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2014/05/07

シリーズ記事目次 【屋根裏部屋にあった彫刻の解読】 目次へ
その6

前回の日記「受難を意味するパッションフラワーの不思議」で、日本でトケイソウと呼ばれる植物について書いていたとき、その特異な花を南米で発見したスペイン人たちは、どんな花を見たのだろうかと気になりました。

フランス語の呼び名に従ってパッションフラワーと書きましたが、トケイソウには500種類くらいあるのだそうなので。

変わった花なのでアーチ型に仕立てた鉢植えを買うことがあるのですが、ここは寒すぎるのか、間違っても実なんかはならないし、翌年まで生き延びてくれるのはごく稀にしかありません。

私が親しんでいるパッションフラワーは、こんな花です。



つまり、私が知っているのは白と青の花。

でも、前回の日記に書いたように、南米でパッションフラワーを見たスペイン人たちは、キリストの受難を象徴する花だと感激したのでした。受難のシンボルなら、鮮血を思わせる赤い花の方がぴったりするではないですか?

それで、スペイン人が見たのは赤いパッションフラワーだったのかどうかが気になりました。


変なパッションフラワーを見つけた

パッションフラワーが文献に初めて現れたのは1553年で、「granadilla(小さなザクロ)」という名で紹介されたのだそう。 それから10年余りたって出版された著書では「flos de passionis(受難の花)」という名前を使った、とのこと。

その図版がインターネットに入っているのではないかと思って画像検索をかけてみたら、目が釘づけになってしまった絵画がありました。

'Madonna and Child' by Joos van Cleve, Cincinnati Art Museum 

聖母マリアが右手に持ち、それを幼子のキリストが見ている花は、奇妙な形をしたパッションフルーツではないですか?!

上に入れた画像をクリックすると拡大しますが、花の部分を大きくした画像を入れます。

http://www.flwildflowers.com/clues/ 

下の部分は完全にカーネーションの花ですよね? それの上に、パッションフルーツに見せるような部分が付いている...。

「Madonna and Child」という英語名の題名で出てきたのですが、16世紀のオランダの画家Joos van Cleveの1535年の作品でした。

つまり、スペイン人たちがまだパッションフルーツの花を発見していないであろう時期です。 奇妙...。噂だけは流れていて、それを想像して描いたのでしょうか?

種明かしをしているサイトがありました。

最近になって調査したところ、もともとはカーネーションの花が描かれていたのに、絵画が描かれてから百年くらいたったときにパッションフルーツの花のような部分が描き加えられた、と判断されたのだそうです。

その方が自然ですね。幼子が目を向けているのはカーネーションの部分です。普通だったら、風車の玩具のような部分に目を向けるのが自然だと思う。

なあんだ...。

でも、この絵画についての記述があったページでは、パッションフラワーを描いた古い図版が入っているので興味深かったです:
Clues to van Cleve 'Mystery Artist' in Early Passiflora Art


なぜカーネーションの花?

加筆してパッションフルーツの花にしてしまったJoos van Cleveの絵画に、カーネーションの花が描かれているのが気になりました。

聖母マリアと薔薇の関係を学んだばかりなのですが、どうやらカーネーションもキリスト教のシンボルになっているらしい。たくさんの絵画にカーネーションの花が描かれていました。

こちらは、レオナルド・ダ・ヴィンチの初期の作品 ↓


La Madone à l'œillet, Léonard de Vinci (1479年頃)

ここでも、幼子のキリストが、妙にカーネーションの花に興味を示しています。 キリストの将来を暗示して描かれるイコノグラフィーなのでしょうね...。


カーネーションか、ナデシコか?

カーネーションと書いてきましたが、「ナデシコ」と言った方が良いのかもしれない。フランス語ではœilletœillet には色々な種類がありますが、こちらはバラの花がroseかéglantineかという俗称の区別はなくて、œilletに何かを付けて品種を特定していました。

たとえば、日本で「カーネーション」と呼ぶ品種は、学名がDianthus caryophyllusで、フランス語ではœillet communというのが正式な名前のようです。植物に詳しい人でもない限り、ナデシコ科の花はすべて「œillet」と呼んでいるように思います。

œillet はラテン語のcarnatioに語源があり、聖母マリアによるキリストのincarnation(受肉)につながる。カーネーションという呼び名は、この単語からでしょうね。

