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2012/06/16

シリーズ記事 【ヴィシー政権下、1942年のユダヤ人一斉検挙】 目次へ
その3


ナチスの傀儡となったヴィシー政権(1940~44年)のもとでおきた、フランス現代史の汚点「ヴェル・ディーヴの一斉検挙」と呼ばれる出来事を扱った映画を見たことを書いています。

どんな出来事であるかを書いた日記:
ヴェル・ディーヴの一斉検挙(1942年) 2012/06/14


映画「黄色い星の子供たち(La Rafle)」

2週間くらいの間をおいただけで、偶然にもこのテーマを扱った映画を2本見たのですが、始めに見たのは実話からストーリーを作った映画の方でした。


黄色い星の子供たち [DVD]

La Rafle - edition simple
日本公開: 1011年フランス公開: 2010年

フランス語の題名は「La Rafle(一斉検挙)」。これでは刑事モノの映画と誤解されてしまうからでしょうか、邦題は「黄色い星の子供たち」となっています。

「黄色い星」とは、ユダヤ人であることが一目でわかるように胸に付けさせられたマークなのですが、日本人にそれが連想できるのかな?... 「子ども」も付け加えてしまったわけですが、子どもに焦点が当てられたお話しなので良しとしましょう。 お見事な命名だと思います。

「黄色い星の子供たち」という映画が良いと言われて、見たいと思っていました。でも、フランスのテレビで上演されるのを待つつもりだったので、気長に構えていました。

ところが、映画の名前を聞いてから1カ月くらいしかたたないときのこと。テレビで流されていた映画を見ていたら、そのうち、これが「黄色い星の子供たち」ではないかと思えてきました。フランス語の題名は邦題と全く違うので結び付けられなかったのです。 映画を見終わってからインターネットで調べて初めて、見たいと思っていた映画だったと確認できました。

従って、途中から、しかも席を立ったりもしながら鑑賞した映画なので、記憶をたどって粗筋を書くことなどできません。でも、パリの平和な風景から見たので、見損なった部分は少なかっただろうとは思います。


ヴェル・ディーヴの一斉検挙(1942年)を扱った映画

ヴィシー政権がしたホロコーストの中では最大規模の事件がテーマとなっています。フランス人の警察官が動員され、パリ首都圏に住むユダヤ人家庭に不意打ちをかけて、2日間で13,000人も検挙してしまいました。

子どものない夫婦や単身者は、ドイツの強制収容所に送りこめるので、とりあえずユダヤ人収容所に連行。子どもの処分に困ったので、親子連れをとりあえずパリ市内の冬季競輪場(ヴェル・ディーヴ)に押し込めました。観客席を埋めてしまうほどの人数が連行されたのですが、その約半分は子どもでした(4,115人)。

ヴィシー政権が自らユダヤ人迫害をしたこと、女性や高齢者だけではなく子どもたちまで犠牲にしたこと、ヴェル・ディーヴでの待遇は酷いものであったことで、フランスの現代史の汚点となる事件でした。

「黄色い星の子供たち」は、このときに検挙されながらも生き延びた人々の証言を集めて構成した映画です。

あちこちのサイトに映画のあらすじが出ているので、私が下手にまとめるのは省略します。

映画『黄色い星の子供たち』公式サイト
☆ CINEMA TOPICS ONLINE: 黄色い星の子供たち
☆ 監督・キャスト(写真付き): Casting La Rafle(AlloCiné)



「黄色い星の子供たち」予告編:



3本立てで抜粋を見せている動画:
1.
2.
3.



映画のモデルになった男性

「黄色い星の子どもたち」にはジョー・ヴァイスマンという名で男の子が登場しているのですが、モデルとなった実在人物がいます。

彼の名はJoseph Weismann(1931年~)。

ファーストネームを男の子の愛称にしただけなのですね。

ヴァイスマン氏は、ヴェル・ディーヴを出された後にBeaune-la-Rolandeの一時強制収容所に送られ、アウシュビッツに送られる運命にあったのですが、2人の警察官に助けられて脱走に成功しました。

2011年9月、つまり映画公開の翌年に、彼は『Après la rafle(一斉検挙の後)』と題した本を出しています。

出版にあたってのインタビューの動画がありました:



来日もしていらした。
ユダヤ人収容所からの脱出・生存者が東京でトークセッション


ドキュメンタリー映画ではない

正直いって、私には、心に焼き付いて何日もそのことを考えてしまう、というような映画ではありませんでした。

ヴェル・ディーヴの一斉検挙については、この映画で知ったのでショックは受けました。でも、映画は現実を少し軽くしていて、本当はもっと残虐なものだったのではないかという疑問を持ちました。

その2週間後くらい後に見た、同じ事件を扱った映画「サラの鍵」の方が私には衝撃的でした。こういう非人道的な行為が、どれほど子どもの心を傷つけるものであるかが伝わってきたからです。

それで、ヴェル・ディーヴの一斉検挙がどんなものであったのか調べたい気持ちになりました。

上に動画を入れた、男の子のモデルとなり、映画製作でも助言者となったヴァイスマン氏のインタビューでは、冒頭で、「黄色い星の子供たち」は現実に忠実かとインタビューされています。

「観客と証人の両方になることはできないので、非常に難しい問題です」と答えています。「証人としては一字一句間違えないで事実を伝えて欲しい。でも、映画は映画です」。

ヴァイスマン氏が日本で、「私は収容所で遊んだ記憶はない」と発言している点に注目しました。

映画では、子どもたちの無邪気な姿と、現実の悲惨さをクローズアップするため、無邪気な姿の方を強調しているのを感じました。

その対比は感動的です。始まりの部分で、昔のパリを髣髴とさせる道路(モンマルトルの一角でセットを作ることを住人たちが協力してくれたので実現したらしい)で、子どもたちが平和に遊んでいる場面は美しかったです。

でも、何がおこっているのか、これからどうなるのか分からない無邪気な子どもでも、極端な恐怖におびえていたはずではないですか?

映画を見たあと、ウェブでヴェル・ディーヴ生存者たちや、近くに住んでいて目撃した人たちが語っている動画をたくさん見ました。

子供たちは泣き叫んでばかりいて、誰もが下痢で汚れた姿になっており、無邪気に遊んだりしているのは見なかったと、収容所の近くに住んでいた女性が言っていました。子どもたちは行ったり来たりウロウロしているばかりなので奇妙で、それが何とも可哀そうだった、そんな状態でいるのなら死んでしまった方が救われたのではないかとも思った、と語っていました。

ユダヤ人たちを助けたフランス人が大勢いたというのは、でっちあげではない事実なのは確かです。助けた人たちに感謝するために名前を書いて保存してあるところもありますので(Le Mur des Justes)。映画に出てくるのが、生存者が語るエピソードと同じというのが幾つもありました。

でも、映画の中でに登場した赤十字の看護婦が、私にはなんとなく白々しく見えてしまいました。もっと感動を与える役になれたはずなのに...。

というわけで、この映画にはそれほど満足しなかったので、私が間違っているのだろうかと、フランスでの批評を見てみました。悪くはないですが、マスコミの全部がもろ手を挙げて褒めているわけではないですね。かなり厳しい批判もありました。

この映画の残念な点として、この映画を見ても、何か知らなかったことを学べるわけではないというのを挙げているものがありました。

確かに、私などはヴェル・ディーヴ事件を知らなかったので色々学んだわけですが、少なくとも大統領が政府の非を認めた10数年前からは大きく取り上げられているはずなので、フランスの人たちが見たら、そうなるかもしれない。映画には何か新しい主張があるわけでもないし、新事実を出しているわけでもない...。

私にも、インターネットの動画で見た、証人の人たちが話すことや、テレビのドキュメンタリー番組の方が興味深かったです。これらは、このシリーズ日記の情報リンクとしてURLを記録しました。

この映画は、登場人物を白か黒かに塗り分けてしまっている、という批判もありました。こういう異常な空気の中では、人々の感情はもっと複雑だったろうに、という意見。私もそう思うな...。その点、次に書く映画「サラの鍵」の方が見事です。


映画の制作風景

この映画の監督・脚本はローズ・ボッシュ(Rose Bosch)。
彼女がどのように映画を製作したかを語っている動画がありました(日本でも「Making-of」と呼びますか?):



映画では、解体されて残ってはいないパリの室内競輪場(ヴェル・ディーヴと呼ばれた)の場面が圧巻なのですが、4分の1のサイズでセットにして再現しているのですね。コンピュータで現実感を出すというテクニックも面白い。

この動画で見る監督は、かなり押し出しの強そうな女性ですね...。

今年の春、ビデオの販売促進をしなければならないのに、彼女は失言をしてしまったらしい。

「この映画を見て泣かない人は普通じゃない」という発言。今どきの甘ったれた子か、残酷なのが好きな人か... と、どんな人が泣かないかを列挙しているのですが、最後に挙げたことが問題になっていました。無感情な人、つまりヒットラーみたい人。

私などは、 テレビをつけたときに泣いている人がいたら、何がおこっているのかも分からずにもらい泣きしてしまうほど涙もろいです。でも、どんなに辛いことがあっても泣かない人はいますよ~! ヒットラーなんかに例えるのは少しいきすぎです。泣かなかった人が傷ついてしまうではないですか?! それに、映画におちどがあるかもしれないのに、そう言ってしまうのは傲慢でもあります。

ブログで彼女の長い発言をのせ、この映画を貶し、監督はナルシストだ、などと書いたブログがあったのが失言を広く知られることになったのか、彼女はその問題ページが入っているブログサイトを相手に、問題記事を取り下げ、誰が書いているのか公開しろと訴えたそうです。ブログサイトに対しては、記事取り下げるまでは1日あたり千ユーロ(約10万円)を要求して裁判をおこしたとのこと。
 
