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2013/11/30
前回の日記「食べ物にこだわるフランスならではの伝統?」で、フランスでおこなわれる果物を何ヵ月も保存する棚について書きました。

ご紹介したのはリンゴや梨を並べて長期保存するために使われた棚で、右の写真のようになっています。

何でもない棚に見えますが、棚板は果物を置く穴があるか、スノコ状に細木を渡してあります。

それを書きながら、パリから35Kmくらいのところにあるブルトイユ城(Château de Breteuil) を見学したときには、もっと珍しい果物保存棚を見ていたことを思い出しました。


ワインではなくて、果物として食べるブドウを貯蔵する棚

リンゴや梨を貯蔵する棚とは違って、ひな壇のような形になっている果物保存棚でした。 これは、ワインにするのではなくて、果物として食べるブドウを保存する棚なのでした。



大きな特徴は、ブドウひと房ごとに花瓶のようなものが付いています。

この棚の説明パネル ↓



リンゴや梨は並べておけば良いのですが、こちらは手がこんでいます。

ブドウを保存するには、枝がついた房をとり、その枝を小さな花瓶のような容器に入れて水を吸わせるという方法をとるのです。瓶の中には、雨水、木炭、ひと摘まみの塩を入れた、と説明されています。

リンゴや梨は、じょうずに保存すれば、収穫後から何ヵ月もたっても食べられるというのは想像できるのですが、ブドウも長期保存できるというのは驚きです。

水を吸わせるのは必要でしょうね。ブドウをただ置いておいたら、干しブドウになってしまうでしょうから!

園芸サイトに入っていた写真 ↓

http://www.rustica.fr/articles-jardin/fruits-et-verger/stocker-fruits-tout-l-hiver,2052.html 
Stocker les fruits tout l’hiver


19世紀に発明されたブドウ貯蔵法

果物を保存する棚はフランス語でfruitierと呼ぶので、その単語から何か情報が出てくるのではないかと調べてみたら、Wikipediaで私がブルトイユ城で見たブドウ貯蔵法が紹介されているので驚きました。

フルーツとして食べるブドウのchasselas de Thomeryという品種についてのページに入っていました。

Chasselas doréこれは、パリ首都圏にあるThomery(トムリー)という町の名が付いた品種。

ここは昔からブドウの産地だったのですが、1730年近くにあるフォンテーヌブロー城のブドウ棚からブドウを移植します。それで、このブドウは「Chasselas doré de Fontainebleau (フォンテーヌブローの黄金のシャスラ)」という名もついていました。

シャスラはワインにもされている品種なのですが、この土地では上質のワインを作れるブドウが育たないので、果実として食べるブドウにされました。さらに、壁につたわせて育てると栽培法も開発されていきます。

収穫したブドウは、シダの葉をしいた棚の上に並べて保存しましたが、せいぜい1ヵ月くらいしかもちません。

19世紀半ば、ブドウを数カ月も新鮮な状態で保管する方法が考えだされ、この地のブドウは脚光を浴び、地元の経済をうるおしました。

それが、 ブドウのrafle(花梗: かこう)に水を吸わせて貯蔵するという方法。

1860年5月にパリで園芸展が行われたときには、この方法で前年の9月に収穫したブドウを保存していたものが新鮮だと驚かせました。

この貯蔵法は、rafles fraîches、rafles vertesと呼ばれていました。

ブドウの貯蔵装置を説明する図です。

Chasselas de Thomery Sarment fiole 
Conservation des raisins à rafle fraîche dans des fioles contenant de l'eau (Rose Charmeux (1863), fig.37, p.80)

※ この図は、ネットで全文が読めるRose Charmeux著『Culture du chasselas a Thomery(1863年)』 に入っています。

手間は非常にかかるでしょうけれど、時期外れのブドウはとても高い値段で売れたので良かったのでしょう。


トムリー町のブドウ貯蔵室

トムリーのシャスラは超高級品としてもてはやされました。ヨーロッパ諸国はもとより、ロシアにまで輸出されていたのだそう。

トムリーの家々では、屋根裏部屋や地下セラーでブドウ貯蔵をしました。通風や光があり、温度は10度くらいが良いなど、環境を整える必要があったようです。花瓶の素材も、始めは亜鉛、炻器(せっき)になり、1865年からは45度傾いた木の棚を使うなど改良がくわえられました。1877年に特許を取得。

この貯蔵方法は他でも使われるようになり、1970年代まで行われたようです。

時代の変化には勝てず、今ではトムリーのブドウ栽培も姿を消してきているようです。貯蔵棚も多くが姿を消してしまったのですが、トムリー町では「Chambre à raisins」と呼ばれる昔のブドウ貯蔵室をガイド付きで見学できるのだそうです。