ギリシャ語の語源のDios anthosは「神の花」の意味があり、ラテン語になるとDianthusで、この単語がナデシコの学名に使われています。

その他、ナデシコとキリストの関係を説明するものもありました。

日本語情報では、キリストが処刑されたときにマリアが流した涙がカーネーションになったのだ、という記述がありました。

フランス語情報では、十字架にかけられた(あるいは、十字架を背負って歩いた)キリストが流した血が赤いナデシコになった、十字架を背負って歩く我が子を見たマリアが流した涙がナデシコになった、など等の記述がありました。

それから、ナデシコが十字架で使われた釘を想起させるというもの。

種の形が釘に似ていると書いてあるものがあるのですが、ナデシコの種は釘の形をしているようには思えないのですけど...。
Wikipediaに入っているナデシコの種の画像

フランスの記述では、この植物の形が釘と書かれていました。その方が似ているように感じます。真っ直ぐ伸びた先に、釘のような頭の花がついているので。 特に、カーネーションのような大きな花でないナデシコなら、釘そのものという感じがします。

追記:

コメントをいただいて、釘に見えるのは花の部分だと結論しました。

この花は、花びらを支える部分(花床と呼ぶ部分でしょうか?)が長いので、釘のように見えます。

Dianthus armeria 060805.jpg


それから、素朴なナデシコと呼べるような花は、花弁が5枚ですね。

キリストが十字架にかかって負った傷は5つ。それで5弁の薔薇に特別な意味があると知ってから、馬鹿の1つ覚えで「5」を探しています。


ナデシコとクローブに関係がある?

ところで、上に入れたレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画の題名をフランス語で入れるのは悪いかなと思って、イタリア語を調べてみました。「Madonna del Garofano」だそうです。

ということは、フランス語でœillet(ナデシコ)は、イタリア語でGarofanoということらしい。

ここで釘との関係がでています。

オーブンに入れて肉を焼くときに肉に釘を打つように刺して使う「クローブ」。

日本語でも「丁子(ちょうじ)」とも呼びますから、どうみても釘のような形。これは咲く前の花を乾燥させたものなのだそう。

この実をフランス語ではgirofleと呼ぶのですが、イタリア語ではChiodi di garofanoなのでした。


シャルトルーのナデシコ

私はなぜか、母の日のシンボルにされているカーネーションの花は余り好きではありません。余り好きではない、というよりは、全然好きではない。子どもの頃に紙で作らされた美しくない花が記憶に残ってしまっているからかな?...

野に咲くナデシコの方がずっと美しいと思う。こちらがカーネーションの原種ではないでしょうか?

野生のナデシコの中で特別に美しいと思うのは、œillet des chartreuxという品種です。間違った画像を入れてしまわないように、野生植物の散策道で表札がついていた本物の写真を入れます。少しピンボケですけど...。



フランスの野原には、色々な品種のナデシコが咲いているのですが、œillet des chartreuxは際立って美しいです。なにしろ、ピンク色が日の光に輝くように鮮やか! 

œillet des chartreuxというのは、「カルトジオ会のナデシコ」という意味です。

学名は、Dianthus carthusianorum(ディアンツス・カルツシアノルム) 。

日本ではカルトジオ会との関係は無視されているようです。学名で言われるより、「シャルトルーのナデシコ」と呼んだ方が美しい花のイメージになると思うのですけど...。

ナデシコは薬用効果もあるそうで、シャルトルーズ修道院で大量に栽培されていた品種に対して付けた呼び名だそうです。

ナデシコがキリストの受肉や受難の関連もあったら、修道院では特別好んで育てたのかもしれない。

でも、グランド・シャルトルーズ修道院で生産されている薬草酒で有名ですから、ナデシコに限らず様々な植物を育てているだろうと思います。


シャルトリューズの薬草酒

修道院でも、調法はごく限られた僧侶しか知らないという秘薬(現在は2名らしい)。

こんな特殊な酒は日本には余り入っていないだろうと思ったのですが、かなり入っていました:
シャルトリューズの酒を楽天市場で検索

中でもすごいのは、エリキシルÉlixir)という薬用酒。

木製のケースに小さな瓶が入っていて、いかにも万病に効く「ありがたい」お薬」に見えます。

生まれたのは1605年。
約130種の薬草、香草、花から作ったという不思議なリキュールです。

アルコール度は69度なので、そのままでは飲まず、角砂糖にたらして食べるのが一般的な方法になっています。

日本ではリキュールとして売られているようですが、本来は体力が弱った病人のための薬なのです。

日本にいる私の恩師が難病だと診断されたとき、砂糖に染ませたエリキシルの食べさせたのを思い出しました。

もしも神様が存在するなら、私みたいに自分勝手なことをして生きている人間が難病になるべきだと思いました。私の恩師は、友達仲間でも「仏様みないな人」と言う人がいるくらい献身的な人のです。

