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2013/07/30
ヨーロッパの人にディジョンの話しをすると、たいてい「Moutarde de Dijon(ディジョンのマスタード)」と、その国の訛りがあるフランス語を返してくるので驚いた時期がありました。

ディジョンはブルゴーニュ公国の都だった美しい街。それなのに、ディジョンという名を聞いて、マスタードなんかを連想されるのは不快。でも、ディジョンは観光地としてよりも、高級マスタードの産地として名が知られているようなのでした。

アルザス地方のレストランで郷土料理のシュークルートを食べたとき、マスタードがついてきた一緒に食べたら非常に味がひきたつので驚きました。ブルゴーニュにいるとマスタードをやたらに使うのですが、シュークルートに合うのは想像もしていなかったのです。

それで、アルザスには特別なマスタードがあるのだろうと思って、ウエーターさんにマスタードのメーカーはどこなのか聞いてみたのでした。

そうしたら、得意げな顔で「ディジョンのマスタードです」と返事されたので、ぎゃふん! このときも、ディジョンのマスタードは優れている、という定評があるのだろうと思いました。


マスタードをたっぷり使う料理

それにしても、アルザスで味わったディジョンマスタードが美味しかったのは意外...。でも、考えてみると、こういう風に肉やソーセージにマスタードをつけて食べるという経験に乏しい私だったのでした。

イギリスやアメリカなどでは、ステーキを食べるときにマスタードをつけるのが普通なのかもしれませんが、そうする人はブルゴーニュでは多くない感じがします。マスタードは、不味いステーキは食べられるようにしますが、ステーキそのものが美味しいときは肉の味を減少させてしまいますから。

それでも、ブルゴーニュ地方ではマスタードをたくさん消費します。前回の日記で書いたサラダドレッシングでも使いますが、そんなものの消費量は知れています。

肉にまぶして焼いたりするのにマスタードを使うのです。ウサギや豚肉に使うのが定番かな。焼くとパサパサになってしまう肉にマスタードを塗ると、味が閉じ込められて見違えるように美味しくなります。

スーパーでも業務用マスタードのような大瓶が売られているのですが、こういう料理を作る人たちではないかな?...



ディジョンマスタードのポピュラーなメーカーであるアモラ社(AMORA)が作ったレシピ動画のようです。 PR用だからマスタードをたっぷり使っていると思われるかもしれませんが、フランスには、こういう風にマスタードをべったりと塗ってしまうレシピがあります。

マスタードの原料となるカラシは、ディジョン近郊でたくさん栽培されていて、ディジョン市内で生産されるマスタードは大きな生産量を誇っていたのだそう。

でも、大規模生産をする会社が市場を獲得していき、フランス企業が外国資本に負けてしまうという最近の傾向に打ちのめされています。今なお健在なのは、「ディジョンのマスタード」と呼ぶマスタードの製造法だけ...。


マスタードの語源

マスタードは、フランス語ではMoutarde(ムタルド)。英語のMustard(マスタード)は、アングロ=ノルマン語のmustarde、中世のフランス語でmostardeから来ているようです。

こうした言葉の起源には、次の2つが有力とされています。

(1) ラテン語の「mustum ardens 」から。
火が燃えるように激しい(ardens)、ブドウのしぼり汁(mustum)の意味。 フランス語にすると「moût ardent」。
古代ローマ人は、つぶしたカラシの種子をブドウの果汁に入れたので、飛び上がるようにきつかった。

(2)Moult me tarde」から 。
ブルゴーニュ公国のPhilippe le Hardi(フィリップ豪胆公)が、1383年にフランス国王の依頼で、包囲されていたフランドル公国を解放するために出陣するとき、ディジョンから兵士を調達し、旗に「Moult me tarde」の文字を入れた旗を持ち、ディジョン軍に感謝するためにに町にこの文字を使用する許可を与えた、というもの。「おおいに気がせく」という意味なのですが、「Moult me tarde de rentrer à Dijon(ディジョンに早く帰りたいと気が急く)」を意味するのでしょう。


中世には、すでにブルゴーニュはマスタードの産地としての評判があったようですが、「Moult me tarde」がつまって「Moutarde」になったという2番目の説は、ディジョンのこじつけの可能性が強いと言われています。
 

