| Login |
2015/02/12

シリーズ記事目次 【赤ずきんちゃんのガレットとは?】 目次へ
その3


赤ずきんちゃんの話しは昔から口伝えてヨーロッパには存在していて、フランスでは11世紀の農民たちに語り伝えたものが記録に残っているのだそうです。

赤ずきんちゃんのお話しは、ペローが1698年に出版した『Les Contes de ma mère l'Oye』という題の童話集に『Le Petit Chaperon rouge』という題名で入っていました。

「ma mère l'Oye」と聞いたら、イギリスの童話「マザー・グース」を連想したので不思議でした。でも、ペローの方が先にこの表現を使っていたようです。

日本語では「ガチョウおばさん」とも訳されていた言葉なのですが、これは乳母のことだという解説がありました。子どもたちに昔話を聞かせる乳母をそう呼んでいたらしい。

Image illustrative de l'article Les Contes de ma mère l'Oye
Contes de ma mère l'Oye, illustration à la gouache d'un manuscrit de la fin du XVIIe siècle

ドイツのグリム兄弟(JacobとWilhelm Grimm)が、赤ずきんちゃんのお話しを『Rotkäppchen』と題して童話集が出版されたのは、初めの版が1812年。19世紀になってから、やっと児童文学のジャンルができたのだそうです。


微妙に異なるストーリー

20世紀半ばに民族学者が集めたフランスに伝わる民話では(Paul Delarue, Catalogue raisonné du conte populaire français, 1951年)、童話『赤ずきんちゃん』のバージョンは30種類を超えていました。そのうち2つがペローの童話の流れを汲むもので、20のお話しは口伝えのストーリー、残りの10ほどは両方をミックスしたお話しだったのだそうです。

文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースも、「赤ずきんちゃんにはバリアントしかない」と言ったのだそう。現代でもお話しが作られているし、将来も新しいバリエーションが生まれていくのでしょうね。

フランス国立図書館(BNF)のサイトには、おとぎ話に関する特別展「Il était une fois… les contes de fées」を開いたときの豊富な資料が入っていて、赤ずきんちゃんのお話しを10つのバージョンで読むことができるようになっていました。

20世紀になる前にフランスで書かれた4つのバージョンを、表にまとめて比較してみました。

ペロー童話
1697年

Conte de la mère-grand
1870年

La Fille et le loup
1874年

Conte tourangeau
1885年
地域  ニヴェルネ地域オーヴェルニュ地方トゥーレーヌ地方
主人公
赤い頭巾をかぶった
美しい少女
少女
(特徴はない)
少女
(他家で働く)
少女
名前はJeannette
悪者役狼男豚を連れた醜い男
手土産ガレット1個、
バターの小瓶
菓子パン1個、
ミルク1瓶
パン1個、
小さなチーズ
なし
目的と
目的地
病気の祖母の家
(病気見舞い)
祖母の家
(おすそ分け)
母親がいる自宅
(帰宅)
祖母の家
(病気見舞い)
道の選び方少女と狼は別々の道を行く縫い針の道か、留針(ピン)の道の選択肢があった少女は左の道、男は右の近道を行く
人食いなし少女は肉と血を食する血で料理し始めたが、結局は食べない
ベッド少女は自分から洋服を脱いでベッドに入る少女は狼に勧められて一つ一つ衣服を脱いでいく少女は狼に勧められて服を脱いでベッドに入る少女は男に勧められて服を脱いでベッドに入る
少女の疑いと機転5回言う6回目の指摘の後、少女は外に出て逃げる4回言う4回目の指摘の後、少女は男をだまして外に出て逃げる
結末狼は少女も食べてしまう狼は少女が家に入ったときに追いついたので遅かった狼は少女も食べてしまう男は豚に跨って少女を追跡するが、川で溺れて死ぬ
誰が死んだか少女の祖母
少女
少女の祖母少女の母親
少女
少女の祖母
醜い男、豚
文章仏語 和訳仏語 和訳仏語仏語

詳しく書いた比較表(PDF)はこちら

比較表は、ざっと目を通してメモしただけです。もしも「赤ずきん」の研究をなさっている方がこのページを開いてしまっていらしたら、私が書いたことは無視するか、ご参考までに止めてくださるようにお願いします。

それでも、この4つのバージョンの比較は面白いと思いました。主人公は少女で、アウトラインは同じストーリー。でも、大きく違っているところもあるのです。
  • 少女の服装: 赤頭巾をかぶっている、かぶっていない
  • 少女が向かったのは: 祖母の家、自宅
  • みやげ物: 2種類の食べ物、何も持たない
  • 悪者: 狼、狼に化けた男(bzou)、醜い男
  • 目的地に行く道: 縫い針の道か留針(ピン)の道かの選択肢があった、それ以外。悪者に先に行かれてしまった理由は、少女が物理的に遠い道を歩いたから、道草をしていて時間がかかったから。
  • 悪者に食べられた人: 少女の祖父母、少女の母親
  • 人間の共食い: 少女は食べる、あやうく食べそうになる、到着したときに人肉はなかったので食べない
  • 少女の結末: 悪者に食べられてしまう、逃亡に成功する
  • 悪者の最後: 成功、少女の機転に負ける、負けただけではなく死んでしまう

これで子どもに聞かせるお話し?..

赤頭巾をかぶった少女として登場するのはペローの童話だけなのですが、主人公は「赤ずきんちゃん」と呼んでおきます。

Gustave Doréの挿絵赤ずきんちゃんのストーリーには、かなり微妙なところがあります。

人間(少女の祖母ないし母親)を食べてベッドにもぐりこんでいた悪者(狼ないし男)は、少女に身に着けているものを脱いでベッドに入れと言います。

バージョンでは、少女が脱いでいったものの名前をあげていって、まるでストリップショーのよう。それを何処に置こうかなどと少女が聞くのですが、もう必要ないから暖炉にくべてしまえ、なんて言われている!

その言葉に従ったのかどうかは書かれていないのですが、このバージョンでは少女は逃げて家に帰るので、もしも服を燃してしまっていたのなら裸で走って逃げたはず。でも、このお話しではお婆さんの家が遠かったわけではなさそうなので、風邪はひかなかったか?...

では、ぴったりと寄り添って寝ることが強調されています。大人が面白がって話すためのストーリーみたい...。あるいは、子どもの脳裏に免疫をつくる教育的な知恵なのかな?...


それはともかく、非常に残酷なお話しです。

悪者が人間を食べるという筋書きだけでも恐ろしいことなのに、主人公の少女に先に殺した人間を食べさせる話しになっているものもあるのです。それが出てこないのはペローの童話だけ。

悪者(狼ないし男)は入り込んだ家で女性(少女の祖母ないし母親)を殺して食べたわけですが、ペロー童話以外では食べ残しておいて、やってきた少女にそれをすすめています。オオカミが獲物をとったときには、全部は食べないで、食べ物がないときのために土の中に残りを埋めておくという習性があるのだと聞いたことがあるのを思い出しました。

では、少女は自分の祖母ないし母親を食べてしまいます。では、少女がお腹がすいたと催促して料理しはじめたのですが、なんとなく変だと気がついて、食べるのをやめています。

ペローの話しでは、狼は獲物にありついていない日が続いていたのでお婆さんをむさぼり食った、とわざわざ語っています。つまり、普通は少女が残りを食べさせられる話しだったので、少女が到着したときには食べるものは何もなかったという設定にしておきたかったのではないか、と私は思いました。


子どもに聞かせる話しとしては相応しくないとも思ってしまいますが、おとぎ話というのは往々にして、考えてみれば残酷な話しが多かったような気もします。

このおとぎ話を子どものときに聞いた私は、微妙なところなどは分かっていなかったはずで、赤ずきんちゃんは馬鹿バカしいお話しだと思っていたような気がします。そもそも、オオカミがお婆さんになりすましていて、それに気がつかないはずはないではないですか? 「どうしてそんなにお耳が大きいの?」なんて質問するはずはないですよ...。

でも、赤ずきんちゃんが繰り返し質問するのにはリズムがあって、最後に食べられそうになるところにスリルがあって、それが子ども心を刺激する効果があったのだと思います。


なぜ? と考えたら、きりがなさそう..

赤ずきんちゃんの話しは、分析してみると非常に興味深いでしょうね。そういうのを卒論のテーマにして研究してみたかった。でも、若いころの私は、何に時間を割いたら面白いかを見つけ出す能力がなかったのでした。

フランス政府給費留学生で東大に来ていたフランス人の男性に会ったとき、何を日本で勉強しているのかと聞いたら、偉い! と脱帽したことが2度ありました。

一人の研究テーマは、フーテンの寅さん。それを研究したら、日本人のメンタリティーが浮き上がるだろうな... と感心。その後に出合ったもう一人のフランス人学生の研究テーマは、一休さんなのでした。彼いわく、一休さんには深い哲学的思考がある。「このはし渡るな」のお話ししか私は知りませんでしたけど、そのモデルになった一休宗純のことらしい。

狼に出会った赤ずきんちゃんですが、二股の道で、縫い針の道を行くか、留針の道を行くかというのが出てくるバージョンがあります。少女が布を縫うとしたら、針で真面目に縫っていくタイプか、横着してピンでとめてしまうタイプかを読み取るということでしょうか? 赤ずきんちゃんの研究家は、この部分に注目するようです。

4つの話しを比べて、異色なのはオーヴェルニュ地方ののバージョンでした。

主人公は他所の家で牛の世話をする仕事をしているので、貧しい家庭の子どもだろうと想像します。フランス中部にあるオーヴェルニュ地方は山岳地帯で、貧しくて出稼ぎが多かったということでも知られています。美味しいチーズがある地方として有名なのですが、主人公にチーズを持たせるのも面白い。

でも、オーヴェルニュ版が決定的に他と違うのは、主人公の少女が帰宅するお話しなのです。つまり、オオカミが食べてしまって、赤ずきんちゃんに残りを食べさせようとするのは、お婆さんではなくて、一緒に暮らしていた母親の肉と血。残酷すぎるではないですか?!...

