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2015/12/20

シリーズ記事目次 【フランスのワイン産地】 目次へ
その3


前回ロワールワインについて書いたのですが、改めてロワール川流域のブドウ畑が広い地域なのだと気がつきました:
ロワールワインの産地が広いので驚いた

それでロワール川(La Loire)について書きたくなったのですが、この河川の名前を日本語でどう表記するかにつまずきます。


フランス語で「川」と言いたいとき...

フランス人が川を呼ぶときには2つの単語があります。海に流れ込んでいるならfleuve。そうでなかったら rivière

ドライブしていて河川が見えたとき、日本だったら「わあ~、広い川だ」と言えば良いのですが、フランスだと、どっちかの単語を使わないといけないのですよね。fleuveなのにrivièreと言ってしまったら、フランス人に直されます。

例えば、我がブルゴーニュ地方にはSaône(ソーヌ川)が流れています。

ソーヌ・エ・ロワール県(Saône-et-Loire)の県庁所在地マコン(Mâcon)を、ソーヌ川ごしに眺めた風景がWikipediaにあったので入れます。

こういう川を見て、fleuveかrivièreか判断できますか?

Mâcon, le pont Saint-Laurent franchissant la Saône.

ソーヌ川が県境になっていて、この写真はマコン市の対岸にあるSaint-Laurent-sur-Saône(ローヌ・アルプ地方のアン県)でカメラを構えています。この写真を撮った人の後ろにはレストランが軒をつられている場所。

fleuveかrivièreかを考えるとき、海に流れ込むくらい大きな川だったらfleuveだろうと思いがちです。ソーヌ川は立派なのでfleuveと呼んだら、マコン市の高校に通った友達から「rivièreだ」と間違いを指摘されたのを思い出します。「フランス人でもよく間違える」と言ってくれましたけど。

このソーヌ川はフランスで9番目に長い河川ですけれど(全長480km)、ローヌ川(全長812Km)の支流なので rivière。

パリを通って海に流れ込むセーヌ川は、ブルゴーニュ地方のコート・ドール県に水源があるくらいなので、ブルゴーニュ地方の中でセーヌ川を見るときは、マコンの町で見るソーヌ川のような大河ではありません。

それで、セーヌ川をfleuveと呼んで、ソーヌ川をrivièreと呼ぶのは、私にはしっくり来ないのですけど...。


◆ 「ロワール川と書くのが正しいけれど、ロワール河と表記したい

fleuveもrivièreも入る総称としては「cours d'eau」という単語があります。直訳してしまえば「水の流れ」ですが、「河川」というのに対応するように思います。川が流れているのが見えたとき、日本人は「あぁ、河川だ!」とは言わないのと同じように、フランス人も日常会話では「あぁ、cours d'eauだ!」とは言わないと思うのです。

川の名前を知っているなら、fleuveなのかrivièreなのかを知らなくても問題なし。「あぁ、ソーヌ川だ」と言えば良いわけですから。

ところで、フランスで河川の名前には「かわ」という文字が入っていません。住所を見ても、町なのか村なのか全く分からないのと同じ。ただし河川の名前は女性名詞か男性名詞かに分かれています。

フランスで一番長い川で、ロワールワインの地域にも関係するla Loire(ラ・ロワール)。ところが、その支流にle Loir(ル・ロワール)という名前の川があります。最後にEがあるかの違いがありますが、LoireとLoirは同じ発音です。でも、その前に付いている冠詞で女性名詞か男性名詞かで両方は区別できます。なのでフランス人には困らないのでしょうけれど、日本語で書いてしまえば両方とも「ロワール川」なので紛らわしい!

ともかく、la Loireはfleuveで、le Loirの方はrivière。

英語でも、日常会話では河川は「river」を知っていれば良いのではないでしょうか? フランスではどうして海に流れるかどうかで単語を区別するのだろう? 国が大きな6角形をしていて、河川が海に流れつくのが大変だから?

fleuveかrivièreかを間違えると注意されるせいか、いつの頃からか、私は日本語でもそれを区別しないと落ち着かなくなったようです。フランスの河川がfleuveなら「河」で、rivièreなら「川」と、ずっと書いていました。

でも、正しい日本語では、日本の河川は「川」と表記するのだそうなのです。「河」を使うのは中国。「黄河」などにあるように。

フランスの河川に「河」と書いたら間違っていると知ったのですが、直すのはやめようかと悩んでいます。だって、fleuveのla Loireを「ロワール河」として、その支流でrivièreのle Loirの方は「ロワール川」と書けば、2つが区別できるのですから。