最高のディジョンマスタードを作っているのはファロー社

現在、地元ブルゴーニュでは、ディジョン・マスタードの中で最も優れたものを作っているのはファロー社(Edmond Fallot)だという、ゆるぎない地位があります。



工場で大量生産されるようになったマスタード製造会社の中で、家内工業的な小規模生産でディジョンマスタードを作っているのは、このファロー社だけなのです。

昔ながらに、カラシの種を石臼でひいているのも、ここだけ。

ディジョンマスタードやビネガーを作っているメーカーなのですが、ファロー社の工場はブルゴーニュワインのメッカ、ボーヌ市にあります。

ディジョンマスタードのメーカーは色々ありますが、ここのマスタードを味わうと、他のマスタードは何なのだろうと思うくらいに美味しいので、他社のマスタードを買う気にはなりません。

ファローのマスタードは小規模生産なので、日本にはほとんど入っていない感じがします。

ネットショップで探せば、この会社が作っているマスタードのバリエーションがいくらか見つかります:
ファロ社のマスタードを楽天市場で検索


ファロー社を見学したときのこと

お気に入りのメーカーなので、見学したことがありました。いきなり行ってもだめで、 ツーリストオフィスで時間を指定して予約する必要がありました。

ファロー社の創業は1840年なのだそう。今では近代化されているのですが、昔に工場で使っていた道具がミニ博物館のように展示されているので興味深かったです。



ガイドさんが、マスタードについて詳しく説明してくれました。

色々なことを学んだのに、すぐにブログにメモしなかったので忘れてしまったのが残念...。

でも、私が行ったときには工場での生産過程の見学は翌年にできるようになると言われたので、また行き直そうと思っていたのでした。

マスタードづくりの体験もします。

単純にマスタードを作るなら、小道具の石臼でできてしまうのでした。



できあがったら、少し寝かせて熟成させる必要があるそうで、マスタードの味見は完成品で行われました。



実は、このヴィジットの参加費は一人10ユーロ。 確認したら、今でも値上がりはしていませんでした。10歳以上の子どもは8ユーロ。

子どもにマスタードのことを学ばせようという親が、子ども2人連れて行ったら、5,000円くらい支払うことになります。ちょっと高すぎませんか?

日本で工場見学するといったら、PRなのだから無料なのが普通ではないかと思って、私は不満だったのですが、最後の試食で満足。 マスタードの風味を違いを色々と味わえました。

小さな会社なので、従業員が試食のお皿を用意することなどできないはずで、ケータリングを利用していると思います。とすると、入場料くらいは費用がかかってしまうでしょうね。

最後にマスタードの小瓶をお土産にしてくれたので、ヴィジットが高すぎると思っていた気持ちは消えました。

見学が終わったときには商品を並べている場所に入りました。たくさん買いたがった見学者が多かったのですが、在庫がない! 本当に家内工業的な会社なのだな...、と好感を持ちました。

ファロー社(Moutarderie Fallot)についての動画があったので入れます:




ディジョンの観光スポットになっているマスタードの店

日本で有名なディジョン・マスタードといったら、マイユMaille)の方ではないでしょうか?

検索したら、日本語で書かれたラベルの商品もあるので驚きました! そんなにたくさん日本に入っているのですか?...

マイユのマスタードを楽天市場で検索

ディジョンの町にはマイユの美しいブティックがあるので、日本の観光ガイドブックにも書いてあると思います。

ブルゴーニュ地方、コート・ドール県の県庁所在地ディジョンに行ったら、ここに行くと良いですよ、という感じで。

言い伝えによれば、1720年にマルセイユでペストが大流行したとき、アントワーヌ・マイユ氏がペストの予防薬として考案したビネガーが評判を呼んだのがマイユ社の始まりなのだそう。

ディジョン市にあるマイユの店は、1845年に開店。 美しい旧市街をつらぬく目抜き通りに、マイユの古めかしい店があります。



店のショーウインドーには古いマスタードの壺のコレクションが並んでいて、観光スポットに相応しい場所でした。ところが最近は模様替え。コレクションはほとんどなくなってしまって、現代的で派手な店構えになったので、写真をとっても面白くなりました。ここに入れたのは、昔の店構えで、2004年に撮影しています。

