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2016/02/12
パリでは17世紀にワイン市場が作られのですが、拡張して14ヘクタールの敷地になった市場でも手狭になってきました。19世紀後半になると、もう少しパリの中心からは外れたベルシー地区に、パリのアルコール飲料ビジネスのためのスペースが作られます。

前回は、パリに初めて作られたワイン市場(Halle aux vins de Paris)について書きました:
パリとワインの関係 (2): パリ・ワイン市場(サン・ベルナール河岸)

その続きとして、今回は、パリの増大したワイン市場に対応するために19世紀に作られたEntrepôt de Bercy(ベルシーの倉庫)について書きます。

ほんの少し前までパリに存在していたレトロな空間。ベルシーの酒蔵が解体される前に行くこともできたはずなのに、その存在は知らなかったので見学しようと思ったことがなかったのが残念...。

ありし日の風景を探してみました。


L'entrepôt de Bercy, 1908年

シリーズ記事 【フランスのワイン産地】 目次へ
その21

パリは拡大され、首都でのワイン消費量も増大

パリでのワイン消費量は、1800年には100万ヘクトリットルだったのに、1865年には355万ヘクトリットルとなっていた、と書いてありました。

前回の日記で書きましたが、17世紀末のパリの家庭では1日に1リットルもワインを飲んでしまうのも珍しくなかったようなので、19世紀になったらアルコール飲料の摂取がもっとエスカレートしたのかと思ってしまいます。

でも、19世紀に入ってから、パリの人口は飛躍的に増加していたのでした。人口が3倍になれば、ワインの消費も3倍になっても不思議はありません。

パリの人口の推移を表すグラフです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/fr/timeline/00ce8269cc4690d6e3eb939fde293973.png

1860年のところで人口が飛躍的に増加していますが、それはパリ市の面積が拡大したのが理由です。

パリ拡張の直前、1859年のパリの地図を見てみましょう。



青い線で囲っているのがMur des Fermiers généraux(フェルミエー・ジェネローの壁)のラインで、その中がパリでした。1960年に、赤い線で示されているEnceinte de Thiers(ティエールの城壁)までパリは広がりました。

これに東と西に広い森を加えれば、いまのパリ市の広さになります。

Boulevard périphérique de Paris赤い線で示された城壁は、現在ではpériphériqueと呼ばれるパリ市を囲んだ道路になっています。

この環状道路は、交通量が多いのに車は飛ばすし、パリ独特の慣例的な車の走り方があるので、フランスでは田舎者の私としては怖くて仕方ない場所です!

パリっ子たちは慣れてるので平気なのでしょうけれど、私は車の助手席に座っているだけでも緊張してしまう...。


昔のパリにあった2つのワイン市場

Googleマップを入れてみます、ちゃんと表示されるのでしょうか?

初めに作られたワイン市場 Halle aux vins de Parisは、5区にあるパリ植物園の隣、サン・ベルナール河岸にありました(A地点)。そこでは狭くなったので作られたワイン市場Entrepôt de Bercyは、パリの中心から少し離れた12区のベルシー地区(B地点)。



歩いて30分くらいの距離ですね。両方とも、当時の流通が頼っていたセーヌ河のほとりにあります。

新しく酒蔵がつくられたベルシー地区はパリの外にあったのですが、1959年にパリ市に組み込まれていました。その10年後に、ワインビジネスの場所が造成されたことになります。

パリ市内には酒税が課せられますから、その中にワインビジネスの拠点を作るのにはメリットがあったのでしょう。


ベルシーの酒蔵

1869年にEntrepôt de Bercy(ベルシーの倉庫)という名前で新しいワイン市場が作られたのですが、この地域には、すでに18世紀には小規模なワイン市場が存在していたそうです。

1856年のベルシーの河岸を描いた版画です。


L'entrepôt de Bercy en 1856

これだけ酒樽が並んでいるのを見ると、もうすでに本格的な市場ができていたのではないかと思ってしまいます。

19世紀にベルシーにワイン市場ができたきっかけという逸話がありました。ブルゴーニュに関係して面白いのでメモしておきます。

1704年、ルイ14世はベルシーのノートルダム教会のミサに参列した。そこにいた信者たちは王様に敬意を払って跪いていたのに、一人の男が立ったままでいる。不謹慎である! 衛兵が行ってみると、その男は跪いているのであった。巨人のような体格なのだ。ミサが終わると、興味を持った王が男を呼び寄せて話しを聞く。彼はブルゴーニュ地方のジョワニーのブドウ栽培者だった。

