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2013/12/18
20世紀初頭、今ではシャンパンの産地となっているオーブ県が、シャンパンの産地から外されそうになった歴史を追っています。前回の日記では、シャンパンの産地とされている地域は、今の行政区分のシャンパーニュ・アルデンヌ地域圏に入っていないところもあることを見ました。

シャンパンを作れるのはシャンパーニュ地方だといいますから、これらの地域は、昔はシャンパーニュ州と呼ばれるところに入っているのだろうと思っていました。ナポレオンは中央政権を強化するために、勝手に線をひいて県の区画をしたのですから、昔はシャンパーニュ地方だったのに今は違う、というのはありえます。 でも、そうでもなかったのでした。


シャンパーニュ地方の区分現在と昔

現在のフランスの行政区分では、県を集めた地域圏(région)という単位が作られています。日本でいえば、関東地方、東北地方などが、それぞれ正式な行政単位として存在している、という感じ。

「州」と呼んでしまった方が分かりやすいかも知れません。でも、アメリカのように州として独立した権限を持っているわけではないので、地域圏と呼びます。

地域圏は、フランス本土に22つ、海外領土に5つあります。

シャンパーニュ地域圏というのは無くて、シャンパーニュ・アルデンヌ地域圏(Champagne-Ardenne)があります。

私がいるブルゴーニュ地方はシャンパーニュ地方と隣接しています。今はブルゴーニュだけれど、昔はシャンパーニュだった、あるいは、その逆というのがあるのは知っていました。地理に詳しい友人がいて、観光していると説明してくれるのです。昔はどちらの国だったかというのは、その地域の建築物などを理解する上で知っておかなければならないことなので。

少し前の日記から、20世紀初めに、シャンパーニュ・アルデンヌ地域圏のオーブ県が、シャンパンの産地から外されてしまったことがあった理由を探るためにシャンパーニュ地方がどこで境界線があるのかをみています。

昔の州と現在の県を重ねて示した地図もあったのですが、ゴチャゴチャしていて見えにくい。それで、昔と今のの形を比較してみました。同じ形ではなかったのが分かりました。

現在の
シャンパーニュ・アルデンヌ地域圏
Champagne-Ardenne
Champagne-Ardenne region locator map
フランス革命直前の
シャンパーニュ州
La Champagne à la veille de la Révolution
Champagne province


昔のシャンパーニュ地方には入っていなかったシャンパンの産地

オーブ県をのけものにしたいマルヌ県には、オーブ県はシャンパーニュではないとする言い分がありました。

オーブ県のブドウ栽培地域の中にある大きな町(人口が少ないフランスなので小さな町ですけど)としては、バール・シュール・オーブとバール・シュール・セーヌがあります。前者はオーブ川が流れているバール町、後者はセーヌ河が流れているバール町です。

問題なのはバール・シュール・セーヌ町(Bar-sur-Seine)。ここは、革命前にはブルゴーニュ州だったのです。 ブルゴーニュだったところが入っているオーブ県をシャンパーニュ地方として認めるわけにはいかない、というのは口実になります。

このバール・シュール・セーヌ町で撮影した写真を入れてみます。



オーブ県の県庁所在地のトロワにもこういう木組みの家がたくさんあるので、同じ文化圏だと感じてしまいます。でも、ここはブルゴーニュだったのですね。

トロワ市の方は、歴史的にも昔のシャンパーニュ州として名を残しています。しかも、できすぎたことに、トロワの中心地はシャンパンのコルクの形をしています!

 

普通のコルクと違うのは頭の部分。ボトルに差し込む前は真っ直ぐですが、飲むときに抜いたコルクはこんな風になる。頭の部分はセーヌ河と運河でできているので、ツーリスト向けの地図として旧市街をコルク形にしてみたわけではありません。 Googleマップでみると、こちら (印を入れたのはカテドラルで、コルクの頭部分の中心にあります)。

トロワの旧市街がシャンパンのコルクの形だから、ここをシャンパン産地のお仲間として認めてあげてください、と私が言っても仕方ないけど....。


ブルゴーニュに似ているから気に入らないの?!

マルヌ県とオーブ県が仲たがいをしたのは百年も前のことなのですが、まだ根に持っている人たちがいるのでしょうか?

Wikipediaのバール・シュール・セーヌ町に関する記述では、この町がシャンパンの産地なのには問題があるという項目があり、かなり辛辣にオーブ県を貶していました。

Wikipediaは誰でも書き込めるシステムですから、そのうち書き換えられるのではないかと思うので、要点をメモしてしまいます。なぜそんなにカッカして書いたのかは知らないですけど、面白かったのです。

マルヌとオーブでは地質が全く違うという主張です。それはありうるので、良しとしましょう。でも、かなり毒気をおびています。
シャンパーニュ北部は大経営経営なのに対して、オーブの農家はブルゴーニュ地方と同じように小規模農家が多い。彼らは田舎根性まるだしで、バルザックの小説『農民(Les Paysans 1944年)』に描かれた、したたかな農民像のようだ。要求が強くて、あさましく小さな畑を広げようとし、生垣や森で農地を囲う。この地域を移動してみると、景色がシャンパーニュ北部(つまりマルヌ県)とは全く違うのが分かる。

そもそも、シャンパーニュ(Champagne)という言葉には、白亜質平野、解放耕地の意味があって、それは正にマルヌ県の姿である。開けた土地でなく、生垣が多いオーブ県は、そういう開けた土地ではないから、シャンパーニュに入るのはおかしい。
Wikipediaの書き込みは、バール・シュール・セーヌ町はアンシャンレジーム期にはブルゴーニュ州だったのだ、と結ばれていました。


オーブ県はシャンパーニュ地方らしくないと言うけれど、シャンパーニュ州の州都は、現在のオーブ県の県庁所在地になっているトロワだったのだけどな...。

地質が違うのに同じ呼称にしてしまうのは不味いかもしれない。でも、地域が広くて生産量が多かったら、それだけ知名度があがるということにもなるのです。ブルゴーニュの白ワインであるシャブリが世界的な知名度があるのは、それが原因だと思う。

でも、もしもシャンパンの生産量が非常に少なかったら、ロマネ・コンティのように、どんな値段でも付けられるステータスがある飲み物になったのかもしれない。


◆ 遡ってもシャンパーニュではなかった

ブルゴーニュ公国がベルギーやオランダまで領土にしていた中世には、その中間にあるシャンパーニュはブルゴーニュ公国だったのではないかと思いました。でも、現在の地方分割ができる前、つまりフランス革命直前の地図で確認したら、シャンパーニュは、ごく一部を除いてフランス王国に入っていたのでした。

しかも、15世紀のブルゴーニュ公国最後の時期でさえも、問題にされたバール・シュール・セーヌはブルゴーニュに入っていた...。 さらに、もっと前だと、バール・シュール・オーブ町の方も、シャンパーニュとは領主様が同じではなかった。

15世紀のフランス
Karte Haus Burgund 4 FR
L'État bourguignon, sous Charles le Téméraire
1030年のフランス
Map France 1030-fr

正確にいうと、シャンパーニュ・アルデンヌ地域圏に入っているバール・シュール・オーブは、1435年から1790年までブルゴーニュ州に属していました。

オーブ県がままっこいじめにされるのも無理ないかな...。

今のオーブ県内には裕福層なシャンパン農家がありますが、相変わらず小規模生産が多いのは確か。少なくとも、エペルネーの大規模メーカーが並ぶシャンパンの産地とは、ずいぶん雰囲気が違っています。私は逆にそれが好きで、シャンパンを買いに行くと親しみやすい人たちが多いと感じています。

オーブ県では毎年シャンパン祭りを村の持ち回りでやっていているのですが、それがなかなかアットホームで楽しいので好きです。自分たちはシャンプノワ(シャンパーニュ地方の住民のこと)だという思い入れが強いから、住民たちがボランティアで祭りを盛り上げているのだと思う。

シャンパンには気取ったイメージがあったので、オーブ県でのシャンパン祭りに初めて行ったときには、どうして? と思ってしまったのですが、歴史を知ったら、彼らのシャンパン産地への思い入れが強いからなのだ、と理解できました。


◆ 過去も現在もシャンパーニュ地方ではないのに、シャンパンの産地

前々回の日記に入れた年表で示したように、1908年のデクレで、オーブ県はシャンパンの産地から外されてしまいました。それに怒ってオーブ県のブドウ栽培者たちがデモをしたりしたわけなのですが、彼らが怒ったのには一理ありました。

このデクレでは、エーヌ県のブドウ畑はシャンパン産地とされていたのですが、ここは歴史的にも、現在の行政区分でも、シャンパーニュとは言えないのです。しかも、マルヌ県の人たちだって、害虫フィロキセラの被害が初めてエール県に出たときには、エーヌ県の連中はそこがシャンパーニュ地方だと認めなかったじゃないか、と付け加える。

http://www.culture.gouv.fr/Wave/image/joconde/0416/m079489_005895_p.jpgオーブの人たちは、エール県のワインなんて、ソワソン豆の絞りかすみたいな味がする、と貶したのだそう。

笑ってしまいました。

エール県のソワソン郡がシャンパンの産地として認められていたのですが、ソワソン町の特産品にソワソン豆(haricot de Soissons)と呼ばれる大粒のインゲン豆があるのです。