勝手に発言を一字一句のせてしまったのは著作権法で罰せる根拠があるかもしれない。でも、それ以外については、そんなに酷いことは言っていません。でも、そう言われても仕方がないという事実をつかれると、よけいに腹立たしいものになるでしょうね...。

ドメインを持ったサイトなら誰かを追跡できるのですが、それができないから問題ブログが入っているサイトを攻撃したわけです。大手ブログサイトなら裁判もできるますが、ろくな弁護士しか雇えない個人だったら負けますよ...。怖い話しですね。

彼女の発言については、あちこちのフランス語ページで取り上げられているのですが、リンクを入れないでおきます。日本にまで広めたヤツがいる、と攻撃されたらたまりませんから!

ともかく、上に入れた動画で監督のお話しを聞いて、この映画は心理描写を出すより、いま流行りの、スペクタクルとして視覚に訴える映画づくりだったかな... という感じを受けました。

映画のプロモーションも、かなりなものだったようです(私は知らなかったのだけれど)。映画公開に際しては、視聴率の高いテレビ局が2時間の特集番組を組んでいました。


蛇足:

ブログに入れる映画の動画を探していたら、60年前の名作、ルネ・クレマン監督の「禁じられた遊び」が出てきました。

あれは名作でしたね...。白黒映画時代のフランスでは、本当に良い映画を作っていた。フランス文学は複雑に揺れる心理の描写が優れているから好きなのですが(『クレーヴの奥方』以来の伝統?)、映画もその伝統を受け継いでいたと感じます。

最後はぷっつりと切れて、その先にどう展開するのか全く分からないので終わりになるというフランス映画の伝統は続いているように思いますが。

「禁じられた遊び」は心に刻みついて離れない映画でしたが、ストーリーはうろ覚えなのに気がつきました。私がヴェル・ディーヴ事件について検索していて出てきたということは、この映画もユダヤ人迫害に関係していたのだろうか?

Wikipediaの記事「禁じられた遊び」を読んでも分かりません。

インターネットにのっている映画を眺めて思い出そうとしたら、こんなのが出てきました:



映像をカットしたり早回しにしたりしているので、16分の動画の中に思い出の場面が次々と出てきます。オロオロと泣けてきました。

でも、この動画は、映画のハイライトをつないだだけで作ったのかな? ...

私の記憶では、ポーレットが「ミッシェ~ル! ミッシェール!」と叫ぶ場面で、なんともやるせない気分にさせられたところで映画が終わっていました。でも、この動画では、これはミッシェルらしき男の子が、ポーレットらしき女の子にお話しを悲しいお話しを聞かせるということになっていました。

そうだったら救われるのですが、映画ではどうだったのでしょう? ご存じの方があったら、教えてくださると嬉しいです。


次回は、ヴェル・ディーヴを扱った、もう一つの映画「サラの鍵」について書きます。

― 続く ―




内部リンク:
ナチス占領下のフランスを描いた映画「さよなら子供たち」 2010/11/06
ヴェル・ディーヴの一斉検挙に関する情報 2012/06/15
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コメント
この記事へのコメント
禁じられた遊び!
おはようございます♪
  
「禁じられた遊び」に思わず反応してしまいました!
私も、この映画、30年くらい前(小学生だった時・・・)、当時はまだビデオデッキが珍しい時代だったのですが、父がビデオを持っていまして、禁じられた遊びを録画してあったものですから、何度も観ていました。

>「禁じられた遊び」は心に刻みついて離れない映画でしたが、ストーリーはうろ覚えなのに気がつきました。

私も全く同じ!

>私の記憶では、ポーレットが「ミッシェ~ル! ミッシェール!」と叫ぶ場面

そうそう、私もこの叫び声、今でも鮮明に思い出せます。
大人になった今、もう一度、この映画見直したくなりました。

いろいろ思い出がよみがえって来て
今日は朝から、ちょっと興奮気味です。






2012/06/18 | URL | kaori  [ 編集 ]
Re: 禁じられた遊び!
v-22kaoriさんへ

kaoriさんにも思い出の映画でしたか...。

フランスで見ていたテレビに出てきた女優さんが「禁じられた遊びでポーレット役を演じたブリジット・フォッセーだ」と言われたときには、無事に育って、こんなに大きくなったの、良かったね... と、感傷的な気分になってしまいました。ポーレットの面影がそのまま残った顔だったのです。

フランスで日本人ツアーをしていたとき、バスの運転手さんがミシェルという名前だったので、みんなで「ミシェ~ル、ミシェ~ル」と切なく叫んでしまったら、運転手さんが「ど、どうしたの~?!」と焦っていました!
2012/06/19 | URL | Otium  [ 編集 ]
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