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2015/04/30
初めて会ったフランス人からよく言われることに、こういうのがあります。
― 日本では女性が虐げられているのですってね

フランス人には身近なイスラム教の国々と混同しているのではないの? と返事したくなる。もっとも、フランスで知っているイスラム系の夫婦の場合は、夫には妻を養うという責任感があるので日本に似ていると感じ、フランス人たちが思っているように男尊女卑とは言い切れないと思ったのですが。

ともかく、日本は時代遅れの社会であるかのように言われると腹立たしくなります。それで、日本はそうではないと立証したくなる。

私は、こんな例を持ち出してみたことがありました。


(1) 日本の夫は「粗大ごみ」とも呼ばれる

日本の家庭では、妻の地位は低いわけではない。小さなマンションに住んでいると、平日は不在の夫のスペースがない場合が多い。それで、たまにいると邪魔者になる。それで、「粗大ごみ」などとさえ言われてしまう。

フランス人の既婚女性に対して言ったのでした。お笑いするだろうと思って言ったのですが、なぜか、とても嫌な顔をされたのでした。

書きながら確認してみたら、これは定年退職した夫に対して使う言葉だったようです。私は、日曜日に家の中でいる場がない夫もそう呼ばれているかと思っていたのですが。

これは、あまりにも嫌な顔をされたので、1回限りで言わないことにしました。

考えてみると、日本人は家族を「身内」と思う気もちが強いので、「愚妻」などとさえ言ってしまうのですよね。「粗大ごみ」とか「愚妻」とか言う人を見ても、彼らが伴侶を虐げているとは思わない。それに対して、フランス人は家族でも一人の個人だと見るせいか、妻が美人で気立ても良いとか、子どもの学校の成績が優秀なのだとかいうことを平気で言います。


(2) 夫は働いて、妻と子どもを養う義務があるとされている

日本の既婚女性は就業率が低いから「女性が虐げられている」と思うのかもしれない。イスラム系の夫婦では、妻は夫の許可がないと外出できないとか、外出するときにはスカーフで顔を覆う、などというのが知られていますから。

それで、説明してみます。

夫は妻からお小遣いをもらって会社に行き、それに合わせた金額でランチを食べる。だから、「千円亭主」なんていう言葉もある。

そして、昼時に東京の良いレストランに入ると、既婚女性のグループが目立つ。趣味でスポーツなどを楽しんでいる奥様たちも多い。そういうのを見ると、「妻には働かないで家にいて欲しいと男性たちが思うなら、どうぞ働いてください」と私なら言いたくなる。

これは友達の既婚女性から羨ましがられました。結婚しても仕事を続けるのが普通のフランスなので、「私だって働かなくて良いなら、会社なんかに行きたくない」と彼女は言っていました。



そうは言うのですが、やはり日本では女性の地位が低いと言えるかな、という場面に出会うことはありますね...。

例えば、こういう場面はフランスでは絶対にありえないだろう、と思ったことがありました。

一人で鎌倉に観光に行ったときのこと。ガイドブックに紹介されていた素敵なレストランに入りました。向うの方に座っている若い男女が不自然なので、なぜか目が行ってしまいました。

いかにもお見合いのデートという感じ。男性の方が料理を選んで注文しているのでした。相手の女性には何も聞かないで決めているのが私には不愉快に感じてしまいました。

お勘定を払うのは男性の方なのでしょうけど、少しくらいは何が食べたいか聞いてあげたって良いではないですか?
でも、こういう場面で、女の子の方が「私はそれより、この料理の方が食べたい」などと言ったら、縁談は成り立たないのかも知れない...。

考えてみると、こういう風に女性に押し付ける男性って、日本には時々いますね...。フランスの場合は全く逆なのです。決定するのは女性、と決まっている感じがします。

フランスにはギャラントリー・フランセーズと呼ばれるレディーファーストの文化があるのです。女性解放の前に生きた年齢の人たちだと、今の若い人たちよりずっとレディーファーストの精神が徹底していて、女性にはメロメロに優しいです。

結局、レディーファーストというのも、女性は男性より弱いから助けなければいけないという発想であって、逆さまにすれば女性蔑視だと思っています。


家事をしなくても、専業主婦

日本とフランスという、文化がかなり違う国を比較しても意味がないかも知れない。でも、私には面白いので、ついつい比較してしまいます。

例えば、気になる日本語の一つに「専業主婦」があります。

フランス人は日本では女性の地位が低いと思っているけれど、日本の専業主婦は公認されているとでも言えるくらいの地位が与えられていると感じるのです。

「専業主婦」をどうフランス語に訳すかについては後で書きますが、「仕事を持たない妻」を指すわけなので、単語は存在します。

でも、日本では「専業主婦」に対立して使われる「兼業主婦」というニュアンスの言葉は、すんなり置き換えられるフランス語は存在しないのではないかと思います。

思えば、奇妙な言葉ではないですか? 「兼業」というと「副業」みたいで、家事を疎かにしている妻のような印象を与えるではないですか? とすると、日本ではやはり、妻は専業主婦であるべきだという文化がまだ残っているように感じます。

でも、妻である立場というのは、職業とは違います。家事や子育てを全くしなくても妻でいられますが、その人が職業を持っていない限りは、あたかも主婦業をやっているように「専業主婦」と呼ぶではないですか?

