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2015/07/24
日本にいるとき、食材の種類が少なくてつまらないなと思うのは、肉類。特に寂しいのは家禽類。普通の店では鶏肉しか売っていないのですから。

フランスで普通に買える家禽類としては、ニワトリの他に、鴨(カナール)、ほろほろ鳥、七面鳥があり、これらは丸ごとでも、部位を選んででも買えます。小さいので丸ごとでしか売っていないのは、ウズラ、鳩。冬のジビエのシーズンには、野鳥もありますが。



矢印を入れたのはバルバリーという種類のカモ(Canard de Barbarie)。値段は1キロ9ユーロ弱と表示されていますが、これは2年前に撮影した写真です。

バルバリー種はフランスで食べる鴨の中では最もポピュラーな鴨の品種のようです。フランスで北京ダックを出す中華料理店では、大きな鴨なのでこれが北京ダックにするには最適なのだと言っていました。

先日、この写真を撮った直売農家が売っていた鴨を見たら、北京ダック風に料理をしてみたくなりました。失敗する可能性が大なので、実験用として骨付きもも肉を買いました。

インターネットで探し出したレシピで作ってみました。レシピにある材料で持っていないものは別のもので代用したのですが、なかなか美味しかったのでした。どういう風にしたかをブログにメモしておこうと思って書き始めたのですが、参考にしたレシピの材料にあった「シャラン鴨」というのにひっかかって調べだしてしまいました。

簡単に何なのかが分かると思ったのですが、そうではなかった。日本語情報でも、フランス語情報でも、はっきりしたことが出てこないので、手こずってしまいました。


シャラン鴨って、なに?

ロースト用の鴨肉(canard à rôtir)を食べることに関して、フランスは世界1なのだそう。これは国民1人に対する数の比較で、第2位は中国。フランス国内で食料される鴨は、年に85,000万羽。

家禽類業界の情報サイトでは、フランスで生産されているロースト用とフォアグラ用の鴨(カナール)としては、次の4つに代表させていました:

シャラン鴨というのは、フランスでも質が良いとして知られる「Canard de Challans(シャランの鴨)」で、この4つのカテゴリーでは「半分野生種」というのに入るのだろうと思います。

Challans(シャラン)というのは、ペイ・ド・ラ・ロワール地方ヴァンデ地域にある人口2万人くらいの町の名前です。そこが原産地として名前が付けられているのでしょうね。

この品種のカモ肉は食べたことはない気がします。遠くにある地域なので、ブルゴーニュではめったに売っていないのではないかという気がします。私は近郊の農家の直売を買いますので、いくらシャランの鴨が美味しいと言われても、食べてみたいと思ったことはありませんでした。

このcanard(カナール、鴨)が何なのか、容易に調べられないのです。Wikipediaのフランス語ページには鴨の品種一覧があり(Liste des races de canards)、そこにフランスの鴨として「Challans(シャラン)」が入っているのですが、ページが作られていない。これだけ有名なのに、記載がないのは奇妙ではないですか?

シャランの鴨のことを検索していると、「canard de Challans(シャランの鴨)」という呼び名の他に、「canard challandais(シャラン地域の鴨)」というのも出てきました。この2つの呼び名には区別する基準があるのだろうか?、というのがまず始めのつまずき...。


ビュルゴーのシャラン鴨

日本のサイトでは、「シャラン鴨」を販売している人や、グルメ情報を出しているサイトでさかんに紹介していました。

Canard de Challansとcanard challandaisとの違いを書いている日本語のグルメ情報もあったのですが、スペルを間違っているのは無視しても、なんとなく腑に落ちないことが書いてあるので信じられない...。

日本語の方がななめ読みができるので楽なのですが、仕方なしにフランス語情報に戻りました。

日本で言われる「シャラン鴨」がもてはやされているのは、パリのど真ん中にある3つ星レストランとして名をはせていたトゥール・ダルジャン(現在は1つ星)の名物料理が、番号を付けた鴨料理で、その食材がシャラン鴨だったのが原因なのだろう、と思いました。

トゥール・ダルジャンにシャラン鴨を提供しているのは、Burgaud(ビュルゴー)社なのだそうです。

この会社を紹介していう記事を見たら、全く食慾をそそられない建物の写真しか入っていないので、なに、これ? と思いました。

どういう風に育てているかが食肉の味を決めるのに...。この写真を見たら、ブロイラーの飼育農家かと思ってしまうではないですか?!



