 (2) 宴会でのテーブルの配置


いかにも設えたテーブルだと分かる絵があったので入れます。15世紀後半の作品です。


Syphax recevant Scipion l'Africain et Hasdrubal à sa table, vers 1485-1490

宴会のときには、人数に合わせて大きな部屋に場所を設えますので便利ではあります。

現代のフランスでも、田舎に住む人が100人も招待するようなホームパーティーを開くときには、公民館からテーブルを借りてくるのですが、足組を立てて、そこに板をのせてテーブルにするという形式があります。




寝室で食事する

普段は、寝室で食事することも多かったようです。暖炉があって、広間のようには大きくないので、寝室は暖かいから、ということも大きな理由だったでしょう。

17世紀、18世紀になっても、城主様の寝室が食堂になることも多かったようです。城を見学すると、ガイドさんがよく「dresser la table(食卓を整える)」というのは、そこから来ている表現なのだと説明します。

今では食卓に食器などを並べて食事の支度をすることを意味する表現なのですが、もともとは本当にテーブルを設置したわけなのです。城の見学をするのが趣味の私は何度も聞いているので珍しくもないのですが、フランス人たちは「なるほど...」と感心して聞いています。


ルイ14世在位: 1643~1715年の場合

ヴェルサイユ宮殿で暮らしたルイ14世は、規則正しい生活をして、それを儀式のように公開していました。食事に関しては、朝食は寝室でとり、昼食と夕食は別々の部屋を使う、という具合。

下の絵画は、ルイ14世がモリエールを朝食の席に招いたという逸話(1670年)を題材にしたものです。

Molière et le roi attablé. Le roi parle aux courtisans, Molière regarde le roi.
Louis XIV et Molière déjeunant à Versailles, par Ingres. Esquisse pour le tableau le Déjeuner de Molière, qui fut détruit en 1871 au palais des Tuileries. (Bibliothèque-musée de la Comédie-Française, Paris.)

右側に、緑色の天蓋があるベッドが見えます。

新古典主義の画家ドミニク・アングルが1857年に描いた作品なので、当時の様子を伝えているだけですが、寝室での食事はこんな感じだったはずです。

城の寝室は、私が友人を寝かせた6畳間の何倍もの広さがありますし、天井も高いですから、寝ていて食べ物の臭いがするということはなかっただろうと思います。

ルイ14世が1人でする食事は「Petit Couvert(プティ・クーベール)」。公開して見せる食事は「Grand Couvert(グラン・クーベール)」と呼ばれ、妻や子どもたちと共に食事をしました。

大勢の人がいるグラン・クーベールの様子を描いた絵があります(1710年):
Le souper au Grand Couvert.


午後10時、Grand Couvertで行われるsouperと呼ばれるヴェルサイユ宮殿での夕食は、時代によって、国王か王妃の控えの間(antichambre)をダイニングルームとしていました。部屋は決めていたわけですが、食事の時にはテーブルを設置していたのでした。国王は立派な椅子に座りますが、その他の人は折り畳み式の椅子に座り、通りかかった人たちは立ったままで見学します。

ヴェルサイユ宮殿にある王妃の控えの間の様子を見せる動画があったので入れます。始めに出てくる棒は、長さが1メートル30センチある給仕長の指揮棒です。


Versailles, l'autre visite : #02 - LE SCEPTRE DU GOÛT


フランス革命で断頭台の露と消えたルイ16世は、ルイ14世のように儀式張って派手なことをするのは嫌う人でした。「Grand Couvert」で食事するのは、祭日と日曜日だけとされていたそうです。


ダイニングルームが初めて作られたのは18世紀

このシリーズでも何回も画像を使いましたが、ヴェルサイユ宮殿につくるダイニングルームの壁に飾るために描かれた絵があります。

Le Déjeuner d'huîtres, Jean-François de Troy (1735)

Le Déjeuner de jambon(1735年), Nicolas Lancret

18世紀前半に描かれた絵画です。部屋が幾つあるのか分からないほど広いヴェルサイユ宮殿。食事をするためにしか使わないテーブルとイスを設置した部屋を作っても良いのに、この時代まで食事のためにテーブルを設えていたというのは不思議な気がします。


◆ 卓袱台(ちゃぶだい)の発想?

食事のときにテーブルを作る「dresser la table」という言い方は、日本で言う「膳立て」と同じ感じでしょうか?

日本にも、ちゃぶ台がありました。

Setsuko Hara in Meshi.jpg
映画『めし』(昭和26年)

折り畳み式ですよね? とすると、便利。

ちゃぶ台が庶民の家庭で使われていたのは、いつまでだったのか?

1887年(明治20年)ごろより使用されるようになり、1920年代後半に全国的な普及したが、1960年(昭和35年)ごろより椅子式のダイニングテーブルが普及し始めて、ちゃぶ台を使う家庭は減少していった、という記述がありました。

ちゃぶ台というのは、こんなに小さくて、きゃしゃなものでしたっけ? だから、「ちゃぶ台をひっくり返す」などという言い方ができたのでしょうけれど。


ちゃぶ台に似ていると思わせる絵画がありました。オランダの画家が18世紀半ばに描いた作品です。


Couple dînant devant la cheminée, 1650, Quiringh van Brekelenkam

寒いから暖炉の前で食事している庶民の生活を描いているようです。

文化の違いというのはあるけれど、共通した発想に行きあたると面白いと思います。


テーブルとイスが必要な食事の文化は不便

現代のフランスでは、食事をする場所が少なくとも2カ所ある家庭が普通だと感じます。家族だけの簡単に食事ができるテーブルは台所にあります。それから、家族でもちゃんと食事するとき、来客があったときに食事するための大きなテーブルがあるダイニングルーム。

フランスの家庭を見ていると、大勢で食事をするときには、大きなテーブルと人数分の椅子が必要なのは不便だと思います。

日本だと、座布団をたくさん持っていて、テーブルが小さければ座布団をぎっちり並べたりできますが、テーブルだと、足が邪魔で椅子をぎっちり並べることができなかったりもするのです。

10人以上が座って食事できる大きなテーブルを置いておけば良いわけですが、夫婦二人だけで住んでいると、いつもはその隅っこで食べるというのも楽しくありません。

フランスの家庭の多くは、必要なときには引き延ばすことができるテーブルを使っていることが多いと感じます。

下は、朝市で売っていた伸縮性のテーブルです。真ん中にある2本の足は、広げたときに下せるようになっています。


伸長式ダイニングテーブル 2013/01/02



続く

シリーズ記事【フランスの食事の歴史】目次



ブログ内リンク:
★ 目次: レシピ、調理法、テーブルウエアについて書いた記事
★ 目次: ホームパーティー いろいろ
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
Comment dresser la table d'un repas, banquet, festin avec recettes de cuisine moyen age medieval
☆ Wikipedia: Renaud de Montauban » ルノー・ド・モントーバン
☆ Château de Versailles: Les tables royales
Versailles - Extraits - Extrait la cérémonie du grand couvert
Petite histoire de la table à manger
☆ Wikipedia: Salle à manger » 食堂
☆ Wikipedia: ちゃぶ台




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