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2015/05/07
今の時期に庭に咲く植物の中に、なぜか気になる花があります。もう満開は過ぎたのですけれど。


フランスで「マリア様のハート」と呼ばれる花


2015/04/29撮影

白い花もきれいだと思って、ピンクの株の隣りに植えたのですが育ちませんでした。



私はフランスで出会った植物で、フランスでは「Cœur de Marie(マリア様のハート)」と呼ばれて親しまれているので、ずっとヨーロッパ的な花だと思ってました。ところが、原産地は中国や朝鮮半島なのでした。

この植物の学名は、Dicentra spectabilis

日本では、仏堂に飾る華鬘(けまん)に似ていることから「ケマンソウ(華まん草)」、釣竿に鯛がひっかかっているようなところから「タイツリソウ(鯛釣り草)」などとの名前が付いているのだそう。日本には15世紀初期(室町時代)に入ったと書いている情報がありました。

私が知らなかっただけで、日本ではよく知られた植物のようです:
ケマンソウを楽天市場で検索

この植物はアジアからヨーロッパに入ったのは確かなはず。それなのに、なぜ聖母マリアの心臓に例える花になったのか不思議...。

この植物については、以前にもブログで書いていました:
植物も、ところ変われば?: 聖母マリアのハート、法王のコイン 2009/06/07


英語圏では「血を流す心臓」という名前だった

少し前に読んだブログ「消えがてのうた part 2」に入っていた「春の花」の記事に、この植物についてコメントで書いたところ、英語での呼び名は「Bleeding Heart)」だと教えていただき、ますます謎が深まってしまいました。

ふっくらとしたピンク色のハート型の花びらを聖母マリアの心臓に例えるのは違和感がありませんが、「Bleeding Heart(血を流す心臓)」というのは余りにも毒々しい表現ではないですか?!

確かに、この花は、滴のように垂れている部分があって、満開になると、くす玉が開いたように2つに割れます。



血が出ている心臓に見えるかな?...

フランスでは、私の庭に咲いている花のようにピンク色のものが一般的で、白い花もあるという程度です。でも、赤い花が咲く種類もある。



これだと、心臓から血がしたたり落ちているように見えなくもないですけれど、ピンクや白の花からはイメージができません...。

それに、スカートの裾を広げているような姿は、私には愛嬌さえあるように見えるので、これを「血を流す心臓」に例えるのは納得できません。

この花をハート・ブレイクに例えたいなら、ロメオとの愛の道を貫けると明るい気持ちで毒薬を飲んでしまったジュリエットに例えて、「ジュリエットの心臓」と呼べば良かったではないですか? シェイクスピアの国イギリスの命名だったのでしょうから...。

私はヨーロッパの植物だと思っていたケマンソウは、イギリスへは日本から渡ったと言われていました(19世紀半ば)。

フランスでは「マリア様の心臓」という愛らしい名前をつけているのに、なぜ英語圏では「血を流す心臓」というドギツイ呼び方をするのか調べてみたら、この花の名前の謂れはこれだ、という英語情報が出てきました:
Bleeding Heart Flower

日本の昔話を持ち出しているのですが、日本人の私からすると、かなり日本的ではないと思えるお話し...。

若い男性が美しい娘に恋をしたので、高価なプレゼントを贈ってハートを射止めようとします。1つめはペットにして飼うための贅沢な2匹のウサギ。それでは気を引いてもらえないので、シルクで作ったスリッパをプレゼント。ところが、まだ娘の心を射止められなかったので、有り金をはたいて高価なイアリングを贈る。それでも娘は結婚の承諾をしてくれない。もう贈り物はできなくなった男は、ナイフをとって自らの心臓を突いて自殺した。

彼が死んだ場所から、この植物が生えたというわけ。上にリンクしたページでは、プレゼントしたものがこの花にはあるのだと、部分を写真で見せていました。

そんなお話し、日本にあるのでしょうかね?... かぐや姫のお話しの逆でしょう? しかも、兎、シルクの靴、イヤリングが登場する。中国の昔話だと言われたら、それほど違和感を感じませんが...。死んだ後に生えた植物という結末も、フランスではナルシスと呼ぶスイセンや、『トリスタンとイズー』の結末のスイカズラを思いださせるので、ヨーロッパ的なお話しに見えてしまう...。


ケマンソウの花言葉は?

日本でのケマンソウの花言葉を拾ってみました:
あなたに従う、従順、恋心、冷めはじめた恋、失恋

上のお話しと重なっているようにも見えなくもない...。案外、花言葉からでっちあげたお話しだったりして?...