「治療法がないと言うのに、頭を切る手術なんて危険過ぎるから止めろ! 若いなら、賭けをする価値はあるだろうけど...」などと暴言をはいてしまった私。何かしなければいけないと責任を感じて色々やった中に、エリキシルがあったのでした。

そんな薬草に効果があったはずはないけれど、「体がどんどん麻痺して、すぐに歩くこともできなくなる」と病院で言われた症状には進行しなくて、あれから数年たつ今は、何事もなかったかのように元気で生活しています。

このときのことを書くとしたらブログ1本を立ち上げる必要がありますが、難病などという分野では、モルモットを必要としている外科医の言葉にのるのは危険が大きすぎると思う。現代医学で治癒できる病気は医師の指示に従うべきですが、「病は気から」というのもある、と思った経験でした。

ブログ内リンク:
★ 目次: フランスで感じるキリスト教文化
★ 目次: 縁起物や迷信について書いた記事 (フランスを中心に)
★ 目次: 薬として飲める酒、症状を回復する食べ物

外部リンク:
Clues to van Cleve 'Mystery Artist' in Early Passiflora Art
Passion flower in famous Madonna painting was added after artist died, art museum agrees
☆ L’oeillet peint : une fleur picturale   
La Vierge tenant une fleur : symbolique de la rose et de l'œillet
L'œillet des chartreux
カルトゥジアン・ピンク(Carthusian pink)ホソバナデシコ(細葉撫子)
Une fleur à la boutonnière, "symbole d'une vie exquise"...
☆ Wikipédia: Élixir (liqueur)


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カテゴリー: 植物 | Comment (7) | Top
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コメント
この記事へのコメント
カーネーション、なでしこ、石竹について、私も区別があいまいでしたので調べてみました。いずれもナデシコ科ナデシコ属の植物なんですね。
ナデシコの種の形が釘に似ているという説については、種ではなく種の入っている鞘の形のことを指しているのではないかと思います。どこかに画像はないかと探してみましたら、灯台下暗し(笑) Wikipediaのナデシコを検索してみましたところ、まさに私が探していた画像がありました。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%87%E3%82%B7%E3%82%B3
カワラナデシコの画像の次をご覧ください。
これって、釘に見えませんか?

それともう一つ、気になることがありました。
カーネーションの古い栽培種に「クローブ・ピンク」という種類があります。
花は強いクローブの香りがします。
修道院で栽培されていたナデシコとはこのクローブピンクのことではないかしら。手元にありますハーブ図鑑http://www.amazon.com/The-Complete-Book-Herbs-Practical/dp/0670818941/ref=pd_sim_b_5?ie=UTF8&refRID=0ZKSRVM0BR8YAWBET0DC によれば薬効のある花びらは、サラダやパイ、サンドイッチなどに、またワインに浮かべて香りづけに用いられた、とあります。そしてこのクローブピンクの花が乾燥した状態(種になる前)も、釘によく似ているのです。余談ですが、この本は説明も丁寧かつ正確で写真も美しく、大変役に立ちます。日本ではすでに絶版のようですが、そちらでは入手可能かもしれません。おすすめです(*^^)v
2014/05/08 | URL | aosta  [ 編集 ]
Otiumさん

何べんもしつこくごめんなさい。
今朝、件の本を見ていましたら、Otiumさんが本文で触れていらっしゃった"Dianthus carthusianorum"がクローブピンクのひとつとして「ホソバナデシコ」という和名で紹介されていることに気が付きました!
すみません!昨夜はワインをいただいて、ちょっと眠くなりながらコメントを書いておりましたので、見過ごしていたものと思われます(;'∀')
クローブピンクと呼ばれるカーネーションは、ほかにもメイデン・ピンク、ドリスなどがあり、いずれもエリザベス朝の品種だということでした。
2014/05/08 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさんへ

一緒に考えてくださって、どうもありがとうございます。感激です!