その機会を利用して、男は王に商売には問題が多いことを愚痴った。その話しを面白がった王は、彼が毎年ベルシーの岸辺でワインを販売する許可を与えた。

これが、ベルシーでワインの取引がなされるようになった始まりというわけです。


王様が町中にあるベルシーの教会に行ったのは不自然だとは感じます。よほど立派な教会なのかと思って探してみたら、現在のベルシーにはÉglise Notre-Dame-de-la-Nativité de Bercyという教会がありました。これは17世紀にたてられたNotre-Dame de Bon Secours教会の場所に19世紀に建て替えられた建物なので、ルイ14世とは関係ないですね。

ただし、ベルシーには城や貴族の館がありました。

庭園から歩いていけばセーヌ河に出られそうなベルシー城です。


Vue du château de Bercy depuis la Seine (Gravure, Base Mémoire)

このベルシー城(Château de Bercy)は、このお話しの時期の10年後に完成していました。ルイ14世の財務監督官だった人が所有者だったので、城に行った王様が、そこから2キロくらいのところにある教会に足をむけることも無きにしもあらずという気もします。

お話しには、ブルゴーニュのブドウ栽培者が登場しています。パリのセーヌ河はブルゴーニュからワインを運ぶには非常に便利な水路だったので、その河川を水路として利用していたブルゴーニュが登場するのも筋道は通っている...。

跪いていても立っているように見えたのはジョワニー(Joigny)の人となっています。シャブリから遠くないところ、ヨンヌ川のほとりにある町で、少しパリの方に川を上るとセーヌ河と合流します。ヨンヌ川は、パリに材木やワインを供給する水路として大切な川でした。

蛇足ながら、パリを流れているのはセーヌ川(Seine)と言われますが、本来は合流したときの水量の多さで河川の名前を決めるので、本当はヨンヌ川(Yonne)と呼ばれるべきだったと言われます。2つの川はブルゴーニュに水源があるので、どちらでも良かった、と私は思うのですけれど。

そんなわけで、ベルシーの酒蔵誕生の逸話はよくできているのですけれど、後で作った話しという気持ちは拭い去れません。


ベルシーの酒蔵Entrepôt de Bercy

1869年、ワイン倉庫がベルシー地区に作られました。その前からあったサン・ベルナール河岸のワイン市場は広さが14ヘクタールでしたが、こちらは42ヘクタールの敷地。

ありし日のベルシーの様子をたくさんの写真で見せているのがありました。画像をクリックして開いたページで、右上にあるボタンの左端の矢印が付いたボタンをクリックするとスライドショーで見ることができます。

Au temps des pinardiers - Halle aux vins de Bercy
Au temps des pinardiers - Halle aux vins de Bercy


1972年にはパリで400万リットルのワインがパリで消費された、という記録があるそうです。当時は生活が厳しかったので元気づけに庶民がワインを飲んだ。兵士、肉体労働者、農民など、特に赤ワインが消費されたようです。そうした底辺の人たちのための安いワインだけではなくて、ベルシーの酒蔵では裕福な人たち向けの上質のワインが、ネゴシアンたちによって、特にCour Saint-Emilionと呼ばれた界隈でワインが商品化できるようにしていたそうです。

パリには2カ所のアルコール飲料の市場ができたわけですが、20世紀になるまでは同じくらいの取引量だったようです。

ところが、ベルシーの方が重要になってきます。1930年の時点で、アルコール飲料の30%がサン・ベルナール河岸のワイン市場で、残りの70%がベルシーで扱われるという割合でした。


Entrepôt de Bercy(ベルシーの倉庫)と呼ばれたこの場所で行われていたワイン産業は、一般の人たちはどのようにワインが作られているかは見えないようなものだったようです。ワイン醸造者やネゴシアン(仲買人)などワインビジネスに携わる人たちだけが出入りできたのだそう。ここではフランス各地から集まるワインをブレンドして商品化するので、往々にして質の悪いワインがあった。

