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2014/05/05

シリーズ記事目次 【屋根裏部屋にあった彫刻の解読】 目次へ
その4


十字架にかけられたキリストがおった5つの傷。その「5」を象徴する5弁のバラの花。それを教えていただいた私が思い浮かべたのは、フランスの道端に咲いている野生のバラでした。

バラについて書いた前回の日記:
キリストの受難と薔薇の関係 2014/05/04


エグランティーヌ

野生のバラは、植物としてはÉglantier(エグランティエ)、花はéglantine(エグランティーヌ)と呼ばれます。



品種改良される前のバラの原種なのだろうと思います。

フランスに来て初めて見たときには、これが「野バラ」という植物なのだと感激しました。道端に自生しているのはもったいないくらいに、清楚で美しい花だと思っています。 もともと、花屋さんで売っている人工的に改良したのが見え見えの花より、野生植物の繊細さが好きな私なのですけれど...。



エグランティエには何種類もあるのですが、フランスで最も一般的なのは、学名でRosa canina(ロサ・カニーナ)という品種だそうです。

私はフランス人から教えられた単語Églantierとéglantineで覚えて呼んでいたのですが、「Rosier(バラの木)」を使った呼び名も存在していました。

Rosier des Chiens(犬のバラ)
Rosier des haies(生け垣バラ)
Églantier des chiens(犬のエグランティエ)

日本語ではイヌバラ と呼ばれていました。

淡いピンク色のバリエーション。ほとんど白いのもありますが、淡いながらも鮮やかなピンク色の花だと、本当に美しいと思って惚れ惚れとしてしまいます。

アルプスに行ったときには、背が高くは伸びないのではないかと思う種類がありました。ピンクの色は鮮やか! こちらは違う品種でした。


Rosier des Alpes, Eglantier à fruits pendants, Eglantier des Alpes, Rosier sans épines,Rosa pendulina
学名: Rosa pendulina



キリストが受けた5つの傷を象徴するバラの花ということで調べているのですが、野生のバラは血を連想されるような赤い花にはならないような気がします。

でも、花が咲き終わって存在を忘れたころ、ローズヒップが野原に目につくようになります。 秋の気配が深まって寂しくなったころなので、鮮やかな色が余計に目立つのです。



キリストが十字架にかかったことを連想させる花なら、この赤い実がなることを関連づけても良いのではないかと私は思うのですが、そういう記述には出会いませんでした。

ところで、この濃いオレンジ色の実(仏語でCynorrhodonないしcynorhodon)は、普通にはgratte-cul (尻をひっかく)という変な名前で呼びます。この実のトゲをベッドに忍ばせた、という昔のいたずらの風習からついた呼び名なのだそう。英語でローズヒップと言いますが、語源は同じなのかな? culもヒップも「お尻」なので。

ローズヒップにはビタミンが多く含まれているのだそう(特にビタミンC)。ジャムも作れるのだそうです。氷点下になった後に収穫し、黒いトゲの部分を除いてから普通のジャムのように作る、というレシピがありました。栄養素はあるにしても美味しくなさそうなので、作ってみる気はしませんが...。

ロシア人の知人を受け入れた友人がいたのですが、フランスの野原でノーズヒップを誰も採らないらしいのを見て、こんなにあったら商売になるのに... とため息をついていました。ロシアではお酒にするらしいのですが、かなり高価なのだそう。寒さが厳しい国なので、今でも冬超えをするための貴重なビタミン原なのでしょうか。


シューベルト作曲「野ばら」

フランスで見る野生のバラ。その花を呼ぶ「エグランティーヌ(églantine)」を、私はずっと「野ばら」と訳していました。改めて仏和辞典で確認してみたら、やはり「野バラ(の花)」と書いてありました。

そういえば、シューベルトの歌曲に『野ばら』というのがありました。ゲーテの詩に曲をつけたもので、日本では誰でも知っているはず。



この『野ばら』という曲の題名がどうなっているのか調べてみました。
私の予想に反して、フランス語の題名は「エグランティーヌ」ではなかった!

