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2013/10/03
先日の日記でクイズを出しました:
クイズ: これは何でしょう? - 城のダイニングルームにあったもの  2013/09/26

戸棚の上に置いてあるアンティークは何でしょうというクイズだったのですが、大きさが分かるために人が入っている写真を入れます。



これが何であるか考えてくださった皆さま、どうもありがとうございます♪  みごとにコメントで正解を出してくださった方が2名ありました。

コメントのうち、正解がでたコメントは未開封のままで、なにげないヒントとして、これが何であるかの説明の前半を書いていました:
キリスト教にとってのパンとワイン  2013/09/30

これが何であるか答えを出してくださっても、腑に落ちないと思われた方もいらしたので、後半の説明を入れます。未開封にしていた正解コメントも開きます。


正解は、パンを保存する戸棚

クイズに出した立派な家具は、昔のフランスで使われていたパンを入れる戸棚でした。前回の日記(キリスト教にとってのパンとワイン)で書いたように、パンはイエスの体を象徴する神聖なもの。それで、パンを入れるために、こんな立派な戸棚を作ってしまったのでしょう。

フランスではPanetièreパヌティエール)と呼ばれる戸棚です。 仏和辞典では「(食堂の)パン戸棚」と訳していました。巡礼や羊飼いが持つパン袋も同じ用語なのだそうですが。

日本にいたときにキリスト教をほんの少し学ぶ機会があったのですが、キリスト教にパンとワインが深くかかわっていると意識するようになったのは、フランスに来てからです。そもそも「日々の糧」と聞いても、それがパンだとは思わないではないですか?

クリスチャンの方には、この家具を見ただけですぐにお分かりになるようです。

教会に置くとしたら、ミサのときにパンを聖別して信者に与える聖体を入れるという答えもありました。 Pyx four leaves MNMA Cl14790

でも、この家具の壁面は柵なので、パンを象徴する薄くて小さな聖体(ホスチア)を入れたら、柵からはみ出してきてしまうと思うのです。

パン戸棚の解体図が入っているページ

聖体は壺に入れてから戸棚にしまうという方法もありますが、この戸棚の入口は小さいので不便なはず。 壺を入れるとしたら、前面が全て開く戸棚にしたと思います。

聖体を入れる容器(右の画像)は、フランス語ではPyxideと呼ぶのだそうです。


昔のフランスで食べていたパンは、バゲットではなかった

クイズで使ったようなパン戸棚は、フランスでは第一次世界戦争が終わった時期くらいまで使われていたそうです。

この戸棚にパンを入れるとしても、フランスパンは入れにくいだろうと感じるかもしれません。昔のフランスで普通に食べられていたのは、フランスパンの代表として知られている細長いバゲットではなかったのです。

Miche de pain右に入れたパンは、昔のフランスで食べられていた代表的なパンです。

Wikipediaからもらった画像なのですが、「Micheミッシュ)」と呼ばれる丸くて大きなパン。

1個の重さは約1.7キロと説明がされていました。

大きなフランスパンは1週間くらいたっても食べられますが、バゲットは焼いた翌日には固くなって、翌々日になるともう食べられなくなります。

つまり、バゲットは、毎日パンを買わせようとしたパン屋の発明?

今日のフランスで食べるパンとしてはバゲッドが最も多いのですが、バゲットが登場したのは大都会パリで、19世紀末です。

伝統的な日持ちのするパンよりもバゲットの方が売れるようになったのは、1920年代と言われます。田舎にバゲットが普及したのはもっと後になってから。 丸くなくて細長いパンが好きだとしても、大きなパンがありますので。

今日でもミッシュとかパン・ド・カンパーニュとかいう名で売られている大きなパンは、数日たっても問題なく食べられます。

昔のフランスには、共同で使えるパン焼き窯もありましたし(下の左と中央の写真)、農家など自宅にパン焼き窯がある田舎の家庭では、日曜日にパンをたくさん焼き、次の日曜日が来るまで食べていました。

着飾ってミサに行く日曜日。焼きたてのパンを食べることも、特別な日である印象を与えたことでしょう。

Four à pain  

つまり、パン屋で簡単にパンを買うわけにはいかない時代は、クイズにしたような戸棚があって、幾つものパンをしまっていました。

アンティークのパン戸棚に大きなパンを重ねて入れたから、扉を開けて上から1つずつ取り出すので便利だっただろうと思います。


昔のフランス家庭では、丸い大きなパンをお父さんが胸に抱えて、家族に切り分けたのだそうです。

切り分ける前には、パンにナイフで十字を入れる風習がありました。

つまり、パンは神聖なものだったのでしょうね。

今日は、パン屋さんが十字模様を入れて焼いたものも売られています。


パヌティエールと呼ぶパン戸棚

クイズにした美しいパン戸棚は、フランスではPanetièreパヌティエール)と呼ばれます。

ちなみに、パヌティエールは女性名詞なのですが、panetierと男性系にすると、昔の学校や兵営などのパン配給係り、王室のパン焼き役になります。 フランス語では、職業の名前が男性系で、その女性形は道具の名前というのが多いのです。

Panetière Museon Arlaten質素なパン戸棚もあるのですが、装飾的にも立派なのはプロヴァンス風パン戸棚(Panetière provençale)と呼んで特定しているようです。

Googleフランスで画像検索した結果:
「panetière」を検索
「Panetière provençale」で検索

戸棚の横幅は80センチくらいのが多いようでした。
大きなパンが幾つ入るのか?...

でも、こんな贅沢な調度品は、豊かな家庭が使っていたものだろうと思います。大家族の農家が1週間食べられる大量のパンを保存するには小さすぎたでしょう。

柵で覆われているのは、パンが腐らないように通風を良くするため。

ネズミが入り込まないようにするために、足がついていました。 そんなくらいでネズミが入らないかなと思うのですが、足の高さは計算していたのでしょうね。

【追記】
コメントをいただいて気がついたのですが、豪華なパン戸棚は富の象徴でもあっただろうと思いました。


プロヴァンス風パン戸棚は17世紀に登場しています。

18世紀にフランスの他の地方にも広がり、19世紀に爆発的に普及しました。置くのではなくて、壁に掛けられるスタイルも多くなったようですが、それでも伝統を重んじるために足は残しています。

フランスでは、第一次世界大戦後まで使われていたようです。その頃から、家庭や共同のパン焼き窯で焼いたパンを1週間も保存したりはせず、毎日パンを買うようになってからパン戸棚が必要になくなったということになるでしょう。


このような美しいパン戸棚は、アンティークショップでは人気のアイテムのようです。 画像が入っているページへのリンクを入れます:

Panetière Provençale en Noyer Epoque XVIIIème  (1,050ユーロ)
アンティークショップでPanetièreを検索
  ⇒ 
Panetière provencale en noyer (1,500ユーロ)
Panetière Provençale, Époque Xviiième Siècle  (2,500ユーロ)

書いた数字はアンティークショップで売っていた値段。20万円前後という感じですね。


昔のフランス人はたくさんパンを食べていた

18世紀、庶民はパンで主なカロリーをとっていて、1人1日あたり1キロも食べていたのだそう。

19世紀にはパンでお腹を膨らませる必要はなくなって消費が減り、現在のフランス人は1日に平均150グラムしか食べないのだそうです。130グラム、160グラムという記述もありました。

20世紀初頭のパンの消費に比べても、5分の1に減少しています。

バゲットの重さは200グラムから250グラム。朝昼晩で、1人がバゲット1本分も食べないというのは信じられない気がするのですけれど、そんなものかな...。

パヌティエールとよぶン戸棚に実用性はなくなったのですが、フランス人の食事にはパンが欠かせないので、現代風のパン戸棚や、バゲットを入れて台所に下げておく布製の袋などがあります。

パンを入れる戸棚でも、美しくない現代風のものはパヌティエール(panetière)とは呼ばず、 huche à pain(パン櫃) と呼ぶように感じました。高さ80センチ、横幅40センチくらいの、バゲットを入れるのに適した箱が典型的な形のようです。

huche à painの画像をGoogleで検索


フランス人は何にでも鍵をかけたがる?