でも、「川」としなければいけないのでしょうね。仏和辞典で確認すると、fleuveもrivièreも「川」という訳語になっていました。


ここまで書きながら、河川の名前が女性名詞ならfleuveで、男性名詞ならrivièreかなと思いました。だとすると、大きな発見♪

でも、そうではなかった!

fleuveとして、セーヌ川(la Seine)もロワール川(la Loire)も女性。でも、rivièreのソーヌ川(la Saône)も女性でした。ローヌ川はfleuveだけれど、こちらは男性でLe Rhône...。

フランス人は「フランス語はデカルトの言葉で、論理的なのだ」と言うけれど、それならもっと規則を見つけ出せるような明確な言語にしてもらいたいのだけれどな...。

やはり私は、la Loireは「ロワール河」と書きたい...。


小説谷間の百合の舞台


お城巡りで有名な観光地となっているロワール地方。

バルザック(Honoré de Balzac)の長編小説『谷間の百合』は、この地方が舞台になっています。

小説を読んだ私は、こんな風に思い描いていました。

切り立った山に囲まれた谷。そこに咲く白いユリの花...。
そんなイメージを持つモルソフ伯爵夫人。
Mortsaufという名前に「mort(死)」が入っているので不吉...。

フランス語の原題は『Le Lys dans la vallée』です。

これは英語でスズランを意味する「lily of the valley」をフランス語にした、と聞きました。

スズランは、フランス語ではmuguet。
それでも、イメージはさほど変わりませんでした。

谷間にひっそりと咲くスズランの可憐な花...。

ところが、初めてロワール地方に行ってみると、「谷間」という言葉から連想していたのとはかけ離れた風景が広がっていたのでびっくりしました。

今でも、ロワール河といったら、こういう平野を流れる姿を思い浮かべます。

Vue sur la Loire aux environs de Chaumont-sur-Loire.

私が気に入ったショーモン城のあるChaumont-sur-Loireに流れているロワール河の写真です。

当然ながら、ロワール河も上流の方なら「谷間」と呼べる風景の中に流れていますね。Wikipediaには、こんな写真も入っていました。

Gorges de la Loire (Grangent)

Barrage de Grangentのところ、Saint-Just-Saint-Rambert(ローヌ・アルプ地方のロワール県)で撮影したのだそう。

私が「谷間の百合」からイメージしたのは、こういう山間部にある谷間だったのでした。

小説の題名は「Le Lys dans la vallée」。この「vallée(英語でvalley)」を「谷間」と訳していたわけです。

バルザック(Honoré de Balzac 1799~1850年)は『谷間の百合(1836年)』を、彼が1824年から1837年に滞在していたChâteau de Sachéという城を舞台にして描いていたといわれます。今はバルザック博物館になっているそうです。この城はSachéという名前の村にあって、地図で示すと、こちら。やはり「谷間」のイメージはないですね。

追記: バルザックが時間を過ごしたその城の様子を見せる映像があったので入れておきます。


Val de Loire : Balzac au château de Saché


谷とか、渓谷とか...

ロワールの城巡りで有名な地域は、観光ガイドでもよく登場しますし、ユネスコの世界遺産にも登録されています。

世界遺産としての登録名は、フランス語では「Val de Loire entre Sully-sur-Loire et Chalonnes」ですが、日本語では「シュリー・シュル・ロワールとシャロンヌ間の ロワール渓谷」となるようです。Wikipediaでは「ロワール渓谷」と題したページで紹介されていました。

渓谷? もっとすごい谷間を想像してしまいませんか?

山が多い日本語では、河川の流域と言われると渓谷になってしまうのでしょうか?

仏和大辞典を中心にして、河川に関係する単語を拾ってみました。


vallée広く谷一般を指すが、普通川の名とともに用いて平野を流れる大河の流域をいい、その場合は日本の谷の概念からは遠い。
※ la vallée de la Loire ロワール川流域(ワイン産地で使われている)

vallon,
val
ともに小さな谷を意味するが、valは地名と結びついた若干の用例。慣用句のほかにはあまり用いられない。
※ le Val de Loire(世界遺産の指定地域名としても使われている)

ravin険しく狭隘な渓谷。日本の渓谷は主としてravinに当たる。

cañon両岸が切りたち、深くえぐれた谷。渓谷。
その大規模な例がコロラド・キャノン。

bassin盆地、流域(bassin versant、bassin fluvialなど)
※ le Bassin parisien(パリ盆地)、le bassin de la Seine(セーヌ河流域)



フランスのワイン地図で、ロワール河の流域の地域は、フランス語だと「Vignoble de la vallée de la Loire」とか「vignoble de la loire」とか呼ばれていました。日本では「ロワールワイン」と呼ばれるようです。「渓谷」なんてのは付ける人はいないのではないでしょうか? 谷間で生産されたワインなんて、日当たりが悪くておいしくないだろうと思ってしまいますから。

ロワール古城めぐりの観光ツアーを募集するときも、「渓谷」の文字は入れないのではないかと思いました。だって、ロワール渓谷のお城と言われたら、こんな風な城を想像してしまうではないですか?