最近は何か調べようとするとインターネットで検索してしまうのですが、私も植物図鑑を持っていたことを思い出し、香草・薬草シリーズのフランス版図鑑にあるœilletのページを見てみました。花を1つ乾燥させた写真と完全に乾燥させたポプリの写真が入っていて、これはWikipediaに入っている写真以上に釘の形に見えました。

>種ではなく種の入っている鞘の形のことを指しているのではないかと思います。
⇒ 茎からスンと伸びて花が付いている形かと思ったのですが、1つの花の部分とみて間違いないでしょうね。そもそも、ナデシコは1本の茎に幾つも花が付いているものがあるので、全体の形とすると釘にならない。花びらの下の部分は「花床」と呼ぶとすると、花弁と花床の形が釘になる、ということだと思うことにしました。

>修道院で栽培されていたナデシコとはこのクローブピンクのことではないかしら。
⇒ クローブピンクという花の画像を探してみたら、色々なバリエーションが出てきて、シャルトルーズのナデシコに似たものもありました。

>クローブピンクと呼ばれるカーネーションは、ほかにもメイデン・ピンク、ドリスなどがあり、いずれもエリザベス朝の品種だということでした。
⇒ リンクを失ってしまったのですが、Wikipediaの画像整理ページに、クローブピンクの一覧があって、これだ、これだと思ったのですが、なぜか英語のページで使っているものばかりで、仏語ページでは全く使っていない画像なので不思議だったのです。エリザベス朝の品種だと聞いて納得しました。

>"Dianthus carthusianorum"がクローブピンクのひとつとして「ホソバナデシコ」という和名で紹介されていることに気が付きました!
⇒ ホソバナデシコを検索してみて、これが訳語として最も相応しいと思いました。ありがとうございます。でも、細葉撫子とは、何ともつまらない命名...。英語なでもCarthusian Pinkで、カルトジオ会の名が入っているのに、やはり日本ではそんなのは意味がないから無視されたのでしょうね...。
2014/05/09 | URL | Otium  [ 編集 ]
Otiumさん
おはようございます。
私が「鞘」と書きました部分は、おっしゃられる通り、”花弁と花床”なのだと思います。ひとつひとつの花を釘に見立てると、納得がいきますよね。

調べ物をするとき、ネットという方法がなかったら、膨大な量の本と首っ引きになっても、探している情報にたどり着くまで容易ではありません。
ネット検索は複数の情報を検索するには本当に便利ですね。
でも私は根がアナログなので、基本的に活字が好き(^^♪
図鑑などぼんやり眺めていると、ほっとします。
2014/05/09 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさんへ

インターネット情報が得られるようになってからの便利さは計り知れないものがあると思います。でも、その弊害も大きいですね。特に私はパソコン大好き人間なので、本をちっとも読まなくなってしまいました。パソコン上で文章を読むと、行をスクロールしてしまうのでしっかり読まないという問題点があるのに!

辞書も、フランス語はロベール仏和大辞典に頼るしかないのですが、この持ち上げるだけでも重い辞書は使わなくなってしまって、もっぱらCasioの電子辞書。でも、電子辞書の方には挿絵や表が入っていないことを思い出して、いま重い辞書を探し出してきて(どこに置いたかさえも覚えていなかった)、机に置いたところです。

いろいろと反省...。
2014/05/10 | URL | Otium  [ 編集 ]
毎朝、BS3で昔の番組があるのですが、今日は2004年の『スリーパー 眠れる名画を探せ』でした。
イギリス美術界のシャーロック・ホームズ、フィリップ・モウルド氏の話です。この方の単行本もあります。
以前も見てはいたのですが、今回、Otiumさんのこの記事をたまたまブックマークしていたので、番組と繋がりました。

モウルド氏がオークションで見つけた、安値の『アーサー皇太子(アーサー・テューダー ヘンリー8世の兄 15歳で病死)』の肖像画が本物だった話なのですが、アーサーが持っているアトリビュート??が、『ギリフラワー』という野生のカーネンションなんです(ウィキにモウルド氏が見つけた肖像画が掲載されている・アーサーテューダーで検索)。

この肖像画、18世紀以降行方不明だったそうですが、今はナショナル・ポートレートギャラリーに展示されています。若い頃のヘンリー8世に、似ていました。

ギリフラワーを検索しましたら、マザーグースの『一月は雪』に出てきました。7月に咲くようです。これ以上のことは分からず、残念でしたが。。。
それにしても、カーネーションの上に描かれたパッションフラワーは、不自然ですね。

2016/12/02 | URL | フォルナリーナ  [ 編集 ]
Re:
v-22 フォルナリーナさんへ

絵画を読み取る解読は好きです。本物か偽物かというのには何となく嫌悪感が出てしまうのですが。偽物でも、自分が惚れ込めば良いではないかと思うので。

野生のカーネンションの画像、見ました。これも不思議な花...。

gillyflower。なんだか不思議な名前ですね...。
2016/12/02 | URL | Otium  [ 編集 ]
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