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2014/01/15
前回の日記「七面鳥が気になった」を書きながら、フランスの友人たちがクリスマスに食べた七面鳥料理を貶しているのは特殊な例でなかったかどうかをインターネットで検証していたら、 友人たちと同じような表現を見つけました。

フランスの歌手Renaud(ルノー)が歌った『Hexagone』という曲の中に、次のフレーズがあるのだそう:
« Moi j'voudrais tous les voir crever, étouffés de dinde aux marrons. »

皆が七面鳥の栗詰めで窒息してしまうのを見たいもんだ、と受けとれます。クリスマス料理のことでしょうね。友人たちも、パサパサの七面鳥に、お腹がたまる栗を添えられた料理を食べると窒息しそうだ、と言っていたのです。

この歌を知っていたからなのだろうか?...
あるいは、フランス人たちに共通した料理に対する評価なのだろうか?...

それにしても、どうしてそんな変なことを言っているの? どんな歌なのか探してみました。


Renaud - Hexagone

文字にした歌詞は、こちら

何を歌っているのかをイメージで見せた動画もあります。これは若い頃の声をバックに入れています。

曲の題名になっている「hexagone」は六角形のことですが、フランス本土の形がそうなので、フランスの代わりにも使われる単語です。この歌は、1月から始まって12月まで、その月ごとにあるフランスの風習を持ち出しながら歌っていて、12月のところに、七面鳥に栗を詰めたクリスマス料理「dinde aux marrons」が登場していました。 フランスに生まれるのはラッキーなことではない、などという風にフランスを皮肉った歌詞になっていました。

流行歌手や俳優に関しては、全く一般レベルの知識もない私。 でも、どこかで聞いたことがある声のように感じました。

むかし日本でフランス語を勉強していたころは、今のようにインターネットでいくらでもフランス語を聞ける環境になかったので、フランス政府がバックアップしている語学学校でレコードやカセットを片っ端から借りて聞いていたのです。その中に、歌手の名前がRenaudとだけあるのが奇妙に思ったレコードのジャケットがあったような気がする...。

ポップスは好きではないのですが、歌詞が面白くて、深いな音ではなければ興味を持ちます。


ルノーって、誰?

フランスを風刺して歌ったルノーという歌手について調べてみました。

1952年にパリで生まれたシンガーソングライター。Renaud Séchan というフルネームもあるのですが、Renaud(ルノー)だけで呼ばれる。

人権擁護、環境保護、反軍事主義などをテーマにして歌う反体制派の歌手。フランスでは、アルバムの売り上げではトップランクに入る人気歌手なのだそうです。

日本では、ほとんど知られていない感じがしました。そもそも、「ルノー」や「ルノー フランス」で検索すると、フランスの車メーカーのルノー社(こちらの綴りはRenault と違うのですが)が出てきてしまう。

「歌手」というキーワードを加えたら、リーヌ・ルノー(Line Renaud)という歌手の方が前面に出てきました。『パリの空の下』などを歌っているのを聞くと、この声はリーヌ・ルノーという名前の女性だったの? と思ってしまうくらいに馴染みがある。

さて、ルノーという男性歌手の方。上に入れたYouTubeのライブ録音は、1975年にリリースされた曲を、2007年のカムバック公演ツアー「Tournée Rouge Sang」で歌ったときのものだそうなので、彼が50代半ばのときに歌っていることになります。

2007年といえば、フランスでは大統領選挙があった年。内務大臣として治安強化を図ったサルコジが大統領になった後にこの曲を聞いたら、その当時のフランスを描いているように聞こえてしまう歌詞でした。歌ではバカ者が王座についているなどと繰り返しているのですから。サルコジ大統領の時代、フランスの友人たちの何人もが「フランス人であることが恥ずかしい。フランス人とは呼ばないでくれ」などと言っていました。

歌手としてカムバックしたツアーでこの歌を歌ったら、聴衆は絶賛しただろうと想像しました。その当時の世情に合わせた歌詞にしていたのかと思ったのですが、少し手を加えただけだそうです。
 

若者の感性を持ち続けた人?

1968年の5月革命では、ルノーは高校生だったのに運動に参加しています。このときの警察の横暴を目の当たりにして、権力主義への反感が根付いたのでしょう。革命が終わると、世の中に絶望した多くの若者たちが、フランス中部の荒野で理想郷を築こうとしたのですが、ルノーも仲間たちと移住してコミュニティーを作ったのですが、ただちに警察から立ち退きを強制されていまったそうです。

ルノーは世代的には若すぎるので適当ではないでしょうが、「Soixante-huitard」と呼べるかもしれない。これは、5月革命を経験した世代に対する呼び名で、日本で「団塊の世代」と呼ばれる世代と重なりますが、かなり違ったイメージがあります。 ルノーには、この時の体験が心に刻み込まれ、そのときの熱気がずっと消えなかった人、というイメージを持ちました。