アルフォンス・ドーデはプロヴァンス的なユーモアで、このパヌティエールのことをこう表現したのだそうです。
「腕が入る広い格子と金庫の錠前」

クイズにしたパン戸棚は、中に入れるものは丸見えなのに、鍵付きの扉があるのも特徴の1つだと思うので、そこをアップした写真を入れてみます。



パン戸棚の鍵はお父さんが持っていたという人もいたのですが、どこの家でもそうだったのかはわかりません。

鍵をかけておくのは、昔は大家族だったし、使用人も家の中にいましたから、盗まれないようにということがあったかも知れない。1週間に1回しか家でパンを焼かないとしたら、その次にパンを焼くまでの間になくなってしまったら困るので、子どものつまみ食いもさせなかったかのかな?...

でも、フランスの昔の家具というのは、衣装ダンスもそうだし、食器戸棚もそうですが、扉ごとに鍵がついています。扉を開けるための取っ手がないので、鍵を引っ張って開けることになります。

もちろん、イケアで売っているような現代風の安い家具、日本と同じように取っ手が付いています。でも、フランス人は古めかしい家具が好きなので、鍵が取っ手代わりの家具は非常に多いです。アンティーク家具でも、さすがに引き出しには取っ手がついていますが、2つの引き出しの間に鍵をつけたりしている。

普通の大きさのアンティーク調の食器戸棚に付いている鍵を数えてみたら、8つでした。1軒の家にある鍵を全部数えたら、どのくらいあるのだろう? ありすぎるので、数えてみる気もしません!

もしも鍵をかけて、それをどこかにしまったら、扉を開ける度に鍵を探すことになる。家具に鍵をかけているフランス人はいないと思います。でも、邪魔だからと鍵を抜いてしまったら、扉が開けることができないので、付けたままにしています。変なの...。

当然ながら、鍵を真っ直ぐに引っ張ると、鍵穴から鍵が抜けてしまいます。どうして取っ手をつけないのか、ずっと不思議に思っています。私はよく鍵を引き抜いてしまって、勢いがあまると鍵は家具の下に転がってしまったりするので、不便で仕方ないシステムだと恨みに思っているので!

フランス人は鍵をかけるのが好きではないかと思っていること、フランスにある扉が開けにくいことは、書くと長くなるので別の機会にします。


クイズ: これは何でしょう? - 城のダイニングルームにあったもの
クイズの出題
   ⇒ ヒント   ⇒ 解答

ブログ内リンク:
★ 目次: アンティーク、蚤の市などについて書いた記事
★ 目次: パン、パン屋、昔のパン焼き窯など
★ 目次: フランスで感じるキリスト教文化
★ 目次: クイズを出した記事一覧

外部リンク:
Quand le pain avait son écrin  la panetière
La panetière, le meuble provençal
☆ Wikipédia: Panetière provençale
☆ Wikipédia: Panetière
Le Dictionnaire Pratique de Menuiserie - Ebénisterie - Charpente: Panetière
Une brève histoire de la baguette en France
Consommation de baguettes de pain en France
☆ 仏農水省: Les Français gros mangeurs de pain


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コメント
この記事へのコメント
おぉ!
戸棚の中にはパンが入っていたのですね!
なるほど~!棚の足はネズミ防止のための猫足とはなんて洒落ているんでしょう~!(笑)
バゲットが結構最近のものだということを知りました。
確かにパン屋さんには十字に切り込みの入っているパンがありますね。その歴史はこういうことだったんですね。ほぉ~!
本当にOtiumさんのブログで楽しくフランスのことを知ることができて嬉しいです!
鍵…本当にフランス人は鍵が好きなのかもしれませんね。
蚤の市に行っても小さな鍵から大きな鍵とかいろいろあるので驚きます。

2013/10/03 | URL | pepe犬  [ 編集 ]
しまった〜
出遅れてしまいました〜
答えを見ないで想像したら、ほぼ当たってました〜
ちゃんと参加して解きたかった!