面白いな、と思ったのは、赤ずきんちゃんが機転をきかせて逃げ出す手段。のお話しがそうなのですが、いずれも「おしっこ~!」という感じで外に出たのでした。紐で縛って外に出せば大丈夫と思った悪者も馬鹿だと思うけれど、子どもにとって、大人に対抗して自由を獲得できる手段は排泄かな?...

実は、私も子どものころ、母親にしかられそうになるとトイレに籠城していました。鍵をかけられるから身を守れる場所だし、敵にとっては必要な場所なので、しばらくすると「出てきてちょうだい」と嘆願してくるので、いつも私の勝になるのでした。


赤ずきんちゃんが持っていたもの、再び...

最も有名なペローの童話の中では、赤ずきんちゃんはgalette(ガレット)を持って出かけたと書いてあります。

ここのところ、そのガレットとはどんな食べ物なのかについて書いてきました。
赤ずきんちゃんが持っていったガレットのレシピ(フランス版)

のオーヴェルニュ地方の民話では、お母さんが焼いたガレットは登場していません。主人公の少女は牛飼いの仕事をしていて、雇用主から報酬代わりにパンとチーズをもらって家に帰るというお話しでした。ここで、パンは「une pompette de pain」となっていました。その単語で検索したら、丸いパンの画像が出てきました

やはり、赤ずきんちゃんは丸いものを持つのかな?...

Wikipediaの「赤ずきん」からリンクされているフランス語ページ「Le Petit Chaperon rouge」には、15世紀の建築物にある浮き彫り模様が入っていました。赤ずきんのモチーフでしょうね。この話しが当時からよく知られていたことを示している、と書かれてありました。

Palais Jacques Coeur
Figurines sculptées du Palais Jacques-Cœur à Bourges, France  - XVe siècle

ピンボケの小さな写真なので、よく見えません。でも、私たちがイメージする赤ずきんちゃんの舞台ですね。中央のスカートをはいているように見える人物が赤ずきんちゃん。左には狼がいて、右にはお婆さんの家がある。

女の子は、左手にバスケットを持って、右に丸いものを持っているように見えます。赤ずきんちゃんが持っていったのは何かというのを調べて書いた日記「赤ずきんちゃんが持っていったガレットとは、どんな食べ物?」に、後世に描かれた挿絵などを幾つか入れたのですが、そこにある丸いお菓子と同じように見えるではないですか?...


もう1つ、気になることがありました。

主人公の女の子に赤い頭巾を被せたのは、フランスの文学者ペロー(Charles Perrault)だったというのは定説のようです。上に並べた4つのバージョンでも、赤ずきんをかぶっていたのはペローのバージョンだけでした。でも、彫刻にある女の子は、頭巾をかぶっているように見えませんか?

ペローのお話しは17世紀末に出版されました。でも、この彫刻があるジャック・クール宮殿が建てられた15世紀半ばなのです。

ジャック・クール宮殿は美しい建物なので写真がたくさんインターネットに入っているのですが、この彫刻に関しての情報は極めて少ない。写真はWikipediaに入っているものしか探し出せませんでした。それで、この彫刻が、すでに15世紀に赤ずきんちゃんの姿ができていたという証拠になるのかどうか、分かりません...。


さらに、もう1つ、気になることがあります。

ペローの童話の題名は『Le Petit Chaperon rouge』。「rouge」は赤で、「Chaperon」が「頭巾」と訳された単語です。

ところが、このお話しの英語の題名は『Little Red Riding Hood』。フランス語の「Chaperon」は、英語では「Riding Hood」の部分に相当します。

Riding? なぜ乗馬が登場するの?...

「Chaperon(シャプロン)」とは何なのかを調べてみました。
続く

 シリーズ記事: 赤ずきんちゃんのガレットとは? 【目次




外部リンク:
BnF: Contes de fées » Petit Chaperon rouge
  Firefoxで見ると文字化けがない。エンコードは中央ヨーロッパ言語(ISO)に設定して読む。
Le Petit Chaperon rouge (chaperon.rouge.online.fr) 
☆ Wikipedia: Le Petit Chaperon rouge » 赤ずきんちゃん » Little Red Riding Hood
Vocabulaire : Le petit chaperon rouge
Vérité, vérité chérie(7~10歳児のための教育マニュアル)
『赤ずきん』 の姿
赤ずきん症候群/おとぎ話のイデオロギー
☆ eBay: RR Medaille Petit Chaperon Rouge

「赤ずきんちゃん」のバージョン:
 赤ずきんちゃん ー 赤ずきんちゃんのあれこれ
フランスの民話と日本の民話
☆ AFP: 民話「赤ずきん」の進化を系統樹で解明、英研究
☆ NAVER まとめ: ほんとうは赤ずきんをかぶらず、死んでしまった赤ずきん
Mise en parallèle des trois versions

内部リンク:
★ 目次: 文学・哲学、映画、テレビ番組
童話「赤ずきんちゃん」に関するリンク集 (シリーズ日記目次内に記載)


にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ
にほんブログ村


コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する