雇用者は13人で、業績も上々ということで、施設を拡張したという2012年のニュースでした。

家族経営の小さな会社らしいのに、週に鴨肉を3,000羽を商品化していて、クリスマスから正月にかけてはもっと多い量をさばく、というのも奇妙。

...と思ったら、ビュルゴー社は、契約している数軒の飼育農家の鴨肉を畜殺して販売している会社らしいのでした。特殊技術で鴨を処理する技術があることで知られ、この地域の鴨を世界的に有名にした会社だそう。

イエローページの情報では、シャラン市にある企業で、業種は家禽類とジビエの畜殺場となっています。販売しているのは、家禽類、canards challandais(シャラン地域の鴨)、canards au sang(放血していない鴨)。

つまり、ビュルゴーの鴨というのは、信頼できる原料と処理方法で商品化されるブランド名と受け取れば良いのだろうと思いました。

日本は大きなお得意さんだそうです。私は、鴨は日本ではめったに食べられないと思っていましたのですけど...。

でも、楽天市場で検索してみたら、フランス産の鴨肉はかなりの数がヒットしました。ビュルゴー社に絞ってもかなり残るので、日本にたくさん輸出されているというのは本当らしい。

フランス産 鴨肉を楽天市場で検索

少なくともビュルゴー社が売っている鴨は、日本で「シャラン鴨」としているのは間違いなさそう。でも、2つの点で混乱するのです。


Canard au sangって、なに?

ビュルゴー社が売っている鴨は2種類ありましたが、特別なのはcanards au sang(放血していない鴨)。

「canards au sang」というのは、辞書を引くと料理の名前となっているのですが、それができる鴨を売っているということなのでしょうね。この会社では、首の後ろから針を刺して鴨を仮死状態にさせて、血を抜かないで殺す方法(エトフェ)をしているそうです。

小規模で鶏を飼っている農家の民宿に泊まったとき、変な道具があるので何なのか聞いたら、一瞬に感電死させるような道具でした。ニワトリが苦しまないようにフランスでは義務付けられていて、特別な技術を持つ免許がないと、それ以外の方法を使ってはいけないのだと説明されました。

日本で売っている「シャラン鴨」の説明では、ビュルゴー社が「エトフェ」をしていると書いてあることが多いようです。

鴨肉の種類に関するネットショップ情報

その方法ができる会社であることは確かですが、販売項目としてcanard challandais(シャラン地域の鴨肉)とcanard au sang(放血していない鴨)とに分けているのですから、販売する鴨の全てをエトフェをしていないのではないかと思うのですが、どうなのでしょう?

ウサギ肉もエトフェするのが美味しいとされています。ウサギの生血をボトルに入れて付けてくれる直売農家もあるのですが、血は全く日持ちはしません。血が残っている生肉を日本にまで輸送したら危険ではないですか? ビュルゴー社では冷凍技術もあるそうなので、エトフェの肉は冷凍で輸出するのかな?... 分からない。


canards au sang」という料理では、右のような特別の圧縮機を使って、鴨の血液をソースのつなぎとして煮汁にかけるのだそう。

19世紀半ばにトゥール・ダルジャンで考え出された有名な鴨料理ですが、そこに行かなくても食べられるレストランがあるようです。

ルーアン市(ノルマンディー地方)のレストランで「Canard au sang」のデモンストレーションしている動画がありました。


Miam ! Le canard au sang

こんなに手間をかけて作るとしたら、お料理の値段が高くても納得してしまうかもしれない...。

このレストランで、この料理が出たという詳しい報告もありました:
【とっておきのヨーロッパだより】鴨のちょっぴり美味しい話・・・かも!?

Canard de Rouenルーアン市にあるレストランなので、シャラン鴨(Canard de Challans)ではなくて、地元のルーアン鴨Canard de Rouenを使っているそうです。

Wikipediaの記事「Canard au sang」では、この料理を作るにはルーアン鴨が望ましいと書いてあったのですが、そこに根拠を書くようにという指示が付いていたの面白かった。地元の人が書き込んだのかな...。

日本にはルーアンの鴨は入ってきていないように感じました。食肉の輸入は規制が厳しいからか、ルーアン鴨の生産量が少ないからなのか?...