 歌曲の名前
ドイツ語Heidenröslein
日本語野ばら
フランス語Petite Rose (小さなバラ)
イタリア語Rosellina della landa
英語Heidenröslein (Rose on the Heath, Little Rose of the Field)

日本とフランスが原題にある「荒野」を排除してしまっているところで共通していました。

ドイツ語と日本語の歌詞、さらにドイツ語の直訳が入っているページ:
シューベルトの 「野ばら」

日本での歌曲の題名は「野ばら」なのですが、歌詞としては「野中の薔薇」と言っています。「紅(くれない)におう」と歌っている部分は、ドイツ語では「赤い小さな薔薇」なのですね。

でも、日本語の題名では「野」と付けて野原に咲くバラであることを連想させています。フランスの題名の方は「小さなバラ」で、野生のバラであることは完全に無視。

☆ フランス語訳: Petite Rose (Wikipédia)

petite rose rouge(小さな赤い薔薇)、Petite rose de la lande(荒野の小さな薔薇)と言っています。

日本語の歌詞では、ヒースやシダなどの低木しか生えない荒野であることは無視していますね。でも、日本の国土にはそんな殺風景な景色はないから、「野中」くらいで良かったのでしょう。

バラの花を折ってしまったのは、ドイツ語では「乱暴な少年」と言っているし、フランス語訳でも「意地悪な男の子」と言っているのですが、日本語の歌詞では「童」なんて言っているだけ、という違いも目につきました。

ドイツ語の直訳でも、フランス語訳でも、この詩は美しい女の子を傷つけてしまった男の子の話しなのに、日本語の歌詞では徹底的にぼやかされていますね...。小学校唱歌にするための配慮だったのでしょうか?  20世紀初頭の日本で作詞されたわけなので、男尊女卑が底辺にあったからなのか?...

でも、これは私が探していた問題からは外れているので、エグランティーヌと呼んでくれなかったことは無視します。


花弁が5枚の薔薇なのに...

キリストの5つの傷を象徴する5枚の花弁の薔薇がエグランティーヌだったとすると、なんだか可愛そう...。

第一に、「犬のバラ」なんていう名前が付けられていること。学名のRosa caninaもそれだろうと想像するし、英語でドッグローズ、日本語でイヌバラ、フランス語でも「犬のバラ」という意味の名前でも呼ばれているわけです。

なぜ犬なのか、というのはちゃんと調べなかったのですが、たぶん、どこにでもあるバラ、野原を歩いているとトゲに刺されて憎らしい、というくらいの意味ではないかと想像します。「犬」というのが、フランスでは悪いことに対して持ち出されるのです。例えば、「犬の天気」というと、雨ばかり降っていて気が滅入ってしまうような天気、という具合。日本でも「犬畜生」というのがある...。

でも、ローズヒップが狂犬病の薬になったという記述もあるので、そのためだったかもしれませんけれど、こんなに美しい花をドッグローズとかイヌバラとか呼ぶなんてけしからん!

エグランティーヌという名前は、「ティーヌ」で終わるところが可愛いと思うのです。フランスの女性の名前に、クリスティーヌとか○ティーヌとかいうのがあるので(いずれも聖人の名前から付けた命名ですけれど)。

第二に、イヌバラの実を呼ぶのに「お尻」なんかに関係づけられていること。

でも、そんな悪いイメージと結び付けられるのは、バラの品種改良が進んで、野生のバラがありふれているとさげすまれ、マリア様のイメージはもっと高貴なバラと結びついて残ったのでしょうね。そもそも、Rosa caninaなんて不名誉な学名を付けたのは、近代になってからではないですか?

エグランティーヌはピンク色だったとしても、赤い花もどこかに咲いていて、それがキリストの血の色としても良いのだし...。それに5枚の花びらの薔薇のお話しをしてくださったaostaさんによると、エグランティーヌの葉は林檎の香りがするとのこと。罪を犯していないマリア様のイメージに相応しいではないですか?...

