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2014/08/16
もう2カ月も前のこと。クラシック音楽のコンサートに行って、演奏が始まるのを待っていたら、次々に舞台にあがってくる人たちがいて、こんなシーンができました。



「En grève」と書いた幕を持っているので、ストだとわかる。
えぇ~! コンサートを妨害して中止にするって言うの?!...

ピアノの横に立って、ちょっとふてくされてポケットに手を入れいる男性が演説を始めました。

フランスにいるんだな... と思う瞬間。

パリで地下鉄に乗ったときにも、突然演説を始める人たちに出会います。「お財布を盗まれてしまって無賃乗車をしているので寄付してください」とか、「子どもが何人もいるのに、生活費に困っている...」とか、みごとに演説なさる。

フランス人って、全員が俳優になれるのではないかと思ってしまう。そういうのに私は白々しくなるのですけど、ちゃんと小銭をあげている人たちがいるので、またまた驚きます。

フランス共和国の標語は、自由、平等、博愛だった、なんて思い出す...。



友達と道を歩いていて物乞いから呼び止められたとき、うまいことを言うと友人はご機嫌になって、かなりの金額を恵んでいたことがありました。びっくりするくらい良い台詞を言う人がいるのです。

つまり、彼らは単なる物乞いではなくて、上手に気持ちを引き付けるテクニックを持つ芸人なんだろうな...。

最近は東欧から来たらしい乞食もよく見かけるのですが、彼らの場合は言葉にハンディキャップがある。うまいことは言えないので、ただ物乞いをするだけ。となると、小銭をあげる人は殆どいないだろうと思ってしまうのですが、それしかすることがないからか、続けているようです。


アンテルミタン

いや、舞台に登場した人たちのことを、都会で出会う物乞いと一緒にしたら、叱られます!

彼らは「アンテルミタンintermittent))」、正確に言えば「スペクタクルのアンテルミタン(intermittent du spectacle)」、と呼ばれる職業についている人たちなのです。

ショービジネスの世界で、仕事がない時期には社会保険で所得を保障される権利を獲得している不定期労働者たちのことを「アンテルミタン(断続的)」と呼びます。

コンサートに行った時期は、アンテルミタンに対する失業保険制度の見直しを行うことになったので、彼らは権利を獲得できる人たちが大幅に減ってしまうとして反対運動をおこしたのでした。全国各地でストをおこしていて、有名なアヴィニョン演劇祭も開催されなくなるかもしれない、とニュースで騒いでいました。

このシステムが私にはすんなり分かりません。この際、少し調べてみました。

所得を失業保険で補って生活できるアンテルミタンの身分が認められるのは、次のような職業だそうです。

俳優、ダンサー、振付師、キャバレーの芸人、大道芸人など。それから、舞台・映画・テレビなどで音響・照明などを担当する技術者も含まれます。

1年中働くわけにはいかないし、練習しているときは労働時間としてはカウントされないでしょうし、サラリーマンのように年最低5週間の有給休暇もないので、働かない時期は失業保険の収入を与えるというシステムなのでしょうね。

こういう特殊な職業に対する失業保険制度ができたのは1936年。当初は、映画産業の技術者や管理者のために作られた制度だったそうですが、現在ではアンテルミタンの数がどんどん増えてしまった。1989年には5万人だったのに、2013年には25万人に増加していたとのこと。それで、失業保険の財源も厳しくなったようです。

ただし、上に書いた職業をする人たちなら全てアンテルミタンとして優遇されるというのではなく、最低限の時間は働いているなどの条件があります。

政府サイトに、アンテルミタンの失業保険を計算する方法が出ていました:
Comment sont calculées les allocations chômage des intermittents du spectacle ? 2014/07/21情報

過去6.5カ月間、技術者は6カ月間に、507時間(3カ月半に相当)の労働を行ったことを証明できる場合にアンテルミタンとなることができるそうです。つまり、実働時間が半分くらいあれば良いということかな?...

何を労働時間と認めるか認めないか、上限額などもあって、複雑。自分には全く関係ないことなので、読む気にはなりませんでした...。


◆ 過去にもアンテルミタンのデモに出会っていた

アンテルミタンのデモには、過去にも何回か出会っています。人が集まるイベントでやるので目立つのです。 さらに、演じることが商売の人たちがやっているので、デモも演劇的で、派手になる。

遠くまで出かけた音楽フェスティバルのときは、大々的なアンテルミタンのデモの年だったので、機動隊の車がたくさんいて、怖くなる雰囲気でした。そのときは、こんなところで写真を撮ったら連行されると思ったので、記録はなし。