しかし、ちょっと足がついたくらいではネズミには何と言う事もないと思うのですが…。だって少々のところはやすやすとのぼりますよ〜
2013/10/03 | URL | すぎちゃん  [ 編集 ]
Re: おぉ!
v-22 pepe犬さんへ

>棚の足はネズミ防止のための猫足とはなんて洒落ているんでしょう~!(笑)
⇒ 猫足というのは連想していませんでした!♪ ルイ○○様式とかナポレオン様式とか色々ありますが、猫足と表現できるカーブした足がある家具が一番好きです。

>鍵…本当にフランス人は鍵が好きなのかもしれませんね。
⇒ なんでこんなに鍵をかけるのだろうと思ってしまうのです。最近は思わないように自分に言い聞かせているのですが、鍵を20個ぐらいをジャラジャラと持っている人を見ると、空き巣狙いが職業の人かと瞬時に思ってしまう私でした。日本でも昔は米が貴重なエネルギー源だったはずですが、米びつに鍵をかけたりはしなかったと思うのですけど...。
2013/10/03 | URL | Otium  [ 編集 ]
Re: しまった〜
v-21 すぎちゃんへ

>答えを見ないで想像したら、ほぼ当たってました〜
⇒ クイズを出すとほぼ100%正解を出してくるすぎちゃんだったら、これをご覧になったことがなくても、答えをだしてくるのではないかと興味を持っていました。ご連絡して、「あの..」と控えめに切り出して、「クイズを出したのですけど、見ていただけませんか?...」と言ってみたかったのですが、遠慮していました。

どうして分ってしまうの?! というのが、いつもクイズに答えを入れてくださる「すぎちゃん」の反応だったのですが、今回は「をやぢさん」のコメントで同じ思いをしました。

>ちょっと足がついたくらいではネズミには何と言う事もないと思うのですが…。だって少々のところはやすやすとのぼりますよ〜
⇒ これは私にも疑問でした。ツルツルの木面だと、ネズミが這い上がれないのかどうかを実験できないのが残念! 猫たちがどこかで捕まえたネズミを家の中につれてくるのですが、必死の鼠はどこにでも入り込む。

柵の隙間から入りこめないにしても、顔を突っ込んだところから少しかじるくらいはできそうに思う。ネズミにかじられたパンを食べるのは楽しくはないと思うのだけれど、そんなのは気にしなかったのかな?... あるいは、このパン戸棚を置く部屋はしっかりと締めていたので安全だったのかな?... つい最近見学した城で、昔にリンゴを保存した部屋を見たのですが、やはりネズミが入らないように部屋を密封する配慮をしていました。
2013/10/03 | URL | Otium  [ 編集 ]
さらに詳細な解説、恐れ入りました。ネズ子が入りそうな危険をも顧みず、装飾性の高いパンティエールにパンを入れたのは、やはりステイタスだったのでしょうね。いつもパンがぎっしり入っているパンティエールは豊かさの象徴だったのかも知れません。
2013/10/04 | URL | をやぢ  [ 編集 ]
Re:
v-22 をやぢさんへ

クイズを考えてくださった方があったのに励まされて、前々から興味を持っていたことを調べることができました。ありがとうございます。

>ネズ子が入りそうな危険をも顧みず、
⇒ 実用重視のパン戸棚は、壁にかけているものが多かったようです。

>装飾性の高いパンティエールにパンを入れたのは、やはりステイタスだったのでしょうね。いつもパンがぎっしり入っているパンティエールは豊かさの象徴だったのかも知れません。
⇒ このお言葉、目からうろこです! 実は、このパン戸棚はお客様を招待したときに使うであろう食堂に飾ってあったのですが、本来はダイニングキッチンに置くものなのではないかとも思っていたのです。でも、パンがぎっしり入っている戸棚を思い浮かべたら、当時の生活ぶりが目に浮かんできて、豊かさを象徴する効果があるのでダイニングルームに飾っていたかなという気がしてきました。
2013/10/04 | URL | Otium  [ 編集 ]
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