1960年代、事情が変わってきます。ボルドーでは「シャトー詰め(mise en bouteilles au château)」というのを考え出した。消費者たちはワインの質を求めるようになりました。例えば、ブルゴーニュワインに、コート・デュ・ローヌやアルジェリア(※)のワインを混ぜて量を多くして売るようなことができなくなってきます。

※ アルジェリアは1830年から1962年までフランス領

次第にワインの仲買人たちが姿を消し、閉鎖される酒蔵も出てくる。ベルシーは、時代の流れの中で役割がなくなってきたようです。

ベルシーのワインビジネスについて知りたいのなら、この本が非常によく書かれているそうです。ご興味のある方はお読みください。

 Bercy, Lionel Mouraux (1983)


ベルシーの再開発


Le petit Bercy, marché public des vins et spiritueux, 1908年

ヨーロッパで最大の規模のワイン市場だったベルシーの酒蔵ですが、1980年頃から地域の再開発が始まりました。

200年も存在していたベルシーの酒蔵。ここはワインのビジネスに関係する全てが集まった村のような雰囲気があったそうで、取り壊すことになると、昔を懐かしむ人たちの姿がニュースで盛んに放映されたようです。


INA: Les entrepôts de Bercy 1993年のニュース

この映像では、始めに分厚い帳簿を開いていますが、1880年からのものなのだそう。

プラタナスの木々があって涼しかった、活気づいた生活があった、ここで働く人たちはみんな幸せだった... なんて、ベルシーの市場がなくなってしまうことを悲しんでいますね...。

時代の流れには逆らえません...。


酒蔵だった歴史を残すベルシー村

ベルシーの酒蔵を取り壊すときには色々な計画があったようですが、プロジェクトが実を結ばなかったり、Palais Omnisports de Paris-Bercy (POPB)と呼ばれた大きな体育館はAccorHotels Arenaに名前が変わったりして、何だかよく分からない。ベルシーという言葉をニュースで聞くときは、ここに引っ越してきた大蔵省の意味であることが多いです。

それでも、酒蔵だった時代の名残を見せる場所は保存されて、ベルシー村(Bercy Village)となっています。パリ12区にあり、場所はこちら



倉庫の建物があったり、石畳には昔には酒樽を運ぶのに使っていた線路も残しているのが面白い。

ここはCour Saint-Émilion。ボルドーワインの産地の名前を付けた場所になっています。




ここでパリのワイン市場のことを書くのは終わりにしようと思ったのですが、このベルシーの酒蔵はパリの郷土料理を生み出していたのでした。

それがどんな料理なのかを書きました:
パリの郷土料理: アントルコート・ベルシー

シリーズ記事 【フランスのワイン産地】 その20  目次へ




ブログ内リンク:
ワイン樽の製造: 今と昔 2016/01/28
気に入ったパリの縁日博物館 (Musée des Arts forains) 2010/12/18
★ 目次: ワインの消費、ビジネス、飲酒規制、歴史など
★ 目次: ワインなどアルコール飲料に関するテーマ

外部リンク:
La croissance de Paris - La population parisienne
☆ Wikipédia: Fortifications de Paris aux XIXe et XXe siècles | Mur des Fermiers généraux |  Enceinte de Thiers
☆ YouTube: Paris - la révolution Haussmann 3-4
パリのペリフェリックが 開通して40年になった 2013/06/19
☆ Googlブックス: Léon Biollay, Les anciennes halles de Paris (1877)
Tableau historique et pittoresque de Paris - depuis les Gaulois jusqu' à nos jours (1822)Halle au vin (P.449)
Les Pavillons de Bercy: Histoire de Bercy
Bercy Village:HISTORIQUE » Histoire de Bercy
Histoire du quartier de bercy le quartier de bercy aujourd'hui
Le commerce du vin à Paris
Quand Bercy était la capitale du vin
Wikipédia: Entrepôt de Bercy | Halle aux vins de Paris
Wikipédia: Quartier de Bercy
Bercy - Paris balades
Paris et le vin  Un Jour de plus à Paris
☆ Paris en images: Hall aux vins(ワイン市場)の画像を検索
Château de Bercy
ワイン流通で栄えたベルシー Bercy Village


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