親に入れられたブルジョワ色の強い高校を中退して働き出したルノー。とりあえずの仕事として、演劇をしたり、街頭で自作の曲を歌ったりします。可愛らしいルックスだし、才能も際立つ人だったようで、街頭やメトロで歌うとかなりの収入を得たし、芸能界の大物から目をかけられて仕事を与えられたりもしています。

シンガーソングライターとしてデビューしますが、歌詞が過激すぎるので降ろされてしまう。 それでも彼は頭角を現していきますが、成功を手噺で喜ぶということでもなかった様子。

街頭に立ってアコーデオンの演奏をした仲間は、ルノーは稼いだ金をその日のうちに使い切ってしまわないと気がおさまらなかった、と言っていましたが、それの延長だったらしい。歌手として成功してからも、社会の弱者の味方をする歌を歌っているのに、高級車に乗っているところをガソリンスタンドで見破られたら不味いとかなり気にしていたのだそう。

人との出会いに恵まれた人だと思いました。早くから、彼とは波長がぴったりだったろうと思えるコメディアンのコルーシュ(Coluche)と親しくなっています。リハーサルをお忍びで見に来た故ミッテラン大統領とは、父親にも打ち明けないような話をするほど仲良くなって文通していたとのこと。

でも、順風ばかりの人生ではなかったようです。

絶頂期だった1985年、ソビエト連邦に招待されてモスクワでコンサートをしますが、『Déserteur(脱走兵)』を歌い始めると、ライトは観客席を照らし出し、彼は会場から次々に去っていく3,000人を見せつけられることになりました。始めからのシナリオに乗せられてしまったのでしょう。共産主義には同感していた彼には耐え切れない苦痛だったようです。

その後に発表されたとすると、不思議な気持ちになってしまう曲がありました。自ら作詞作曲して大ヒットになった『Mistral gagnant』。1985年に発売された同名のアルバムに入っていた曲ですが、そのライブ録音です。


Renaud - Mistral Gagnant

子ども時代のことを、彼が愛妻との間にもうけた幼い娘に語るという設定でしょう。美しいメロディーですね。 曲を探したら、ピアノの練習をするための動画がたくさん出てきました。

題名になっているMistral Gagnantというのは、昔に存在したクジ付きのお菓子。この名前を付けた会が出来ていると書いてあったので、懐かしいお菓子を復活させようという会かと思ったら、そうではなかった!

1992年、ベルギーに設立されたAssociation Mistral Gagnantで、重度の病気を患っている子どもたちが持っている夢をかなえてあげよう、という活動でした。なんと私の発想は貧弱なこと...。

彼は妻にも立ち去られてしまい、アルコールにおぼれ、鬱を患います。麻薬もあるのではないかな...。消えてしまったあと、カムバックしたりもしますが、長続きはしない。61歳になった今は南仏でひっそり暮らしているようで、今年に入ってから、彼が亡くなったという誤報がツイーターで駆け巡ったとのこと。


エミール・ゾラ(Émile Zola)の小説『ジェルミナール』が映画が製作されたときには(1993年公開)、ルノーは主人公となって名演技をしていました。

彼は父親も兄弟も作家という家系。高校を中退したときに本屋でアルバイトをしながら文学作品を読み漁ったという書籍のリストの中に、この作品の名も入っていました。

炭坑が舞台ですから、かなり厳しい環境での仕事だったと思いますが、撮影中の彼はエキスとランの人たちとの交流を楽しんだように見えました。彼らが文句を言ったわけではないのに、ルノーは監督に彼らの賃金を値上げしろと詰め寄ったりもしたのだそう。

Youtubeに2時間半の動画が入っているので喜んだのですが、スペイン語に吹きかえられたバージョンなのでどうしようもない...。
Germinal

ルノーの人生を語るテレビ番組が出てきました。ルノー自身は記録映像でしか見れませんが、彼の兄弟や友人たちが語っています。色々な人生があるものなのだと興味深くて、1時間半の長い番組だったのに、最後まで見てしまいました。


Renaud - Un jour,un destin - Les raisons de la colère - 26/09/2012


 シリーズ記事: ご馳走料理 vs 日常の食事


ブログ内リンク:
★ 目次: フランスで耳にする歌 (シャンソン、童謡など)
5月革命から40年 2008/05/05
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外部リンク:
【フランス語サイト】
☆ Wikipédia: Renaud
☆ Wikipédia: Hexagone (chanson)
Association Mistral Gagnant

【日本語サイト】
挑発するロック歌手、ルノー
「マンハッタン=カブール」 ルノー (不定期連載「世界の反戦歌・反戦詩から」)
”Mistral Gagnant”
☆ 映画.com: ジェルミナル 作品情報
☆ ピピのシネマな日々: ジェルミナル


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