疑問が多くなると混乱するだけなので、ルーアン鴨の方は飛び去っていただきます。


Canard de ChallansとCanard challandais。両方ともシャラン鴨?

ビュルゴー社が売っている鴨では、もう1つ、「canard challandais(シャラン地域の鴨)」がありました。この呼び名だと、その地域で飼育されている鴨で、品種には関係がないのかもしれないという気もする。

「Canard de Challans(シャランの鴨)」とは違うのだろうか?... 日本で言う「シャラン鴨」とは、どっちのこと?

トゥール・ダルジャンでは、この地方の鴨を仕入れて料理に出し、鴨にナンバーを付けていますが、その番号は2003年に100万に達したのだそう。レストランのサイトでは、出す鴨のことを「canard challandais」と呼んでいました。

Canard de Challansとcanard challandaisは、区別されていないのではないかな、という気がしてきました。政府認定の高品質食材の保証マーク「ラベル・ルージュ」を持った鴨もあるのですが、AOC/AOPほどには厳しい規制がある品質保証ではないので、よく分かりません。


Canard de Challans(シャランの鴨)」は、昔は「canard nantais(ナント地域の鴨)」とも呼ばれていた品種の名前なのは確かなようです。飼育の歴史は17世紀にさかのぼる、というのが有名な話し。

Canard de Challansという品種の鴨は、こういう姿なのだそうです。


CRAPAL - Site officiel - CANARD DE CHALLANS

右に写っている頭が緑色のがオス。お隣がメス。野生の鴨と飼育鴨の掛け合わせで生まれた品種だそうで、雄の頭が緑色なのは、フランスでよく見かける野生の鴨「Canard colvert(マガモ)」を思わせます。

「canard de Challans」をキーワードにして画像検索すると、こちらのエコミュージアムのサイト情報でも、こちらのサイトでも、同じ姿の画像を入れているので、確かなことだろうと思います。

メスの方は、さっきのルーアン鴨に似た色をしていますね。

ところが、奇妙...。

このCanard de Challans(シャランの鴨)は、1960年代まではブルターニュ地方やヴァンデ地方で野外で飼育されていた鴨であるが、農業の近代経営によって、ほとんど消えてしまった品種だ、と書いてあるのです。

シャラン鴨は日本にも輸出されているくらい流通しているのですから、変ではないですか?

「Canard de Challansをご存知ですか?」と題したページが出てきました。

http://www.laradiodugout.fr/dossiers/2014/08/visite-gourmande-en-vendee/3/
Visite Gourmande en Vendée | La Radio du Goût

このページでは、「Canard de Challans」は、1650年ころに作られた品種の鴨。昔は「canard nantais(カナール・ナンテ)」と呼ばれていたのは、この鴨がシャランで飼われていて、ナント地域の業者がパリに運んだから、などと説明しています。なので、同じシャランの鴨の話しだと思えます。

でも、上に写真を入れた「Canard de Challans」とは違う品種ではないように見えます。みんな真っ白ですから!

「Canard de Challans」を飼育している農家の動画があったので眺めました。


Histoires de Vendée : Le canard de Challans

鴨の赤ちゃんが野外に出るまで、暖かい小屋で6週間過ごすと言っています。その後に放し飼いにされた鴨が登場するのですが、やはり黒い帽子をかぶった白い鴨...。


北京ダック?!

別にシャラン鴨を食べたいわけではないので、これがどんな鴨なのかを突き止めようとするのは放棄しようと思ったとき、地元新聞の記事を見つけて謎が解けました。

現在のCanard de Challansは、その名前で呼ばれていた昔の品種とは同じではない。まず、見た目が全く違うと書いてありました。「本物の」という後にcanard challandaisという言葉を使って、それとは違うのだ、と記述されていました。つまり、Canard de Challansとcanard challandaisという2つの呼び名は同じということなのでしょうね。

こんにち市販されている「Canard de Challans(シャランの鴨)」は、Canard de Pékin(北京の鴨)とのハイブリッドになっているのだそう。

なるほど、北京の鴨は白いのでした。

昔の品種を飼育している人は、現在では地元でも数人しかいないとのこと。

そういう希少価値がある鴨なら食べてみたいな...。でも、ブルゴーニュの農家が育てている鴨も充分に美味しいので、それ以上のがあるかと疑うけれど...。


北京ダックでしたか。

どうでも良いことを調べまくってしまったのですが、北京ダックもどきを作ろうと思って書きだしていたのだから奇妙な偶然の結末...。

脱線は終わりにして、もともと書きたかった北京ダックもどきの料理を作ったことを書きました:
鴨の骨付きもも肉で北京ダック風ローストを作ってみた



追記 (2016年1月):