写真アルバムを探してみたら、2003年の夏に旅行したときのものが出てきました。古城を舞台にして寸劇を見せるというイベントに行ったときの写真。



城の入口に、「生きたアンテルミタンなしにはスペクタクルはない」などと書いてあるので、アトラクションは無いのかとがっかりしたのですが、垂れ幕をバックにして演劇をしていました。



楽しむための見世物なのに、デモの垂れ幕をバックにやられると違和感でいっぱいになるのですが...。


アンテルミタンになった友達

友人関係の中にも、アンテルミタンをやっている女性がいます。兄弟の中で一番仲が良かった弟が、幸せいっぱいだったはずなのに自殺してしまってから人生を考え直し、一流企業の会社勤めを辞めて、昔からやりたかった俳優になることにしたのでした。

フランスで俳優をやろうとしたら、非常に厳しいと思います。なにしろ、フランス人たちは、ふつ~うの人でも人前で演じてしまうのですから。

知人が納屋で開いた誕生パーティーのときに撮った写真
この写真を入れた記事: フランス人は笑い話が好き 2008/10/12

彼女の新しい俳優業が大成功したとは思えません。台詞を覚えるのは得意なのだそう。始めたことには小さな舞台で立っているのを見たのですが、俳優を職業にしようとしたら、特別な才能がないと日の目を見れないと思います。

地方テレビ局は地域でおこったことを何でも報道するので、演劇のイベントがあると彼女が出てくるのではないかと期待するのですが、出てこない...。一昨年だったかに、ある町で行われたイベントに行ったら、彼女の姿を見つけました。仲間たちとアトラクションをしていて、ガールスカウトの恰好をしておどけて大通りを練り歩いていました。もう50代後半なので、見てしまったのが悪かったような気まずさを私は覚えましたが、演劇が好きな人たちは別の感覚を持っているのでしょうね。

ともかく、昔から夢だった演劇の世界で、アンテルミタンという立場で、会社勤めしていたころと同じくらいの収入を確保できる制度は良いと思います。日本で演劇をやりたい若者たちは、定職を持って昼間は働いて、夜に練習するとかいう厳しい生活を強いられると聞いていますので...。


フランスは、やはりカルチャーを大切にする国なのかな?...

アンテルミタンというのは「断続的」という意味です。こういう仕事をしている人たちは、サラリーマンのように通勤して毎月の給料が入ってくるわけではない。だから仕事がないときには収入を保障してあげようというのは分かります。

でも、私はなぜショービジネス関係だけに与えられているの?... と思ってしまう。

だって、他の職種でも、フリーランスで働いている限り、仕事がない時期があるではないですか? 例えば、通訳、翻訳、本の挿絵を描く仕事とか、色々あると思うのです。

俳優さんは練習するときの時間が労働時間としてカウントされないと言いますが、フリーランスで通訳の人は、仕事を請け負ったら出てきそうな単語を予習します。テーマも理解していないと訳せないので、これも調べる。フランス語同時通訳者のブースを訪れたとき、事前に読む資料が段ボール1箱くらいあるのでびっくりしたことがありました。確かに、英語などでは通訳の仕事が多いので自分の専門を決めておけるでしょうが、それ以外の言語では同時通訳者の数も少ないので、どんな分野も請け負わなければならないのでしょうね。

そういう仕事をしていても、フランスでは仕事がないときに失業手当があるのかどうかは調べていないので分かりません。なさそうに思うのですけど、フランスは福祉国家なのであるのかもしれない...。

さらに拡張して考えたら、注文が入ってこない時期は収入がない会社を経営している人もいるではないですか? でも、それは事業主なのだから社会保護する必要はないか...。

アンテルミタンのように所得を保障する制度があるのはフランスだけなのだそうです。文化の国にするという政策がフランスにはあるからなのでしょうね。

フランス人を見ていると、日本人ほどには美術館やコンサートには行かないと感じるのですけど...。日本人の場合、美術やクラシック音楽に特に興味をもっていない人でも、話題になったらでかけます。フランス人は、自分の趣味でなかったら、お金を払ってまで行きません。

ショービジネスの世界だけでアンテルミタンとしての失業保険をもらえる制度が理解できない、と友人に話したら、演劇には興味がない人なのに、当然与えるべき保護だと返事されました。

そう言われると、私は酷い条件で働いているという僻みでアンテルミタンの人たちを羨んでいるからの発言なのだろうな... と反省。

アンテルミタンのシステムが問題になるのは、テレビ局などがこの制度を利用して、常時必要な照明係りなどをアンテルミタンとして雇って、月の半分だけ報酬を払い、残りの半分は失業保険で収入を得させているような例なのだそう。それから、高い出演料をとっている俳優が、しっかりと失業保険ももらっていることなども問題なのだ、と説明されました。


ストが多い国、フランス...