経済的に余裕があれば、家事をしてくれる使用人たちを雇うことができます。あるいは、親と同居していたり、夫が家事をする環境にあれば、いわゆる主婦の仕事にはタッチしないでもいられるはず。

逆に、外で働いていて、主婦業は「兼業」としてやっている妻であっても、きれい好きなどの理由で、平均的な専業主婦よりも家事に時間をかけている人たちがいる可能性もあります。

昔の家事は大変だったし、子どもの数も多かったので、専業主婦という言い方はすんなり受け取れます。でも、今日の日本で、掃除にも時間がかからない狭いマンションに住み、子どもがいない若い妻が、主婦業を専業でやっている、と傍から評価するのは不自然だと思うのですけど...。


フランス語でも「専業主婦」という言い方は存在する

「専業主婦」という言葉は、フランス語にはないような印象を持っていたのですが、存在はするのでした。少なくとも、女性の社会進出が進むまでの時代に、フランスでも専業主婦が普通だったわけですから。 

でも、「主婦」という、日本では普通に使う言葉に対応する単語は、フランスには存在していないように感じます。それで、辞書をひいて用語を拾い出してみました。

femme、épouse
主婦mènagère、mère de famille、maîtresse de maison
専業主婦femme au foyer、mère au foyer

そもそも、フランス語は変なのですよね。妻というときに普通に使われるのは「femme」ですが、これは男性に対して女性を示す単語です。「私の」などと付けると「妻」になる...。直訳したら「私の女」になるので、Googleの自動翻訳でそう出てきたら面白いと思って実験してみたら、ちゃんと「私の妻」と出てきました!

ここに出てきている「mère」は母親のことです。なので、子どもがいない妻の場合には使えません。

しかも、フランスでは法的な結婚はしていないけれど事実上は結婚していると同じに扱われるカップルが多く、彼らの場合は「内縁の妻」という感じには全くなりません。法的な結婚をしていない女性は、本人も伴侶も「femme」や「épouse」とは異なる単語を使います。でも、複雑になりすぎるのは避けたいので、それは無視することにします。

並べた単語はイコールでは結べません。他の意味になってしまう単語もあります。「maîtresse de maison」は家を取り仕切っている女性を指すので「主婦」と言えますが、施設の館長を務める女性にも使う。

しっくりいかないのは、「主婦」に相当するとして辞書にあったmènagère。古い言葉では、女中、家政婦という意味があるので、日常会話で「彼女はmènagèreだ」というような言い方はしないと思います。「femme de ménage」だと、よその家で働く家政婦になってしまいますし。

考えてみれば、日本語の「主婦」は「mènagère」のイメージかもしれないですね。日本は相変わらず専業主婦が多いのだろうと思っていたのですが、最近は日本でも共働き世帯が増加していて、専業主婦と兼業主婦の割合はほとんど同じに近づいているようでした。

「mère de famille」は耳にすることがある言葉ですが、直訳すれば「家族の母」なので、子どもがいない女性には使わないのではないでしょうか? 子どもが1人しかいない主婦に対して使ったら不自然なのではないかという気もします。

Wiikipediaにある「主婦」からリンクされているフランス語ページは「Femme au foyer」でした。この単語は、仏和大辞典では「専業主婦」に充てています。

「foyer」というのは、暖炉、かまど。そこから転じて、集会所、中心などの意味もあります。そこにいる「妻(femme)」というのを付けて表現しているのは、なかなか良い表現だと思いました。日本も旧家にいるお婆さんというのは、そういう絶対的な権威を持った存在だと思うので共通点を感じました。

ともかく、フランスでは日本語の「主婦」に相当する単語がないので、「主婦」であることのニュアンスを出すなら、「femme au foyer」を使うのが適当かな、という気がしました。でも、そうしてしまうと、仕事を持たずに家にいる妻ということになってしまうようです。

仕事を持たない妻のことを現代で話題にするには、フランス語訳では「femme au foyer」するのが一般的なのだろうと思えてきました。

子どもが10人くらいいるのが普通だった時代についての文章では、妻は仕事をもたないのが普通でしたから、「主婦」と置き換えても問題はなかったはずですけれど。

フランスでも、女性が社会進出を始める以前には、専業主婦の立場は高く見られていたような印象を受けました。何しろフランスは、第一次大戦のときには大量の戦死者が出て人口危機に陥った国。たくさんの子どもを作ることが奨励されました。