フランスでの花言葉はうまく見つからなかったのですが、失恋とは結び付けていないように見えました。聖母マリアの心臓に見立てているので、愛のシンボルのイメージがあるようです。

フランスのガーデニングのサイトのバレンタインデーに送る花特集で、「Je t'aime」をケマンソウの花1つを入れて表している写真を入れていました(このページの始まりに入っています)。英語にすれば「I love you」の「love」をハートで置き換えるのと同じ。

もしも英語圏でケマンソウが失恋した若者の話しと結びついているとしたら、そんなことはしないでしょうね...。

英語圏の花言葉も探さないといけない。

Elegance(エレガンス)、Fidelity(忠誠、忠実)が最も一般的な感じでした。日本のと重なりますね。でも、犠牲、失恋を挙げている人もいる。犠牲というと、フランスと同じようにキリスト教のイメージも入ってくるので混乱します...。

でも、どうせ花言葉なんて花屋さんのPRに使われるものだと思っているので、気にしないことにします。


カトリックと新教の違い?

ケマンソウは、英語圏でも、フランスのようにマリア様のハートに例える呼び名があるのではないかと思って、「Bleeding Heart」に「キリスト」や「マリア様」もキーワードに加えて検索してみました。

少し出てきました。でも、クリスチャンのサイトばかり...。

例えば、こちら:
Reparation Through Flowers

ケマンソウの花の写真には、「Symbols of both Jesus and Mary, united in redemptive and coredemptive sacrifice」というキャプションを入れていました。フランスでのイメージと同じ発想ですが、キリストも入れているのが不思議...。

これはUniversity of Daytonのサイトなのですが、アメリカのカトリック系大学なのだそう。

それで、はたと閃きました♪ 間違っているかもしれないけれど、これが原因ではないかな?...

フランスの教会でよく見る宗教画や彫像に描かれている心臓のがあるのです。

 

例えば、パリの有名な教会にサクレ・クール寺院(Basilique du Sacré-Cœur de Montmartre)がありますが、この「Sacré-Cœur(聖心)」が、キリストの人類に対する愛の象徴を示すキリストの心臓なのですよね。マリア様の心臓の方は、「cœur immaculé de Marie(マリアの純潔の心臓)」。

「聖心」について調べてみたら、これはカトリックで好んで使われるシンボルで、ルーテル教会を除く大多数のプロテスタント諸派ではキリストの心臓を重んじてはいないとのこと。しかも、カトリックでは聖母マリアを特別扱いしますが、プロテスタントではキリストの母であるマリアを崇敬する概念がないらしい。

となると、ケマンソウを聖母マリアの心臓に例えるのは、非常にカトリック的な連想と受け取るべきなのでしょうね。

イギリスもアメリカも、カトリック教徒が主流の国ではない。とすると、英語圏では、ケマンソウが入ってきた日本と結びつけ、キリストやマリアのハートよりは失恋した人のハートに結び付けたかったのではないか?…

もしそうだとすると、ヨーロッパのカトリック諸国ではケンマソウを「マリアのハート」あるいは「キリストのハート」という愛称を付けても良いはずなのに、Wikipediaのケンマソウから各国語への」リンクのタイトルでは「マリア様のハート」という題を付けたページが見当たらないので不思議...。

スペイン語のページでは、英語から訳したと思われる「corazón sangrante」の呼び名が普及しているようです。Wikipediaはデタラメも平気で書いてあるので信じてはいけないのではありますが、スペインにケマンソウが伝わったのは、日本からイギリスに入ったものが伝わったと書いてありました。

とすると、イギリスの情報と一緒に植物が入ったはずなので、キリストかマリアの心臓とは結び付けなかったのが理解できます。ただし、フランスの呼び名と同じ「corazón de María」という名で売っているスペインの園芸ショップもありました。スペインはフランス以上にカトリック信仰心が残っている国ですから、その方が売れると思うな…。

カトリックの総本山イタリアでは、フランスほどに通称にはなっていないようですが、「cuore di Maria」とも呼ばれている、と書いてありました。イタリアにケマンソウが入った経緯は分かりませんでしたが、たとえイギリス経由だったとしても、今でも敬虔な信者が多いイタリアではカトリックの心臓のイメージを連想はしたはずですもの。

ここでまた気になったので調べてみたら、ケマンソウがフランスに伝わったのは中国からで、19世紀。その植物をもたらしたのはイギリスの植物学者ロバート・フォーチュンだという情報がありました。

Wikipediaの説明では、cœur-de-Jeannette(ジャネットのハート)、cœur-Saignant(出血しているハート)」とも呼ばれるとありました。私は聞いたことがなかい呼び名ですが、後者は英語と同じですね。ジャネットは女性の名前ですけれど、誰のことか分かりません。


マリア様の入浴姿?!