夏に入ってから、国鉄のストが誘引になり、パリのタクシーがストを始めて、それから色々な職種でストが行われました。 友達が日本からフランスに来る時期だったので、ストにぶつかったら旅行は目茶目茶になるだろうと思って、ニュースをハラハラして見ていました。

その友達もタッチの差でストを潜り抜けてフランス旅行をし、無事に日本に帰った後、もうストは収まったのだろうと思ったら、まだ長期ストを続けていたSNCM(Société nationale Corse Méditerranée)がニュースに登場しました。

マルセイユの港とコルシカ島を結ぶフェリーの会社です。なぜ経営悪化になったかという理由の一つに、この会社から乗客を奪ったイタリアのフェリーと比較すると、船員が優遇されすぎているというのがありました。従業員数も多いし、1年のうち、船に乗る仕事を6カ月間すると、6カ月の有給休暇がもらえるのですって。

Jean Nicoli et Corse SNCM

この会社のフェリーにはコルシカ島に行ったときに乗ったのですが、確かにスタッフの数が多いなと思いました。行きの船はクリスマスイブの日だったので、食事の前にシャンパンでカクテルパーティーを開いてくれました。こんな日に船に乗る人は非常に少なかったので、まるで従業員のパーティーに参加させていただいたような気分でした。

これだけ働かなくても生活が保障される国の仕組みができていて、それでも国の経済がなんとか沈没しないでいるのは凄いと思います。もっとも、フランスの友人たちは、「フランスはもうだめだ」と口癖のように言っていますが。でも、日本の方が危なっかしい船に乗っているのではないかな?...

外部リンク:
☆ Service-public.fr: Comment sont calculées les allocations chômage des intermittents du spectacle ?
☆ Wikipédia: Intermittent du spectacle
山田ひろ美のフランス演劇レポート
アヴィニョン演劇祭のストライキについて:理解するための3つの問いと個人的見解
☆ 文化庁: 諸外国の文化政策に関する調査研究
SNCMの長期ストライキが終結。
☆ 日本経済新聞: アベノミクスに試練 GDP失速で(社説) 2014/8/15

内部リンク:
日本は弱者が生きるには不利な国...  2014/01/28


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コメント
この記事へのコメント
アンテルミタン
以前、日本の女優の片桐はいりさんがフィンランドで映画撮影をしていたときに、俳優や裏方さんが、仕事がない間失業保険がもらえると本に書いていました。多分アンテルミタンと同じシステムだと思います。ほんと、日本では仕事をかけもちしないと生活できないので、羨ましいシステムですね!でもある程度のレベル(試験?)があるのかな。。
2014/08/16 | URL | 千晶 静岡  [ 編集 ]
Re: アンテルミタン
v-22 千晶 静岡さんへ

>片桐はいりさんがフィンランドで映画撮影をしていたときに、俳優や裏方さんが、仕事がない間失業保険がもらえると本に書いていました。
⇒ やっぱり、そうですか。教えてくださって、ありがとうございます! アンテルミタンのシステムはフランスにしかないという記述を鵜呑みにして書いてしまったのですが、フランスよりも社会福祉が徹底している北欧諸国には同じような保障があるのではないかと思っていたのです。でも、フィンランドではフリーで働く職業の人たち全てに失業保険があって、「フランスだけ」という記述は、ショービジネスだけに特権が与えられているという意味なのかも知れないと思いました。

日本では、フリーターをしている若者が怠け者であるかのように罪悪視する風潮があるのを不快に思っています。組織に所属しないでフリーで働いてくれる人も必要なわけで、そういう人たちを低賃金で、社会保障もつけないで、いつでも解雇できるスタッフとして働かせてしまっていることこそ問題にすべきだと思うのです。日本でフリーターをしている若者のブログに出会ったことがあるのですが、仕事がないからフリーターになったけれど、そういう働き方をしていると履歴書に書く職歴がゴチャゴチャになってしまい、就職試験を受けても合格できなってしまうのだそうで、悲惨でした...。

フランスでは、医師や看護婦という特殊な職業にもフリーターがいて、そういう人たちがいてくれるから医師や看護婦も人並みに休暇がとれるのです。特殊技術を持っているのにフリーターで働くのは、報酬のレートが高いし、労働時間を多くしたくない人には適しているというメリットがあるのだそうです。フランスではパートで働いても社会保障をつけるのは義務だし、働く日数に応じて有給休暇も与えられるし...。

>ある程度のレベル(試験?)があるのかな。。
⇒ よく調べていないので何とも言えませんが、片手間でやっているのではなくて、それを職業としていると認められればアンテルミタンになれるのではないかと思います。友達の場合も、ほとんど素人の趣味が高じたレベルの演技力だと思いましたが、俳優を仕事にすることにしてから早々にアンテルミタンになっていました。
2014/08/16 | URL | Otium  [ 編集 ]
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