でも、内部に入れば、今でもて美しい内装ではないかと思います。

この店では買えるフレッシュなマスタードは、瓶詰めとは全く違った風味があって素晴らしいです。日本のカラシやワサビを思わせる鋭い風味なのです。

フレッシュ・マスタードは、生ビールのような装置でマスタードを絞り出してくれます。



普通のマイユの瓶詰めなら、スーパーで買った方が安いのかもしれないけれど、観光客は行く価値がある、と思うのはパッケージ。マスタードなんて安い商品なのに、美しく包装してくれるのです。



日本だったら、きれいに包装してくれるのは何でもないことですが、フランスではよほどの高級店に行かないと、こんな風に器用に包める店員さんはいません!


ディジョン市内で生産されるディジョンマスタードは、3年前からなくなった

フランスでは、王手企業が勢力を伸ばし、さらに国際競争にも次々と敗れています。

フレンチマスタードの王者ディジョンマスタードにしても、しかり。マイユは、古い歴史を持つアモラ社(Amora)を吸収して、現在ではAmora Mailleというのが会社名。 この企業は1996年にダノンに合併されましたが、1999年にはUnilever(ユニリーバ)に買収されています。ユニリーバは、一般消費財メーカーとしては世界第3位に位置する、オランダとイギリスに本拠を置く多国籍企業。

こんなことを書いたのは、ディジョンの友達が、「マイユはオランダのマスタードだからね...」と言っていたので、調べてみたかったからです。

マイユのオフィシャルサイトには日本語ページもあって、充実した情報を載せています。でも、気になったのはサイトに入っていた「豆知識」のページ。

「ディジョンマスタードとは?」と題して説明があるのですが、次のように書かれているのです:

ペースト状のマスタードの代表的存在として『ディジョンマスタード』があります。マスタードの都として名高いブルゴーニュ地方のディジョンでは、現在でも全世界のペースト状マスタードの約半分、フランス全体の80%が製造されています。...

ひっかかったのは、ディジョンでマスタードが製造されている、という点。 ちなみに、フランス語ページでは同様の文章は見つかりませんでした。

「ディジョン」を「ブルゴーニュ地方」と置き換えれば間違ってはいないはず。フランス国内で生産されるマスタードの90%がブルゴーニュ地方で生産される、と記載しているフランス語サイトの記述がありましたので。

でも、ディジョン市内に残っていた唯一のマスタード工場は、2009年に閉鎖されています。だから、現在、ブルゴーニュの行政中心地である大都市ディジョン市内には、マスタードを製造する工場は存在しません。

最後に残っていたディジョン市内のマスタード工場は、マイユ社が吸収した旧アモラ社(Amora)の施設でした。2009年の夏に工場は閉鎖され、ディジョンから15キロくらい離れた郊外に移転しました。 日本の感覚からいえば、その程度の距離は同じ市町村と認識しても抵抗はないのですが。

もちろん、アモラの工場閉鎖が閉鎖されると分かった当時、ディジョンの人たちはそういう事態になることに大反対。

アモラのマスタードは、ディジョンで商標登録をしたのがマイユのブティック開店より前の1919年だし、1939年にはフランス市場で最大の生産量を誇ったそうなので、ディジョンの人たちにはアモラのマスタードに思い入れがあるのでしょう。

当時、ディジョン市役所の建物であり、昔はブルゴーニュ公国の宮殿だった部分にある階段には、工場移転反対をアピールする飾りつけになっていました。


2009年2月撮影

この美しい階段がそんな風に変身したのは、前にも後にも見たことがありません。市としても、市民と一緒に工場移転に反対を訴えたのでしょう。

でも、企業の決断を市民のセンチメンタルな感情で動かすことはできません。昔の運送手段として、ディジョン市の外れにある運河のほとりにあったアモラの工場は便利だったわけですが、そんなメリットは現代では無意味ですから、移転も仕方なかっただろうと思います。


ディジョンマスタードと呼ぶのだけれど...

ディジョンのマスタード(Moutarde de Dijon)は不幸を背負った、とも言われます。

フランスには原産地統制呼称(AOC: アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)があって、食品の原産地を特定し、さらに製造法も厳しく規制する品質保証制度があります。

ところが、ディジョンマスタードはAOCを獲得していません。

ディジョンマスタードと呼んで売るための条件は、1937年のデクレで定めた原料と製造法だけ。従って、その製造法に従って作ったマスタードなら、ディジョンで生産されるか、ブルゴーニュで生産されるかは全く問われないわけです。

日本産でも、ディジョンマスタードと呼んで商品化できてしまうわけですね。

フランスの食品は、名称を使うことにこだわることが多くのですけど。

例えば、シャンパーニュ地方で生産されたスパークリングワインでないと「シャンパン(フランス語ではシャンパーニュ)」と呼んではいけないとか、コニャック地方で生産されたブランデーでないと「コニャック」と呼んではいけないとかがあります。

町の名前をとって「ディジョン・マスタード」などと呼ばないで、「ブルゴーニュ・マスタード」としていたら、AOCを獲得することができたかも知れないのに...。

現在、フランス産のマスタードで使われる原料のカラシは、8割がカナダから輸出されているのだそう。その他、アメリカ、ハンガリー、ルーマニア、デンマークからも。

ブルゴーニュ地方で生産されているカラシの畑は、3,150ヘクタールなのだそうです(2009年)。

菜の花と見分けが難しそうなカラシの花。ブルゴーニュにいながら、マスタードの原料の畑を見たことがありません。あるいは、たとえ見ていても菜の花畑だと思ったはず。


ブルゴーニュ・マスタードができた

私がお気に入りにしているマスタードメーカーのファロー社では、最近、「Moutarde de Bourgogne(ブルゴーニュ・マスタード)」と呼ぶマスタードを作りました。

ブルゴーニュ地方で生産されたカラシの種、ブルゴーニュのAOC白ワインを使うという、100%ブルゴーニュ産のマスタード。

欧州連合の品質保証である「保護指定地域表示(IGP: Indication géographique protégée)」を獲得しています。

ブルゴーニュ・マスタードを楽天市場で検索

もちろんブルゴーニュ・マスタードを買いましたが、数々あるファローのマスタードの中で、これは飛びぬけて好きという気にはなりませんでした。ファローのマスタードは、たとえカナダの種を使っていても美味しいので!

でも、本物のディジョンマスタードに執着するなら、これしかないという貴重なプロダクトではあります。

2009年にディジョンにあったアモラの工場が閉鎖されてから、ファロー社は頑張っている感じがします。あるいは、ディジョンの人たちが、小規模生産で本物のディジョンマスタードを作っているファローを守ろうという気になってきたのか?...

それまでは、数あるマスタードメーカーの商品の中で、ファローのマスタードを見つけるには苦労していたのですが、最近はディジョンの土産物屋さんでもよく見かけるし、良い食材を扱う店では、必ずファローのマスタードを置くようになったと感じるのです。


最後に、フランスで工場生産されるマスタードの製造過程を見せる動画があったので入れておきます。大量生産される食品には魅力を感じないけれど、マスタードがどういう風に作られるのかよく分るので。


Moutarde preparée - comment c'est fait ? par diem-perdidi


マスタードの話しの続き:
イギリスのレストランに置いてあるフレンチマスタードって、何なの?




ブログ内リンク:
ディジョンの目抜き通りが歩行者天国になった祭り 2013/05/20
★ 目次: ブルゴーニュの古都ディジョンの観光スポットや特産品など
★ 目次: フランスで食べる郷土料理、地方特産食品、外国料理
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
★ 目次: プレゼントや土産物に関して書いた記事

外部リンク:
☆ Musée de la Vie bourguignonne: Il n'est moutarde qu'à Dijon ?
Dijon moutarde - son histoire, la technique de fabrication
La moutarde de Dijon vient du Canada
La moutarde, de Dijon ? Plus vraiment !
Amora Dijon ferme définitivement ses portes après deux siècles d’activité
La moutarde de Dijon
Comment Unilever veut faire de Maille une marque milliardaire
☆ オフィシャルサイト: La Moutarderie Fallot


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