そんなことを思ってしまったのは、エグランティーヌについて調べてみたら、私が好きなこの花がドッグローズとかイヌバラなんて呼ばれていることを知って怒ってしまったからでした!

ブログ内リンク
★ 目次: フランスで感じるキリスト教文化
★ 目次: 宗教建築物に関する記事

外部リンク:
ÉGLANTIER, crevé(e) d’être fatigué(e).
Eglantier, cousin sauvage du rosier : carte d’identité
☆ Wikipédia: Rosa canina
Y a-t-il une différence botanique entre le rosier rugueux et l'églantier?
Gelée de baies d'églantier (ou de gratte-cul)


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コメント
この記事へのコメント
Otiumさん

こんばんは。勝手に予告だけしておいて、そのまま長いことお待たせする形になってしまい申し訳ございませんでした。
しばらく前からちょっと違うモードに入ってしまい、なかなかこちらに戻ってこられなくなってしまって・・・m(__)m

聖母と薔薇の関係でしたね。
まず本題に入る前に私が思い出したことはアッシジの聖フランチェスコと薔薇のエピソードです。
財産も社会的地位も捨ててキリストに従う決心をしたフランチェスコでしたが、邪心や欲望をたち繰ることができず、そうした惑わしから逃れるために、思いあまった彼は、教会の庭に生えていた薔薇の茂みの中に身を投じました。
フランチェスコの深く純粋な祈りと行為は神様の御心に適い、薔薇は鋭い棘で彼を傷つけることはありませんでした。
以来その修道院の薔薇はみな棘がないのだ、と。
もう何十年も前にアッシジを訪れたとき、小さなカードに記されていた、棘のない薔薇の奇跡のお話です。

美しい薔薇に隠された鋭い棘。
この場合、薔薇の棘が象徴しているものは原罪。
「無原罪の聖母」とも呼ばれるマリアは、原罪を逃れたただ一人の人間であり、それがゆえに神の子キリストを宿しました。原罪(棘)によって傷つけられることなく、美しい花(キリスト)を咲かせたマリア。薔薇が、その鋭い棘に傷つけられることなく美しい花を咲かせるという事実に、この「無原罪の聖母」のイメージが重ねられているようです。
つまり5弁の薔薇とは違うメッセージがあるのです。

まだ考えが(文章が)まとまらないうちにコメントを差し上げましたので、わかりにくいところも多々あるかと思います。コンサートが終わり、落ち着きましたら改めて文献を当たってみます。

とりいそぎ。
2014/05/31 | URL | aosta  [ 編集 ]
Otiumさん

おはようございます。
寝て起きましたら、もうひとつ思い出したことがありました。
イエスキリストを「神の子羊」と呼ぶ言い方があるように「ロサ・ミスティカ」神秘の薔薇、は聖母マリアのもう一つの呼び方です。
マリアに捧げるロザリオの祈り(ここにも薔薇!・笑)で有名なのは天使祝詞ですが二番目に挙げられるのが「奇しき薔薇の聖母にむかう祈り」です。

その第一節。

 ”くすしきバラ(ローザ・ミスティカ)、汚れないおとめ、恵みのおん母よ、わたしたちは、神であるおん子の栄光のため、あなたの足もとにひれ伏し、神のおんあわれみをせつに願い求めます。わたしたちが自分のどんな功徳(くどく)にもたよることなく、あなたのあわれみ深い母としてのおん情けにより すがって、わたしたちのこのせつなる祈りを聞きいれてくださることを信じます。”


母マリアを指す呼び方としてこのほかに「海の星」Ave Maris Stellaがあります。この「星」を宵の明星とする解釈もありますので、「宵の明星」が聖母を指すこともあるようです。

思い出すままに、思いつくまま、芋づる式に書いていますので、話が前後して読みにくことと思いますが、忘れてしまわないうちに書いておかないと・・・・(笑)
2014/05/31 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさんへ

コメントありがとうございます。

アッシジに初めて行ったときは町の雰囲気が気に入り、2度目に行ったときには妙に聖フランチェスコが気に入って美しい本を買ったりしていたのですが(イタリア語なので絵画を眺めただけ)、記憶に残っていたのは小鳥との関係しかありませんでした。バラとのお話しを読んだら、聞いたのに忘れていたような気もしてきたのですが...。

>原罪(棘)によって傷つけられることなく、美しい花(キリスト)を咲かせたマリア。薔薇が、その鋭い棘に傷つけられることなく美しい花を咲かせるという事実に、この「無原罪の聖母」のイメージが重ねられているようです。
>イエスキリストを「神の子羊」と呼ぶ言い方があるように「ロサ・ミスティカ」神秘の薔薇、は聖母マリアのもう一つの呼び方です。


なるほど…。マリアと薔薇の組み合わせの意味が分かってきました。

「奇しき薔薇の聖母にむかう祈り」を書いてくださって、どうもありがとうございます。Rosa Mysticaも、ロザリオの祈りも、調べていたら出てきた言葉ではあったのですが、意味を把握していませんでしたので。

>母マリアを指す呼び方としてこのほかに「海の星」Ave Maris Stellaがあります。この「星」を宵の明星とする解釈もありますので、「宵の明星」が聖母を指すこともあるようです。

色々な象徴があるのですね…。
ギヨーム・デュファイの『Ave Maris Stella』をYouTubeで聞いてみました。昨年、サント・マリー・マドレーヌ大聖堂に夏至の光が入るのを見るためにヴェズレーに滞在したとき、ミサで聞いたのが、こんな感じの美しい歌だったと思って懐かしくなりました。

ところで、野バラの葉をこすると林檎の香りがすると聞いて、先日から野バラを見ると匂いを嗅いでいます。まず、花にはかなり強い香りがすることもある(太陽の光の関係?)。葉の方は、かなり擦ると香りが出てきますね。若い柔らかい葉の方がよく出てくると思いました。花も林檎の花のような香りがすると感じましたが、葉の方は青リンゴの香り。

それを実験していたら、花を見るとすぐに嗅ぐ友達から「野バラは何もにおわないでしょう?」と言われました。私も野バラに香りがあるとは思っていなかったので、気がつく人は少ないのではないかと思いました。
2014/06/03 | URL | Otium  [ 編集 ]
デュファイとは、いいですね。
たゆたうような音の動き、幻惑的なハーモニー。
教会で聴けたらきっと素晴らしいでしょう!

同じ演奏かわかりませんが、私もYouTubeで聴いてみました。
心の中が透き通ってゆくような曲です。
時々登場する魅惑的な不協和音。
不協和音って、字がいけません。
確かに耳を覆いたくなるような不協和音があることは事実ですが、デュファイやマショーの不協和音の美しいこと!
着地点が見つからず、いつまでも空中に漂っているような、浮遊する音たち。
最後のアーメンがまた素晴らしいですね!!
2014/06/05 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさんへ

デュファイはブルゴーニュ楽派の作曲家と知って好感を持ち、フランス人と話すときのために「デュフェ」と覚えました。幾つか曲を聞いてみたら、ブルゴーニュ公の話しのバックでよく使われている耳慣れた曲だったと感じます。

>時々登場する魅惑的な不協和音。

不協和音というのが意外だったので調べてみたら、色々と出てきて、「デュファイはミクスチャーの元祖」などという記述もありました。

私にとっての不協和音というのは、神経を逆なでされる現代作曲家の出す不快音だったのですが、協和音でなければ不協和音。なるほど...。でも、その使い方によって、こんなに美しいメロディーもできるわけですね。

>着地点が見つからず、いつまでも空中に漂っているような、浮遊する音たち。
⇒ まさに、そうですね...。

aostaさんならデュファイについてもブログで書かれているのではないかと思って検索したら幾つも出てきたので、読ませていただきました。
2014/06/05 | URL | Otium  [ 編集 ]
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