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2016/03/16
ここのところボルドーワインについて書いているのですが、たまたまシャトー・ディケムChâteau d'Yquem)というドメーヌに行き当たりました:
「本物」と呼べるシャトーをボルドーで見つけた

シャトー・ディケムは貴腐ワインで、AOCソーテルