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2013/12/17
フランスの行政区分はどうなっているの? と聞かれることがあるのですが、「ゴチャゴチャになっている」としか答えられません。どういう風にややっこしくなっているのか箇条書きにしただけ書き出しても、それで今日の日記は終わってしまうので省略。

Frontiere francaise 985 1947 small現在の行政区分のあちこちに二重構造があって複雑になっているだけではなくて、昔の地域区分も分っていないと理解できないことが多いので困ります。

でも、それは日本でも同じでしょうね。

例えば、信濃=長野とも言えないのだろうなと思いながらWikipediaを見たら、信濃国には、長野県のほかに岐阜県中津川市の一部も含まれると書いてありました。

さらに信州を調べたら、「日本の令制国の一つ、信濃国の別称。現在の長野県」と書いてある。中津川はどうしてくれるの?! 実際には、もっと複雑な歴史と背景があるようですね(信濃の由来)。

角度を変えて、特産物サイトで信州蕎麦の説明をみたら、長野県のソバだと書いてある。

名産・特産の「信州そば」と表示できる基準も見つかりました(こちら)。

でも、他の地域、さらには外国産そば粉を使うのは当然許されているはず。

さらに、長野県以外のところで製造しても、信州蕎麦だと名乗ることが可能ではないでしょうか?

長野県信州そば協同組合のサイトがあったのですが、目くじらをたてて「本物の信州蕎麦はこれです」というアピールはしていません。それどころか、信州ソバとは何かの規定さえ見つけることができませんでした。


フランスの特産物に関する規定

フランスの場合はAOC(原産地呼称統制)という食品の品質保証があり、それで定められた特産品に関しては曖昧さは許されません。

第一に、生産地域が限定されています。前々回の日記「シャンパンの産地、オーブ県のワイン醸造者暴動(1911年)」から始まって、その出来事の背景を探っているのですが、ここでも地域区分の問題がからんでいました。

調べていたら、シャンパンに関する意外なことを学びました。今日は、そのうちの1つ、シャンパンの産地とされているシャンパーニュ地方とは、どの地域を指すのかの問題を扱います。

シャンパンには、厳しく産地や製造法を規定するAOC(原産地呼称統制)の規定があります。これをクリアーしていないのに「シャンパン(フランス語ではシャンパーニュ)」として市場に出せば、違法行為になって罰せられます。

シャンパンの大前提は、AOCに定められた地域で栽培されたブドウを使って、そこで製造した発泡酒であること。よその地域でもシャンパンと同じ製法で発泡酒がつくられていますが、それはシャンパンとは呼べません。

Logo AOP 2008フランスが食品の原産地を規定して、食品の品質保障をするシステムを作ったのは良いことだと思います。AOCはEU圏内に拡大して、今ではAOP(Appellation d'origine protégée)という呼称になってきていますけれど。

何処の国にも悪意のある人はいるもので、フランスでも偽造食品が明るみに出て問題になります。でもAOC/AOPがあるので、少なくとも高品質の食材についてはブレーキをかけることができています。抜き打ち検査もありますから。


シャンパンはシャンパーニュ地方の発泡ワイン、と言われるけれど...

シャンパンには良いイメージがあるために、スパークリングをシャンパンと呼んでしまう人たちが世界中にいるので、シャンパン関係者たちは名称保護のために戦っているように見えます。


シャンパーニュ日本事務局の公式サイト

画面キャッチをいただきながら気がつきました。シャンパーニュと書いていますね。シャンパンはフランス語でシャンパーニュなのですけれど、シャンパーニュ地方以外で作ったスパークリングワインを、「シャンパン」と呼ぶのなら構わないのでしょうか? そんなことないと思うけどな...。

このサイトフランス本部のサイトには、シャンパーニュという名を利用した世界の商品の写真が入っていました(こちら)。

イヴ・サンローランが「シャンパーニュ」という名の香水を作ってしまったことがあったのですね。1993年のことだったそうです。


Rare Flacon DE Parfum "Champagne" Yves Saint Laurent EAU DE Toilette 50 ML | eBay

サンローンは裁判に負けて、「イヴレス」という名の香水にしたのだそう。

シャンパンを意味する「Champagne(シャンパーニュ)」がだめならとイヴレスにしたのが面白い。Ivresse(酔い、酩酊)とは直接的すぎて美しいくないなと思ったら、命名はもうひとひねりしていて、フランス語の香水名はYvresseと綴るのでした。Yves Saint Laurentにひっかけたのでしょうね。

ボトルも、シャンパンをイメージしていたときの方がしゃれていたと思いました。香水瓶にはコレクターがいますから、こういう商品は価値があるのではないでしょうか? でも、日本では中古を安く売っていました(見た時点で売り切れ)。

ebayで売りに出されているサンローランのChampagneを検索してみると、こちら


でも、私が問題にしたいのは別のことにあります。

シャンパーニュ地方の発泡ワインとおっしゃいますけど、シャンパン(フランス語では、男性形でシャンパーニュ)の産地としてのシャンパーニュ地方(女性形名詞)は、現在の行政区分とは一致していないのですけど...。

20世紀初頭、オーブ県がシャンパンの生産地域から外されてしまったために暴動がおきたわけですが、オーブ県はシャンパーニュ・アルデンヌ地域圏に入っている県です。それなのに、なぜ、はずされそうになったの? 暴動事件の舞台になったレストランで食事をしたときから気になってはいたのですが、この際、調べてみました。

シャンパンの産地としてのシャンパーニュ地方を示す境界線はどこに引くのかを調べていたら、意外なことが見えてきました。シャンパンの産地として「シャンパーニュ地方」と呼ぶ地域は、実は非常にあいまいなのでした。

仲間外れにされたのは気の毒だと同情したオーブ県なのですが、この地域がフランス革命の前に存在していたシャンパーニュ州に属していた、とも言い切れないのでした。

まず、フランス革命の後にできた行政区分からシャンパンの産地を見ていきます。


シャンパンの原料にできるブドウ畑

1927年に法律で定められたAOC Champagne(AOCシャンパン)のブドウ畑は、約34,000ヘクタール。シャンパンをつくることができるブドウ畑は、次の4地区に分類されています:
  • Montagne de Reims (モンターニュ・ド・ランス)
  • Vallée de la Marne (ヴァレ・ド・ラ・マルヌ)
  • Côte des Blancs (コート・デ・ブラン)
  • Côte des Bar (コート・デ・バール)
4番目のコート・デ・バール地区(紫色)が暴動がおきたオーブ県です。この4地区を入れたシャンパン産地の地図を見ると、オーブ県の産地は他の地域からかなり南に孤立しているのが分かります。

 
Les 4 grandes régions de Champagne (4地区ごとに詳細な地図も入っています)

シャンパンの産地として有名なのは、ランス市(Reims)とエペルネー市(Épernay)。ランスをいただく黄緑色の地区、そしてエペルネー市があるオレンジ色の地区。それから、黄色の地区。もっと離れて、飛び地地帯みたいに1911年にブドウ栽培者たちが暴動をおこしたコート・デ・オーブ地区(紫色)があります。

前々回の日記で冒頭に書いたレストランがあったのは、コート・デ・バール地区に入っているバール・シュール・オーブ町(Bar-sur-Aube)で、上に入れた地図にも町の名前が書きこまれています。

シャンパーニュ地方ワイン生産同業委員会のサイトの中には、観光の観点からシャンパンの産地を5つに分類した地域区分も紹介していました(こちら)。シャンパーニュ・アルデンヌ地域圏の観光局サイトを見ると、観光コースは5つあると切り出しながら、6つのルートを紹介していました(こちら)。

フランス人は、自分たちはcartésien(デカルト主義者)だから理路整然とした思考をしているのだと言います。でも、そんな理性なんかない私は頭が混乱するばかり...。というわけで、シャンパンの産地は5つか6つかに分けて考えた方が把握しやすいのかもしれないけれど、それは無視することにしました。

20世紀初めに仲間外れにされたコート・デ・バール地区は、現在のシャンパーニュのブドウ畑面積では4分の1を占めるという広さ。でも、いわゆる有名なシャンパンの産地からは外される傾向にあります。
 
Wikipediaの日本語ページにあるシャンパーニュ地方の紹介でも、優れたシャンパンができるのは3つの地域だとして地区名があげられていて、コート・デ・バールは名さえ記載されていませんでした。大統領官邸ご用達なんていうシャンペンだってコート・デ・バール地区にはあるのに、可愛そう...。

ともかく、ランスやエペルネーがあるマルヌ県にとっては、シャンパンという栄誉ある飲み物はマルヌ県が独占できるものなのであって、離れたところにあるオーブ県なんかはよそ者だから入れてやらない、というわけだったのでしょう。

1911年にシャンパーニュ地方のブドウ栽培者たちがおこした暴動では、オーブ県よりも先にマルヌ県で暴動がおきており、そのときの攻撃相手は、オーブ県から安くワインを仕入れていたマルヌ県内のワイン仲買人たちでした。彼らは「étranger(よそ者、外国の)」のワインを買い付けている、と言って非難されたのです。

でも... なのです!


行政区分による地域分類

シャンパンの産地を、現在の行政区分から分類してみました。
地域圏名県名割合ブドウ栽培地区名
Champagne-Ardenne

シャンパーニュ・アルデンヌ
Marne
マルヌ県
※県庁所在地:
Chalons-en-Champagne
※地域住民名:
Marnais
66%Montagne de Reims

Vallée de la Marne

Côte des blancs
Aube
オーブ県
県庁所在地:
Troyes
※地域住民名:
Aubois
23%Côte des Bar
Haute-Marne
オート・マルヌ県
※県庁所在地:
Chaumont
※地域住民名:
Haut-Marnais
Côte des Bar
Ardennes  
Picardie

ピカルディー
Aisne
エーヌ県
※県庁所在地:
Laon
※地域住民名:
Axonais
10%Vallée de la Marne
Oise  
Somme  
Ile-de-France

イル・ド・フランス
Seine-et-Marne
セーヌ・エ・マルヌ県
※県庁所在地:
Melun
※地域住民名:
Seine-et-Marnais
Vallée de la Marne
Yvelines  
Essonne  
Hauts-de-Seine  
Val-de-Marne  
Val-d'Oise  
Seine-Saint-Denis  
Paris  
 ※ 取り消し線を付けた県はシャンパンの産地となっていないことを示す。 

この表を作って気がつきました。ランスやエペルネーのあるマルヌ県と全く無関係の地域は、オーブ県のコート・デ・バール地区だけだったのです!


流れている河川が違っていた

フランスの県名は紛らわしいので嫌い。そこを流れている河川の名前から付けていることが多いので、シャンパン産地の中にも、セーヌ河に流れ込む川の名前である「マルヌ(Marne)」という文字が入った県が3つあります。

マルヌ県は、有名なランスやエペルネーがあるので、どんな地区名をつけてもシャンパンの産地。それ以外の県は3つ残るわけですが、そのうちの2つ(つまり、オーブ県以外)は「Vallée de la Marne (マルヌ川流域地方)」という地区名になっていて、マルヌ県(Marne)と間違えてしまうような名前になっています。

オーブ県には、不幸なことにセーヌ河に流れ込むオーブ川(Aube)が流れていた...。この地域はVignoble de l'Aube(オーブ川のブドウ畑)と呼ばれることもありますが、正式な地区の名前はCôte des Bar(コート・デ・バール)。ここには、ある程度の規模の町としては、川の名前がついてBar-sur-AubeとBar-sur-Seineがあります。

Seine bassin versant 

ランス市(Reims)など有名なシャンパンの産地にはマルヌ川(Marne)が流れていて、トロワ市(Troyes)を県庁所在地とするオーブ県にはオーブ川(Aube)とセーヌ河(Seine)が流れていたのでした。

シャンパーニュ・アルデンヌ地域圏のアルデンヌ県から流れ出るバール川というのもあるのですから、ややっこしい。ちなみに、アルデンヌ県ではシャンパンは製造していないし、あの辺では普通のワインも作っていないのではないかもしれません。


ともかく、行政区分で産地を分類しなおしてみたら、シャンパンといえばシャンパーニュ地方で生産されていると思っていたのに、イル・ド・フランス地域圏でもシャンパンが生産されているというのには驚きました。 ここにはパリ市が入っていて、人口が多く、首都圏と呼べる地域ですから。

でも、シャンパンの産地としてのシャンパーニュ地方とは、今の行政区分のシャンパーニュ・アルデンヌ地方(地域圏)を指すのではなくて、フランス革命前に存在していたシャンパーニュ州なのだろう、と思いますよね?

でも、そうではなかった!

また前置きが長くなってしまったので、続きの本題は次回に書きます。

 シリーズ記事: 百年前、なぜシャンパンの産地で暴動がおきたの? 【目次




内部リンク
シャンパーニュ・アルデンヌ地方の不思議 2010/04/19

外部リンク
Les 4 grandes régions de Champagne
☆ Wikipédia:
Vignoble de Champagne
シャンパーニュ地方のワイン地図 
シャンパーニュ地方ワイン生産同業委員会
Comité interprofessionnel du vin de Champagne
ワインの名前をめぐって No.6  香水「シャンパーニュ」について


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