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2014/05/10

シリーズ記事目次 【屋根裏部屋にあった彫刻の解読】 目次へ
その7

友人が遺産相続した家を掃除していたら、屋根裏部屋で古めかしそうな彫刻があったというので、それを見に行ったことをブログに書いていました。

1年たってコメントが入ってきた日、偶然にもその友人が訪ねてました。彫刻をプロの鑑定士に見てもらったと聞いていたので、どんな意味を持っていると判定されたのかを聞いてみました。

この彫刻は何を現しているのかと、私が勝手に解釈してみたときの日記:
屋根裏部屋にあった古めかしい彫刻の解読を試みる 2013/06/12

屋根裏部屋の石壁にはめ込まれていて、ずっと無視されてきていたらしい彫刻は、これです ↓



この彫刻に書いた記事に入れてくださったコメントで学んだキリスト教関係の美術品の寓意を読み取るポイントが面白くて、ここのところキリスト教と植物の関係について書いてきたのですが、本題の、この彫刻は何を意味するのか、に戻ります。

友人が鑑定を依頼した人は仕事の関係の知り合いで、財産に関する保険の査定額も出している人なので、鑑定結果は信頼できるのだとのことでした。

その道のプロが、この彫刻をどう解釈したのか?...


同じような場面を描いた作品がたくさんある!

鑑定士が「この場面だ」と言ったフランス語をキーワードにして画像検索にかけてみたら、屋根裏部屋の彫刻と共通点がある構図の美術作品がたくさん出てきました!

Bernt Notke Gregorsmesse Arhus.jpg 
バーント・ノトケ(1435-1509)

Gregorsmesse lorenzkirche

Huanitzin.jpg 
1539年、メキシコ

Messe des hl Papstes Gregor Bode-Museum.jpg 
1480年

画像検索の結果で出てきたものの全てには、共通するるところがあります。キリストと、祈りをささげている僧侶の姿が、必ず入っている!


屋根裏部屋の彫刻を改めて眺める

屋根裏部屋にあった彫刻を取り外して自宅に運び込んだという友人は、鑑定士が「○○の場面だ」と判断したとしか言わないので、どこからそう判断したのかを考えました。

屋根裏部屋で見つかった彫刻を見てみましょう。

まず、キリストだろう、と私でさえも想像できた人物がいます。



手を交差しているので、十字架にかけられた後なのだろうと想像しました。 右手には傷の跡らしきシミが見えます。


その頭上に、冠らしきものを持った人がいます。



コメントを入れてくださったaostaさんのコメントは、これは石棺から立ち上がる姿で描かれるキリストの復活の様子で、天使が茨の冠をとりはずしている場面ではないか、と解釈なさっていました。

鑑定士の判断もその通りで、復活したキリストであることが重要な意味を持っていたのでした!


しかし、鑑定士が何の場面なのかを決めたのは、その下の部分のようです。

キリストが入っているのは石棺だとして、その下に、上に向かって手を差し伸べている人がいます。 何か丸いものを持っている。



ここからは、鑑定士の判断を聞いてから見えてきたことを書きます。

中央には、男性が持っている丸いものは、ホスチア(聖体)でしょう。 聖体パンにしては大き過ぎるので奇妙ですが...。

その左手にある、百合を象徴するモチーフが刻まれている四角い部分の上にあるのは、これまた不釣り合いに大きいですが、聖杯に見えてきました。

そうなると、これは僧侶か司祭がミサを挙げている場面に見えます。
その上に復活したキリストがいる、という構図になります。

ここまで分析する前に、キリスト教にお詳しい方は何の場面だと直感がひらめきますか?


聖グレゴリウスのミサ

屋根裏部屋にあった彫刻を鑑定した人は、ずばり「Messe de Saint Grégoire聖グレゴリウスのミサ)」と判定したそうです。

言われた言葉に知らない単語は入ってはいないのですが、それが何を意味するのか、私には全く分かりませんでした。友人が私に鑑定士の判定結果を話すのを傍で聞いていた人が、何を意味するのかを説明してくれました。

フランス人なら誰でも知っている有名な奇跡のお話しなのだろうと感じました。鑑定を受けた友人の方は、「聖グレゴリウスのミサ」と言えば、それだけで私も理解するだろうと思って、私に説明する必要があるなどとは思っていなかったようなので。この彫刻を手にいれた友人も、「聖グレゴリウスのミサ」が何であるかを説明してくれた人も、クリスチャンではありません。でも、熟年世代の人たちなので、子どものときには教会に通っていたのだろうとは思いますが。

とはいえ、屋根裏部屋でフランス人数人と一緒に彫刻を眺めて、あ~だ、こうだ、みんなで勝手に解釈をしたときには、「聖グレゴリウスのミサ」の話しは持ち出した人は一人もいなかったのですけれど! ...


