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2014/09/10
前回の日記「ボージョレーにワインの買い付けに行く」に書いたワイン農家に行くと、いつも気になる建物がありました。農家の敷地の横、道路沿いにある小さな建築物です。

それが今回行ったら、入口にあったドアがなくなっていて、中が覗き込めるようになっている♪  放置されているような建物だったのですが、最近になってボランティアの人たちが修復を始めたのだそうです。

 

紋章を掲げている入口が美しいので何の建物なのか気になっていました。1813年という年号が紋章に刻まれているのですが、この石は何処かから持ってきてはめ込んだだけらしいとのことでした。

中を覗き込むと、こんな風になっていました。



はあ、パンを焼くための建物だったのですか...。

ワイン農家のご主人は「ボランティアの仕事ってね...」と笑ってました。修復を始めたのは良いけれど、ちっともはかどらないのだそう。それはそうでしょう。畑仕事をしている農家の人たちから見たら、まだるっこしくなるくらい力仕事はできないでしょうから!

途中で挨拶に来た息子さんも、「ボランティアって...」と同じ言葉を発する。

ボランティアは色々な国籍の若者たちだったようです。修復のために必要な石を運んでくると言うのでトラクターを出してあげたら、持ち帰る石のうち大きなものは全て農家の親子に動かさせて、自分たちは小さな石だけを扱っていたのだそう。それでは、参った、参ったになっても仕方ないですね...。


フール・ア・パン

フランスの昔にあったパンを焼くための窯は「four à pain」と呼びます。パンを焼くかまど。

これを持っている民家にもあるのですが、旅行していて目につくのは、村人たちが共同で使っていたカマドです。

面白い呼び名としては「four banal 」があります。封建時代、領主が支配している土地の人々がパンを焼くために設置したパン焼き小屋をこう呼びます。それを使う料金を税金のように領主に収めさせる、というシステム。

「four」はオーブンのこと。「banal」は、「平凡な、何の変哲もない」という意味で普通に使われる単語なのですが、特殊な意味として、「(領主の)罰令権、使用強制権の及ぶ」という意味もある形容詞なのです。

※ (droit de) banalité: (領主による)使用強制権。領主所有の粉ひき用水車、パン焼きかまどなどの使用を領民に強制し、使用料をおさめさせる権利 。

フランス革命の後には、共同パン焼きかまどの使用料を払う必要はなくなっています。その後にできたものは「four banal 」ではないわけですね。住民たちが共同で使っていたという意味で「four communal」と呼べば問題ないのでしょう。

どこの村でも昔はあったはずの共同で使うパン焼き窯と洗濯場の建物が好きです。使う必要がなくなってから取り壊されたケースも多いですが、文化財として美しく修復・保存されているものが残っています。

昔の生活をほうふつとさせてくれるのが好き。

パンを焼いて冷めかけてきたかまどは、コトコトと煮る料理に適していたのだそう。共同洗濯場に洗濯物を持って行くときに、煮物料理を入れた鍋も持っていってパン焼き窯に入れ、洗濯が終わると鍋を取り出して家に持ち帰ったという話しも聞きました。


パン焼き小屋の形

ボージョレー地域で見た小屋は、中を見ることができたのでパン焼き窯だったと分かったのですが、ただの四角い建物なのが気になりました。共同洗濯場かと思ってしまう建物の形だと思っていたからです。

私にとって、パン焼き窯の小屋は、すぐにそうだとわかる形をしているイメージがありました。

例えば、こんな形。

 
ブルゴーニュ地方Blanot 村

パンを焼くオーブンの部分が、こんな風にドーム型になっています。煙突もついているので、すぐにパン焼き窯だとわかるわけです。 この写真では、左手のところから人が入ってカマドを使うわけです。カマドの入口の上に煙突がついていますね。


もう1つ写真を入れます。そっくりでしょう?

 
ブルゴーニュ地方Fixin村

パン焼き窯の建物がなぜか好きなので、見かけると写真を撮っています。

写真アルバムを眺めていたら、ボージョレーで見たのと同じような四角い建物もありました。

 
ブルゴーニュ地方Saint-Maurice-de-Satonnay村

かまどの形が見えない四角い建物は珍しいと思って撮影していたのを思い出しました。色々見ても、すぐに忘れてしまう私...。

かまどの部分は丸くして作るとしても、その上に屋根をのせてしまえば四角い建物にもなるわけなのですね。


伝統的なパンを焼く方法

昔の大きなパン焼き窯は私が住んでいる家にも残っているので、たまに昔ながらのやり方でパンを焼くことがあります。

パンを1つだけ焼くにしては大きすぎるカマドなので、暖めるだけでも大変です。たまに使うからと、いっぺんに火を燃すと石が破損してしまうので、何日も前から少しずつ暖めていく必要があります。

個人の家にあるものはめったに使われませんが、村に共同パン焼き窯があるところでは、有志の人たちが協力してパンを焼くイベントをすることがあります。

この形のかまどというと、ピザを焼く装置に似ているというとイメージがわくかもしれません。どんな風にパンを焼くのか見たことがない方のために動画を入れておきます。


Ces passionnés du bon vieux four a pain

頻繁に窯を使っていない場合は、数日前から少しずつ窯を暖めるために火を入れて準備します。いきなり強い温度にしてしまったら窯の石が割れてしまいますので。

現代の装置からしたら、かなり大変な作業ですが、石の窯で薪を燃して焼くパンは味が全く違います。現代のフランスのパン屋さんでも、薪で燃した窯でパンを焼いているというのは、そう珍しくはありません。

この動画を見始めて、民家にあるパン焼き窯なのだろうと思いながら見ていたら、パンをこねる本格的な電動器具が出てきたので、本職のパン屋さんなのかな、という気もしました。