ソワソン町に行ったとき、教会の横に小さな畑ができていて、そこにソワソン名物の豆が植えられていました。

そこで私は名前を覚えたのですが、フランス人ならソワソンといえばインゲン豆を思い浮かべるくらい有名なのだそうです。

Wikipediaからソワソン豆の絵を拝借しながら文章の方にも目をやったら、面白いことが書いてありました。

LeBerryais Haricots planche 04ソワソン豆は中世からソワソンで栽培されるようになったのですが、ブドウ畑で育てたのだそう。

エール県の県庁所在地のラン(Laon)や、ランスの周辺のブドウ畑では、ブドウの木とソワソン豆を交互に植えていたとのこと。

いま流行りの、農薬を使わないで害虫を駆除するテクニックを思わせました。でも、ブドウ栽培では食べていけないから副業にしていたのかもしれませんね。

20世紀初頭に暴動がおきた当時、マルヌ県でもシャンパンをつくるのは大手に独占されていて、ブドウ栽培者たちは原料を供給するだけだったそうなのです。シャンパンというのは製造が特殊なので、ワインのように手塩にかければ上質の発泡酒がつくれるというわけではないから、農家には参入しにくかったのでしょうね。

20世紀初頭でも、エール県やランスのあたりのブドウ畑にはソワソン豆が植えられていたかどうかまで調べませんでしたが、もしも当時に豆がブドウ畑に植えられていたとしたら、ワインに豆の味が混ざっているという言い方はしゃれています。 ブルゴーニュでは、「牛がブドウを食べるようになったら、ミルクを飲んであげるよ」なんて冗談を言う人がいますから!

ともかく、エール県とマルヌ県は、そんな昔からインゲン豆のご縁があったのですから、ソワソン豆の味がするシャンパンを一緒に作るお仲間ということでシャンパーニュ地方に入ったんだ、とオーブ県の人たちが笑って見逃してあげても良いではないですか?


上下関係をイメージされる言葉

1911年にシャンパンの生産地でブドウ栽培者の暴動がおこってから少しして、シャンパン産地にオーブ県を含めなかったデクレは訂正したのですが、ちょっとやり方がまずかったと思います。あるいは、マルヌ県側には悪意が通る力があったのか? ...

オーブ県のブドウ栽培農家は、はばかることなくシャンパンの原料としてマルヌ県に売れるようにはなりました。でも、自分でシャンパンを醸造したときには、ラベルにBasse ChampagneChampagne deuxième zoneかを表記することが義務付けられたのです。



英語でいうなら、シャンパンにlowとかsecond zoneとかを付けるわけですから、マルヌ県のシャンパンが本物で、オーブのシャンパンはそれに劣るというイメージしか与えません。

それではオーブ県の人たちが納得しないのも無理はないです。

ノルマンディー地方も、Basse-Normandie地域圏とHaute-Normandie地域圏ができています。haute(高)に対してbasse(低)がついてしまっているので、低いノルマンディーを与えられてしまった地方は名前を変えて欲しいと運動しています。

日本にも中国地方が山陽と山陰に分かれていますが、山陰地方の人たちは不快に思ってはいないのだろうか?... 私が山陰地方の出身者だったら不愉快ですけど。

ともかく、暴動から十数年たってから、オーブ県のワインの名誉は脱会されました。でも、オーブ県が正式にシャンパンの産地になるためには、マルヌ県から押し付けられたことがありました。自分たちと同じようにしないなら、シャンパンの産地には入れないというわけです。

そこへ話しを移そうと思ったのですが、オーブ県の悪口をいうWikipediaの書き込みの真偽を調べてみたら、面白いことを発見したので、次回には寄り道をしてそれを書きます。

 シリーズ記事: 百年前、なぜシャンパンの産地で暴動がおきたの? 【目次


外部リンク
☆ Wikipédia: Champagne (province)
☆ Wikipédia:
Anciennes provinces de France »  フランスの州 (フランス革命以前)
☆ Bar-sur-Seine観光案内所:
Le Champagne et son histoire
☆ Wikipédia: Bar-sur-Seine » Particularités du milieu viticole
フランスにおけるレジオナリスムの成立過程

内部リンク
★ 目次: フランスのワイン産地、アペラシオン、セパージュ
★ 目次: シャンパンとスパークリングワイン
プイィ・フュメはブルゴーニュのワインだけれど、ロワールのワイン 2012/10/03

【オーブ県のシャンパン祭り】
シリーズ日記目次:
シャンパン祭り 2005年
シリーズ日記目次: シャンパン祭りとシャンパーニュ地方の夏の旅行(2006年)


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