Schloss Neuschwanstein

これはドイツのロマンティック街道のハイライトの1つとなっているノイシュヴァンシュタイン城です。こういう風景だったら、ライン渓谷と呼んでもしっくりしますけど...。


ロワール河はフランスで最も長い河川

前回の日記「ロワールワインの産地が広いので驚いた」で書いたロワール川(Loire)は、全長1,006キロで、フランスで最も長い河川です。

どんな地域を流れているのか、地図をしげしげと眺めてみました。

Cours de la Loire.

太い青で示されているのがロワール河(La Loire)。

ロワール河の流域(bassin versant)は11.7万km2の広さがあり、フランスの総面積の5分の1を占める、という記述がありました。それをワイン産地の区分にしてしまったら、ずいぶん広くなってしまうではないですか。

ロワール河流域のブドウ畑(Vignoble de la vallée de la Loire)の面積は7万ヘクタールで(そのうち52,000ヘクタールが原産地呼称AOC/AOPを持つ)、15の県にまたがっているのだそう。





詳しいロワールワイン地図は、こちら


有名なロワールの古城めぐりの観光地

世界遺産として登録された「Val de Loire entre Sully-sur-Loire et Chalonnes(シュリー・シュル・ロワールとシャロンヌ間の ロワール渓谷)」として選ばれた地域は、ロワール河流域の全てではなくて、280Kmの長さ、いわゆるChâteaux de la Loireと呼ぶ城めぐりで有名な観光地を指定しています。

それが「Le Val de Loire」と呼ばれる地域で、下の地図が赤枠で示しています。

Val de Loire ← クリックすると拡大 ↓

Châteaux de la Loire

ロワール河も上流の方は山岳地帯で、そこなら「ロワール渓谷」と呼んで良いと思うのですが、世界遺産が指定したのは平野部のところだけです。それを「ロワール渓谷」と呼んでしまうのに抵抗を感じるのは私だけでしょうか?...

「ロワール渓谷」と呼ばれた地域を空から見た映像があったので入れておきます。


Des racines & des ailes - Loire Paramoteur


不思議なロワール...

ブルゴーニュ地方にあるソーヌ・エ・ロワール県(Saône-et-Loire)は、ソーヌ川とロワール河が流れているためにつけられている名前です。

その県の中にあるDigoin(ディグワン)という町を流れるロワール河に架かる奇妙な橋について以前に書いていました。


クイズ: ロワール河にかかる珍しい橋とは? 2007/04/27

そのソーヌ・エ・ロワール県ですが、県の名前を変えて欲しいと思う人もいるようです。この地方と無縁の人が「ロワール」と聞いたら、お城巡りで有名なVal de Loireと呼ばれる地域を思い浮かべてしまう。「ソーヌ&ロワール」という県名では、どこにあるのか頭に浮かばないではないか、というわけです。

ソーヌ・エ・ロワールの県観光局では、ブルゴーニュ地方の南部にある県だとして「Bourgogne du Sud」という呼び名を使ってPRしています。観光局のサイトも、www.bourgogne-du-sud.com/というドメイン名を取っています。

フランス本土には96の県があるのですが、そのうち6つの県の名前には「ロワール(Loire)」の文字が入っているのです。

ここから考えて書いた記事:
フランスの県名は味気なさすぎる
「リヨンには3つの川が流れている」と言ったのは誰?

★ シリーズ記事目次: フランスのワイン産地

ブログ内リンク:
★ シリーズ記事目次: ロワール河にかかる珍しい橋 2007/05/13
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★ 目次: 城について書いた記事ピックアップ

外部リンク:
Pourquoi la Vallée de la Loire?
Musée Balzac(Château de Saché)
バルザック研究会サイト
Définition de VAL
☆ 日本語への旅: 川と河
☆ 日本河川協会: 河と川の使い分けを教えてください
「川」と「河」と「河川」の違い


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