Pétrin Gravure de Victor 昔のパン作りにこだわるなら、パン生地を手でこねる木製のpétrin(こね桶)を使って欲しかった...。

人力でパンをこねるのは力がいるので大変な作業なのではありますが。

昔にパンをこねるために使われていたpétrinは、今ではアンティーク家具として再利用されていることが多いので、よく見かけます。
オーク材のpétrinを画像検索

ちゃんと手でこねているパン作りの動画もあったので入れます。


PAIN de Campagne sur COMIAC

米を釜で炊くのと違って、パンを焼くのは大変ですね。それが主食なので、パン屋が登場するまでのフランスでは日常の仕事としてやっていたのだ...。

昔は、フランス人たちも働きものだったのですよね。50代の友人は、子どものころ、母親は朝食の片づけが終わると、もう昼食の準備を始めていたと話していました。


◆ フランスパンは薪で焼くのが一番!

日本人から、フランスでは毎日パンを家で焼くのと聞かれることがあります。

「昔の農家では、日曜日に1週間分のパンを焼いていたけれど、今ではやりませんよ」と答えていたのですが、最近のフランスでもパン焼き器が登場して、自宅でパンを焼く人もでてきました。

でも、はっきり言って美味しくないです。
もっとはっきり言えば、不味いと思う。

日本で、そういう電気器具で作ったイギリスパンを食べたときは、下手なパン屋のより美味しいと思ったのですけど。

フランスで売っているホームベーカリーの性能が悪いからかもしれませんが、こういう装置はフランスパンを焼くのには無理があるのではないかという気もします。フランスパンは表面がカリカリに固く焼きあがっているのが美味しいのですから。

フランスパンの出来は小麦粉の質にもよりますが、やはり薪で燃すオーブンで焼いたものが美味しいのは明らかだと思います。

パン屋の製造技術が近代化したのは1970年代だったそうです。それまでは、伝統的な窯で焼いていたのでしょうね。

でも、現在のフランスでも、薪を燃すオーブンを使っているパン屋は、そう珍しくはありません。 パン屋の店先には、薪で焼いていると強調して宣伝してあります。


下に入れる動画は、無農薬で小麦を栽培し、それをパンにしている農家兼パン屋さんのようです。これが最近はやり。「Paysan-Boulanger(百姓・パン屋)」という名称までできています。


Nicolas Supiot : Meilleur artisan du pain au monde


薪でパンを焼くオーブンは危険...

薪で燃す本格的な窯で焼いたパンが美味しいと書いたのですが、少し前、パン屋に就職した知り合いの女の子が大やけどをしたと聞いてショックを受けていました。

彼女は店でパンの販売をする仕事のほかに、毎朝5時に出勤してオーブンに火を入れる役割を持っていたのですが、その日、パン焼き窯の扉を開けたら炎が噴きだしてきたのでした。

薪を燃す方式の窯なのだそうで、何かの加減でそういう事故がおこるらしい。 確かに、電気のオーブンとは違って危険があるのですね。

顔から上半身にかけての大やけど。フランスには重傷の火傷専門の病院が2つあるそうで、彼女はその一つの病院に入りました。 焼けなかった部分の皮膚をとって移植をしたとか、聞いているだけでも鳥肌がたつお話しでした。

フランスは労働者の保護が徹底していると思っていたのに、彼女が勤めていた大手パン屋はいい加減にやっていたらしい。窯の火入れのような危険な作業をする場合には2人ですさせなければいけないという決まりがあるのに、彼女は一人でさせられていた。さらに、火傷をした場合のためにシャワーの設置が義務付けられているのに、それもなかった。

やけどをした彼女が社長の自宅に電話すると、「人を差し向けるから」と言われたのに、しばらくしても誰も来ない。それで彼女は自分で救急車を呼んだそうです。洗面所で水を体にかけたり、皮膚にこびりついた衣服をはがして脱いだりしながら助けを待ったのだそう。

酷い話し。法律違反をしていた経営者を告発すべきなのだけれど、本人は解雇されることを心配して、何もしないで欲しいとお父さんに言ったのだそうです。その前にも一度やけどはしていて、そのときも文句は言わずに仕事を続けていたとのこと。

小さなときには近所に住んでいたので、よく一緒に遊んでいました。少しぽっちゃりして可愛くて、気立てもよく、頭も良い。彼女の家では母親は働かず、父親の安月給だけで一家4人が暮らす貧しい家庭だったので、こんな女の子だったら、しっかり教育を受けさせたら良い仕事ができるようになるのに... と思ったりしていたのです。

彼女の両親は離婚して、母親に連れられて家を出てからは会っていませんでした。久しぶりに聞いた彼女の消息が大やけどの話し...。

20歳になったばかりで顔が大やけどの痕になってしまうなんて、あまりにもかわいそう。でも、幸いにも、彼女の伴侶はしっかりと面倒を見ているそうです。あんなに気立てが良い子なのだもの。良い男の子に好かれていて当然だと思う。

 シリーズ記事: ボージョレー旅行 2014年秋




ブログ内リンク:
★ 目次: パン、パン屋、昔のパン焼き窯など
★ 目次: フランス人の古民家を修復する情熱、建築技術
★ 目次: 昔の共同洗濯場と洗濯機

外部リンク:
☆ Wikipédia: Four à pain
Nos ancêtres et le four banal à pain du seigneur
☆ Wikipédia: Banalité (droit seigneurial)
DES FOURS ET DU PAIN
Auvergne d'autrefois: Le pain et le four
S'installer Paysan Boulanger - Agriculture paysanne
Histoire de la boulangerie


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