こういう部屋を見学できるようです ↓

http://fr.topic-topos.com/chambre-a-raisin-thomery 
Chambre à raisin, Thomery

今でも昔の貯蔵室を使ている人もいるそうで、友人の家で見たという報告がありました(こちらのブログ)。1月中旬のことですが、ブドウは甘くておいしかったとのこと。

http://malou77.over-blog.com/article-5306801.html 
Chambre à raisin - Passion Broderie

使われていた昔のガラス瓶は、アンティークとして価値がありそうに見えました(瓶のアップの写真が入ったページ)。

瓶の画像を探していたら、南仏のシャトーホテルでインテリアとしてブドウ保存棚を使っている写真がでてきました。ホテル経営者が骨董品蒐集の趣味があるとのことなので、コレクションのようです。でも、なかなかお見事(こちらのページ)。 ブドウを貯蔵するためのものだったと知らなかったら、化学の実験用の瓶が並んでいるのかと思ってしまう。


20世紀初頭の姿

ありし日のトムリーの様子を見せる動画がありました。1928年の映像なので音声は出ないのですが、ブドウ畑の手入れ、ブドウを貯蔵する場面、カゴ詰め作業を見ることができます。


La production du raisin de table : chasselas de plein air (1928年)

カゴの立派さから見て、相当な高級品だったのだろうと想像がつきます。それにしても、昔のフランス人はよく働いたのですね...。


実験してみようかな...

といっても、ブドウを保存してみようと思ったのではありません。リンゴの保存だって、やってみる気にならなかった私ですから、こちらはもっとむずかしそう。

水に石炭を入れた瓶で保管するという方法なわけですが、これは水が腐らないためでしょう?

としたら、花を花瓶に活けたときにもしたら効果があるかもしれない。

切り花を買ったとき、花瓶の水に加えるようにという小袋を付けてくれたりするのですが、そういうのと同じ原理なのではないかな?...

瓶に入れる水には木炭が必要なのですが、フランスではバーベキュー用として常にストックがあるのですから、材料には事欠きません。


追記

ブドウを保存する風習が南仏にあるとして、ブドウ貯蔵棚の写真を入れたブログが偶然出てきました:
La Saint Blaise à Valbonne

この地方では、ブドウの貯蔵室のことをChambre d'Amourと呼ぶのだそう。「愛を交わす寝室」と受け取ってしまいそうな命名ですが、保存している間には傷んだ実がないか、水がなくなっていないかなどをチェックする必要があり、つまりは愛を傾けないとできないからなのだとのことでした。

プロヴァンスのクリスマスではデザートを13種類食べる風習があり、時期外れのブドウもそれに加わったということでした。ブログは2月3日の祭りのときのもので、貯蔵しているブドウはきれいなものでした。

貯蔵室にchambreという単語を使うのはトムリーと同じで、やはり水の中には木炭を入れていました。



前回の日記「食べ物にこだわるフランスならではの伝統?」で詳しく書いたように、果物を貯蔵室に入れて、何ヵ月も後まで新鮮なものを食べるという方法が考えだされていたわけですが、私は日本でも同じ方法で行われていたのだろうかということにも興味がありました。

探してみたら日本独特の貯蔵方法もあったのですが、面白いことを発見しました。それを続きで書きました:
フランスの果実長期保存へのこだわりが、近代的な存技術を生んだ?

 シリーズ記事: フランスの伝統的な果物貯蔵方法 【目次





外部リンク:
☆ Wikipédia: Chasselas de Thomery
☆ Mairie de thomery:  Lieux à visiter » Une chambre à raisin
ブルトイユ城
☆ YouTube: Le château de breteuil
☆ YouTube: Château de Breteuil - Alain l'enchanteur


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コメント
この記事へのコメント
La production du raisin de tableのムービーは大変勉強になりました。壁面栽培の葡萄手入れの大変さ、薬剤散布から摘果、箱詰めまで興味深く見ることが出来ました。それにしても随分ギュウギュウ詰めるんですね。葡萄に傷が付かないかハラハラしました。
2013/12/01 | URL | をやぢ  [ 編集 ]
Re:
v-22 をやぢさんへ

INA(フランス国立視聴覚研究所)所蔵のビデオ、気に入っていただけたとは嬉しいです。膨大な歴史的映像をインターネットで無料公開を始めたときには、フランスは文化の国と言われるに相応しいと思いました。

>随分ギュウギュウ詰めるんですね。葡萄に傷が付かないかハラハラしました。
⇒ 日本だったら、高級品は上げ底にするのにな...と思ったり、日本人のように器用ではない人たちなのに大丈夫なのだろうかとハラハラしながら見ました(笑)。
2013/12/01 | URL | Otium  [ 編集 ]
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