第二次世界大戦からしばらくの間も、「femme au foyer(専業主婦)は、le plus beau métier du monde(世界で最も素晴らしい職業)」という表現が存在していたようです。

戦後のベビーブームは日本より長く続いたフランス。妻は専業主婦でいた方が経済的でもあるのだ、と啓蒙しているらしいポスターも見つかりました。1950年代のものだと思います。





正しい訳語をを私などが探していても意味はないので、次のように受け取ることにしました:
専業主婦 = femme au foyer

フランスの国立統計経済研究所(INSEE)が無職の妻に関する調査をしていて(2013年)、そこでは「femme au foyer」を使っていたからです。

それをフランス人に話したら、「femme au foyer」などという言葉は、中年世代が子どもだった頃までの時代に使っていた言葉であって、今はもう使わないのだ、と言われてしまったのではありますが。


現代のフランスでは妻も働いているのが一般的なので、専業主婦というのは少し特殊な立場になっています。興味深かったので、次回にそれを紹介してみようと思ったのですが、道草をしました。

続き:
フランスの専業主婦のイメージを画像で眺めてみる

シリーズ記事: フランスの専業主婦の実態 2015年  目次


ブログ内リンク:
★ 目次: フランスに結婚に関する風習、夫婦・家族関係、生き方
好きでないオペラ: 蝶々夫人 2011/01/02

【ギャラントリーについて】
カフェで「ボクの愛しい人」と呼ばれてしまったのには理由がある 2006/08/14

外部リンク(日本に関して):
1000万世帯を超えなお増加中…共働き世帯の増え方をグラフ化してみる(2014年)(最新)
男女共同参画白書(概要版) 平成23年版
増える妻パート世帯と減少する専業主婦世帯 - 平成15年版 国民生活白書
就業ニーズ別にみた女性雇用促進の課題 ~15‐44 歳の有配偶女性の就業希望は268万人規模~ (2009年)
2013年 第5回全国家庭動向調査 - 国立社会保障・人口問題研究所
NAVER まとめ: 専業主婦 ~ 妻に働いてほしくない夫の本
AERA: 専業主婦は「良妻」か「毒妻」か
専業主婦に関する5つの誤解
結婚相手に求める「貯金額」、独身女性の6割が「300万円以上」と回答
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パート問題で論争再燃!『サザエさん』は保守かフェミか? マスオさんとは正常位だけか?
Le Monde: Quand les Japonaises prennent la tête de l’opposition à Abe 2015/07/07
「仕事と結婚」、理想と現実のギャップにとらわれた女性たち


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カテゴリー: 日仏の比較 | Comment (3) | Top
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コメント
この記事へのコメント
Re:
非公開コメントなのですが、素晴らしい情報をいただいたことをメモしておかせてください。そうでないと、後になって再び読んでみたとき、これを書いたおかげで贅沢な個人授業を受けたことを忘れてしまっている可能性があるので。

日本も若い世代の方々はずいぶん変わっているのではないかという予感があったので情報を集め始めてみたのですが、なかなか見つからないのでギブアップしておりました。こういう情報に行き当たりたかったのです!

ここに登場している女性は、彼女が起業したばかりの小さなオフィスでお会いしていて、この方はすごい大物だという強いインパクトを受けたので、その後のご活躍を陰ながら見るたびに嬉しく思っている方なのでした。
2015/05/02 | URL | Otium  [ 編集 ]
たぶん「おしん」のイメージが強いのではないでしょうか
あれを現代日本だと思ったら誤解しますよね
2015/05/08 | URL | albifrons  [ 編集 ]
Re:
v-22 albifronsさんへ

「おしん」の映画を知っているフランス人は非常に限られているはずで、少なくとも私がおしゃべりをするフランス人たちは存在さえ知らないだろうと思います。日本の昔の映画にはパリの人たちなどには人気があって、そういう映画を見せる専門の映画館もあるようですが。

でも、そう言われて思い出したのはプッチーニのオペラ『蝶々夫人』。これはフランスでもよく演奏されているので、これで日本女性のイメージを刻み込んだフランス人は多いかな、と思いました。

ともかく、普通のフランス人は、日本のことも何も知らないです。テレビに登場するのは、京都などの美しい文化財もありますが、好んで報道されるのは私も知らなかったような驚くべき日本の現代にある極端な流行。両極端で報じられる日本。日本でもフランスに関する報道も極端に偏っているので、文句は言えませんけど...。

「日本は中国大陸の何処にあるの?」と聞かれたこともあるし、私が行きつけの美容院の人からは「日本はまだユーロ圏に入っていなかったの?!」などと、とんでもないことまで言われました。ギリシャ文明と比較できるような中国の歴史のことも、フランスの学校で習わないのだそうで、ただの発展途上国だと思っているのを知りました。

「違う」と説明するのも面倒なので、もう、あきらめてしまっています...。
2015/05/08 | URL | Otium  [ 編集 ]
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