簡単な説明を聞いただけだったので、「Messe de Saint Grégoire(聖グレゴリウスのミサ)」とは何なのかを調べてみました。

Saint Grégoire(サン・グレゴワール)とは、590年から604年までローマ教皇だった聖人。グレゴワールという名の教皇は複数いるので、「1世」ないし「大」と付けて区別していました。

フランス語でGrégoire Ier、あるいはGrégoire le Grand。日本語だと、グレゴリウス1世、ないし大聖グレゴリウスと呼ばれる人。

中世初期を代表する教皇で、典礼の整備、教会改革の功績を残した人だそうです。グレゴリオ聖歌(Chant grégorien)というのも、この人の名をとってつけたものなのだそうなので、聖グレゴリウスと聞いて誰のことかと思ってしまった私がいけなかった!


聖グレゴリウスのミサ」という伝説は、この聖グレゴリウスが奇跡をおこした、次のようなミサのことなのでした。

ある日、聖グレゴリウスがローマのエルサレム聖十字架教会でミサを上げていた時、参列していた人々の中に死んだキリストが復活するはずはないと思っている女性がいた。

彼女は、聖グレゴリウスが「聖体パンがキリストの体に化体する」と言ったときに笑った(*)。

それを無視して聖グレゴリウスが熱心に祈りを続けていると、祭壇イエスが現れ、十字架で受けた傷を見せ、復活したことを示した(**)。

それを見た不信心な女は、悔い改めて帰依した。

* 女性ではなく、助祭だったというバージョンもある。
** イエスの胸の傷から流れた血が聖杯に滴り落ちた、というバージョンもある。

屋根裏部屋で見つかった彫刻は、まさにこの場面だというわけです。石像を眺めると、確かに、その話しを裏付ける構図になっているのでした。

  • 聖グレゴリウスは、聖杯の横で、丸いホスチア(聖体)を掲げてミサをしている。
  • そのときに現れたキリストが石棺の中に入っているのは、十字架にかけられて死んでから復活したことを示す証し。
  • キリストの頭上には、復活を祝福する天使の顔がある。
  • 聖グレゴリウスの右横には棒を持っている人がいるが、これは「聖グレゴリウスのミサ」の図では十字架を想起させるものとして円柱や大きな蝋燭がよく描かれるのだそう。


「聖グレゴリウスのミサ」 は、15世紀から16世紀にかけて好んで扱われたようです。この時期は宗教改革の時代。このテーマは、反宗教改革に続く礼拝画の全盛期にしばしば取り上げられた、という記述がありました。

ともかく、「聖グレゴリウスのミサ」と題された画像を探してみたら、きりがないくらいに作品が出てきました。

屋根裏部屋にあった彫刻のモデルだったのではないか、と思えてしまう「聖グレゴリウスのミサ」もあります。友人が相続した家から百キロくらい西にある町にある教会のミサ典書(14世紀)に入っていた挿絵です。 このテーマが流行し始めた時期の作品のようです。

http://aguilar-de-jean.blogspot.fr/2014/01/la-messe-de-saint-gregoire.html 
Saturnale 2032: La messe de Saint-Grégoire le Grand. Missel à l'usage d'Auxerre. XIVe.

この構図に似ているように見える絵画としては、ブルゴーニュ地方のディジョン市にあるChartreuse de Champmol(シャンモル修道院)にあった「聖グレゴリウスのミサ(La Messe de saint Grégoire)」もあります。

この2つはブルゴーニュ地方のもの。友人がもらいうけた屋根裏部屋の石壁に組み込まれていたあった彫刻があった家は、現在の行政区分ではシャンパーニュ・アルデンヌ地方の町にあるのですが、昔はブルゴーニュだった地域にあるので関連性を感じました。


絵画ばかりが出てきたので、石に彫刻するとどうなるのかを見てみたくなったので探してみたら、フランス西部にある博物館に収蔵されている15世紀の作品が見つかりました。

http://www.culture.gouv.fr/public/mistral/palsri_fr?ACTION=CHERCHER&FIELD_1=REF&VALUE_1=PM72000684 
bas-relief : La Messe de saint Grégoire

リンクしているページに入っている画像をクリックすると写真が大きく出ます。聖グレゴリウスの右手の人物が教皇の衣服に手を触れているのですが、その引っ張り方が意味ありげですね...。



友人が相続した石の彫刻をプロの鑑定士に診断してもらうことにしたと聞いたときは、どう判定されても、それが正しいとは限らないだろうと思っていました。でも、調べてみたら色々と暗示する部分がそろっているので、やはり「聖グレゴリウスのミサ」以外のテーマではありえないと思えてきました...。

ブログ内リンク:
★ 目次: フランスで感じるキリスト教文化
★ 目次: 宗教建築物に関する記事

外部リンク:
☆ Saturnale 2032: La messe de Saint-Grégoire
Saint Grégoire le Grand, pape, docteur de l'Eglise. 604.
☆ Wikipédia: Messe de Saint Grégoire
☆ Musée des Beaux-Arts Tours: La Messe de saint Grégoire
大グレゴリウス法王のミサと羽のモザイク
身体をめぐる断章 その15  血液の神秘 > 葡萄圧搾機としてのキリスト
☆ 国立西洋美術館: アルブレヒト・デューラー 聖グレゴリウスのミサ
☆ 長崎県美術館: 聖グレゴリウスのミサ ( 16世紀後半)
Le corps du Christ mis en scène par la Contre-Réforme
☆ Wikipedia: グレゴリウス1世 (ローマ教皇)


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コメント
この記事へのコメント
Otiumさん

おはようございます。
謎の壁画の改題、読ませていただきました!!!!
すぐにでもコメントを入れたいところですが、今日は午前中から出かけなくてはならず、その準備でゆっくりPCに向かっていられませんので、後ほど改めて伺いますね。
2014/05/11 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさんへ

分からないながらも書いているこのシリーズ記事をずっとフォローしてくださって、本当にどうもありがとうございます。忘れないようにとメモとして書いているのですが、やはり読んでくださる方がいてくださるのは嬉しいです。

aostaさんのコメントを楽しみにしていますので、どうぞよろしくお願いします!
2014/05/14 | URL | Otium  [ 編集 ]
Otiumさん こんばんは。

不思議な彫刻の解題、読ませていただきました。
いわれて納得の「聖グレゴリウスのミサ」!!
ご紹介くださった数々の絵画の構図はすでに親しいものであったにも関わらず、この彫刻のテーマが「聖グレゴリウスのミサ」であったことに全く気が付きませんでした。なるほど、キリストの下の人物が男性であるらしいことには気が付いていました。その彼が手にしている「丸いもの」が、ホスチアかもしれない、とちらりと考えては見たのですが、復活の瞬間そのものを表した彫刻作品とばかり思い込んでおりましたので、それから先に進むことができませんでした。
何より一番の失敗と思ったのは、盃に全く気が付かなかったことです。
見れども、見えず、とは本当にこのことですね。
キリストの前に置かれているとなれば、聖杯(カリース)以外、考えられません。ホスチアとカリースが揃う場面といえばミサ。ああ、私って本当におバカさん!

改めてこの彫刻を拝見しますと、同時代の絵画作品い比べ表現方法がより自然な感じがします。
ホスチアを掲げるグレゴリウスの動きにしても、十字架のシンボルを掲げた助祭(?)にしても絵画に比べ、よりリアルな感じがしませんか?

毎回思うことですが、何か疑問を感じると、納得がいくまでお調べになるOtiumさんの情熱に頭が下がります。
今回のシリーズもとても楽しませていただきました。
実は聖母と薔薇の関係でちょっと思い出したことがあります。
こちらもまた改めてコメントを入れさせていただきますね。

2014/05/15 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさんへ

クイズを出したときは、正解とは違う発想をいただくのも楽しんでいるのですが、今回はすぐに閃かれるだろうと思ったaostaさんが鑑定士と同じ答えを出していらっしゃらないので、鑑定は間違っているのではないかと疑って調べました。

>何より一番の失敗と思ったのは、盃に全く気が付かなかったことです。
⇒ ここがネックだったのですね。これはキリストの復活場面で、下にいる人が丸い物を持っているというのもマークしていらしたので不思議だったのです...。

聖杯の部分は不自然なので、後で飾りのために付け足したのではないか、と私は一目見たときに疑いました。私には目立ちすぎた部分だったのですが、aostaさんにはかえって死角になったとは興味深いです。

>ホスチアを掲げるグレゴリウスの動きにしても、十字架のシンボルを掲げた助祭(?)にしても絵画に比べ、よりリアルな感じがしませんか?
⇒ 本当にリアルですよね。屋根裏部屋で見つかった彫刻は、それほど腕がたつ人が彫ったのではないのだろうと思ったのですが、ロマネスク教会の彫刻と同様に、素朴な表現の方が彫った人の情熱が伝わってくると感じがします。

見つけ出して入れていたのは絵画ばかりだったので、彫刻だとどうなるのかと思って探しだして画像を追加しました。それで気になったのが、右手の小さな人物。これは助祭なのでしょうね。ホスチアがキリストに化体するのを信じなかったのは女性ではなくて助祭だったというバージョンがあるそうなので、彫刻はそちらの説なのではないかと想像しました。衣をひっぱっている様子が、「おい、おい、ちょっと...」と見えるので。でも、それを信じなかったら助祭は勤まらないだろうと思うので、かなり奇妙に思います。

>聖母と薔薇の関係でちょっと思い出したことがあります。
⇒ また教えてくださるのを楽しみにしていますので、よろしく♪
2014/05/15 | URL | Otium  [ 編集 ]
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