英語圏では「Bleeding Heart」が一般的なようなのですが、「Lady-in-a-bath」とも呼ばれるのだそう。



この花は切って花瓶に入れると、すぐにしおれるので、切らないことにしているのですが、逆さまになって覗くと、こういう風に見えるのかな?... 花弁を無理に開かないと見えないような気もします。マリア様のハートだと思ったら、そんなことはしたくないけれど。

ともかく、こんな風にマントをまとった女性の姿のように見えるとは知りませんでした! 実に不思議な花ですね...。

英語で「Lady」というのはマリア様を指す場合が多いと思うので、ここでフランスの命名と重なってくるのでしょうか?... でも、お風呂を持ち出すなどはキリスト教文化圏では不謹慎なはずなので、ただの貴婦人なのかな?...

2つに割れたところから現れるなら、桃から生まれた桃太郎でも良いと思いましたが、例えるなら女性でしょうね。

ボッティチェリの『ビーナスの誕生』を思い浮かべました。



「ビーナスの誕生」という名前にしても良かったのに、なぜお風呂を持ち出したのだろう?

でも、イギリスは、私が親しんでいるフランスとはかなり違った文化とメンタリティーがある国なので想像がつきません。これ以上は「なぜ?」とは考えないことにします!


追記:

推測を続けても分からないものは分からないのだからと諦めようと思ったのに、やっぱり「Bleeding Heart」という言葉が気になる...。

それで、また少し情報を集めてみたのを続きで書きますが、やはり「Bleeding Heart」というのは、自殺とか他殺とかのイメージになるのであって、キリスト教は想起させないのではないかと思いました。

実は昨日の食事会でイギリス人夫妻とおしゃべりをしたので、聞いてみようかなと思いました。でも、こういうのは人によって違う受け止め方をしているはずなので、2人の意見を聞いても無意味だと思って質問してみませんでした。

続きは、こちらです:
首に傷があるような姿の鳥たち



ブログ内リンク:
★ 目次: フランスで感じるキリスト教文化

外部リンク:
☆ Wikipédia: Cœur de Marie
ケマンソウ
☆ Wikipedia: プロテスタントにおけるマリヤ観


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コメント
この記事へのコメント
Otiumさん
素敵なケマンソウのお写真をありがとうございました。
こうしてじっくり見てみますと、いかにも愛らしい花ですよね。
Bleeding Heartという、おどろおどろしい名前にぎょっとしてしまうのは、日本的な感覚なのかしら。

改めてこのBleeding Heartという名前で検索してみたところ、ケマンソウの名前としてではなく、レストランの名前や歌の題名などが出てきました。ということは、英国ではBleeding Heartという単語は、ケマンソウに限らず使われているとも考えられます。Bleeding の本来の意味は「血を流す」という意味ですが、そこから「血を流すような苦しみ」というニュアンスが生まれ、失恋の痛手を現す表現となっているのでしょう。歌のタイトルについては一応それで納得したのですが、レストランの名前がBleeding Heartとは!
単に文化の違いということだけなのか、私も不思議に思えてきました。

カトリックとプロテスタントの違いについても言及されていらっしゃいましたが、確かにカトリックでは普通にキリストや聖母マリアの心臓が描かれていますね。プロテスタントでこうしたものは見たことがありませんが、宗教画自体を偶像として排除してきたプロテスタント教会に、こうした絵が残っていないことはむしろ自然だと思います。カトリックにおいては「血を流す心臓」はキリストにとっても、マリアにとっても、受難の象徴です。たとえ極東からもたらされたものものであっても、いえむしろ、極東からもたらされた植物であったからこそ、そこにキリスト教的なメッセージをくみ取りたいという願望があったのかもしれません。
花言葉について考えれば、そもそも日本の文化の中でそれぞれの花に意味を持たせる花言葉という文化はあったのか私には疑問です。欧米の文化や習慣になじんでいく過程で、花言葉という概念も一緒に取りこまれて行ったのではないかとも思います。
「あなたに従う、従順、恋心」といった意味を持つケマンソウの花言葉が欧米から入ってきたものであるならば、同じ意味を共有していてもふしぎではありません。
また従順はカトリックが重要と考える徳目のひとつであり、受胎告知におけるマリアの従順はその最高の規範でもあります。「恋心」についても、カトリックでは神父(司祭)は聖母マリアを最愛の恋人としてあがめ、修道女は「キリストの花嫁」として誓願をたてることからも、カトリック的価値観とも矛盾しないように思います。
一方のプロテスタント的な観点からすれば、文字通り、単純に「恋人に従う」という即物的な意味しかないように思います。
ケマンソウを初めて目にしたフランス人が、この花の造形にしたたる血を連想したとするならば、それは遠い極東からもたらされたキリストの栄光そのものだったのかもしれません。
長々と書きましたがここでいったん送信させていただきます。それと、このように考えたことは私の主観的な憶測ですので、悪しからずお許しください。
2015/05/08 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさんへ

読んでくださて、ありがとうございます♪ コメントをいただいてから、無視していた情報を読み直して、続きを書きました。

やはり、プロテスタントではキリストやマリアの心臓の象徴がないのですね。

>「恋心」についても、カトリックでは神父(司祭)は聖母マリアを最愛の恋人としてあがめ、修道女は「キリストの花嫁」として誓願をたてることからも、カトリック的価値観とも矛盾しないように思います。
⇒ なるほど。これは覚えるようにマークします♪

>日本の文化の中でそれぞれの花に意味を持たせる花言葉という文化はあったのか私には疑問です。
⇒ 私は花言葉というのは、日本でバレンタインデーにチョコレート、フランスでは復活祭やクリスマスにチョコレートというのと同じように、コマーシャルのために登場したのだろうと思っています。花言葉に関しては、日本よりもフランスの方が、花屋さんは気にして、プレゼント選びをするアドバイスとして勉強しているのではないかという気がします。それで、花言葉は日本文化にはなかったと思ってしまうのですが、どうなのでしょうね。

>ケマンソウを初めて目にしたフランス人が、この花の造形にしたたる血を連想したとするならば、それは遠い極東からもたらされたキリストの栄光そのものだったのかもしれません。
⇒ 調べても分からなかったのですが、フランス人にとってのケマンソウには「したたる血」のイメージは無いのではないかと私は想像するのです。ふっくらと優しい花弁は、いかにも乙女の純真無垢な心臓に見えます。2つに割れたときの状態まで追って現すなら、私には、涙、あるいは処女にして生んだキリストは心臓から落ちて来たという姿を連想するので。

いつか機会があったら、フランスの敬虔なクリスチャンに聞いてみたいと思います。私が付き合っているフランス人を思い浮かべると、非常に数が少ないのです。質問する価値があるとしたら、司祭さんの代役でミサをあげる手伝いもしている、あの人くらいかな...。でも、今までに彼とキリスト教の話しなどはしたことがない...。
2015/05/09 | URL | Otium  [ 編集 ]
Otiumさん

>フランス人にとってのケマンソウには「したたる血」のイメージは無い

仰る通りだと思います。
イギリスとフランスをごっちゃにしたコメントを入れてしまってすみません。
Bleeding Heartは英名でしたよね(/ω\)

前回のコメントでいれた内容は、一気に書いて裏付けを取らないまま送信してしまいましたが、反宗教改革の時代ならいざ知らず、極東にキリストの栄光を見るという考えは、ちょっと時代が違うかな、と後で読み直して反省した次第です。
あくまでも私のモーソーということでお許しください。
この花がフランスにもたらされたのはPlant hunterたちが血眼で世界中の珍しい植物を探し回っていた時代なんですよね。時代に関わらず、この美しい花を「マリア様の心臓」に見たてたカトリック的な感性は素敵だと思います。
2015/05/14 | URL | aosta  [ 編集 ]
Re:
v-22 aostaさん

今さらお礼を言うのも気恥ずかしくなるほど色々なことを教えていただいているaostaさんです。今回も、キリスト教といっても、私が見ているのはカトリックなのだ、と再認識するきっかけを与えてくださったので感謝しています。

>この花がフランスにもたらされたのはPlant hunterたちが血眼で世界中の珍しい植物を探し回っていた時代なんですよね。
⇒ そうなのですよね。その中で、特にイギリス人は大きな役割を果たしていたようですね。

>時代に関わらず、この美しい花を「マリア様の心臓」に見たてたカトリック的な感性は素敵だと思います。
⇒ 私もそう思います! ケマンソウを導入したイギリス人はPR的な解釈を加えたようなのですが、そんなのは全く無視して、「マリア様の心臓」という呼び名を定着させてしまったフランス人(の、へそ曲がり精神?)は、あっぱれだと思いました(笑)。
2015/05/14 | URL | Otium  [ 編集 ]
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