別の記事に対して入れてくださったコメントにあった情報から、日本で使われている「シャラン鴨」という単語は、「canard challandais」に対する訳語らしいと分かりました。


ところで、「canard de Challans(シャランの鴨)」と「canard challandais(シャラン地域の鴨)」の違いとは何かばかりを書いてしまったのですが、書き忘れていたことがあります。

この地域で生産される鴨は、条件が合えば与えられる国家が認めた品質保証マークがあります。

Logo IGP
まず、生産地域を限定して与えられる保護地理的表示のIGP(Indication géographique protégée)。

これはEU連盟の品質保証マーク。

Volailles de Challans(シャランの家禽類)の名で、鶏、鴨、七面鳥、ほろほろ鳥、ウズラなどの家禽類に対して与えられます。

「シャロンの家禽類」としてIGPマークを付けて販売することができるのは、301のコミューン(市町村)で生産された鶏や鴨などの家禽類に限ります。


Label Rougeそれから、シャラン地域の家禽類について認められているラベル・ルージュ(農作物・農産加工食品に与えられる国家品質保証マーク)。

こちらは、家禽類の品種や飼育方法などを規定しています。

ラベル・ルージュを持つCanard de Challans(シャランの鴨)としては、Canard fermier(オス鴨)、canette fermière(メス鴨)があります。

シャランの鴨(カナール、カネット)にラベル・ルージュが与えられたのは1985年。
この認可を得ている生産者数は150ほどあるとのこと。

ラベル・ルージュ付き「シャランの鴨」に対する主な規定
  • 鴨の品種は、白と黒のバルバリー種に限る
  • 伝統的な飼育法をされていること
  • 飼育地域は、ロワール河から流れる水がある数10キロに限定された沼地
  • 主な食べ物は穀物類だが、自然の中で放し飼いにされるので昆虫などでも栄養が補われる
  • 動物性の脂や粉末を与えることは禁止
  • 74日間は水辺で生活させること。飼育期間は最低で雄は84日間、雌は74日間。
  • 飼育地の広さは、鴨1羽あたり2.5m²以上
フランスで最も厳しい品質保証ラベルはAOC/AOPです。それに比べるとラベル・ルージュはかなり緩やかな規制です。例えば、AOC/AOPを持つブレス産の家禽類には気が遠くなるほどたくさんの規制があります。

飼育環境について例を挙げて比較すると、AOC/AOPブレス若鳥の場合は1羽につき10m²以上、ラベル・ルージュの鳥肉では1羽につき2m²以上(放し飼いと表示する場合は4m²以上)と差があります。ちなみに、日本の「地鶏」のJAS規格は、1m²に10羽以下!

シャランにAOC/AOPの鴨肉がない限り、ラベル・ルージュを持つものが最も優れているのではないかと思いますよね。でも、そのラベルを持つためには、鴨はバルバリー種でなければならないことになります。昔から珍重されていたけれど、今では絶滅の危機にさらされていて入手が非常に困難な「本物」のCanard de Challans(シャランの鴨)は、ラベル・ルージュのレッテルを付けて売るわけにはいかないことになります。食通の人たちは、ちゃんと分かっているから問題ないのでしょうね。



ブログ内リンク:
★ 目次: フランスで食べる鳥肉と卵(鶏、鴨、ウズラ、鳩、卵など)
トゥール・ダルジャン名物の鴨料理 2006/02/24
ミシュラン2006年版ガイドブック発売ニュースのトップ記事はトゥール・ダルジャン 2006/02/23
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
鴨類の呼称について
APVF, association pour la volaille française  volaille-francaise » Savoir reconnaître une volaille française
les races avicoles Vendéennes
Cuisine française: Canard - Produits
France : le Canard de Challans
Keldelice: Le canard de Challans
Ville et Pays de Challans: Le Canard de Challans
Le canard challandais à la conquête du monde
Libération: La Tour d'argent millionnaire en canards
Volailles de Challans » Canard fermier
AOC IGP AOP : Volailles de Challans
Canard de Challans - Exiger ce produit Label Rouge et IGP*, au goût unique du marais


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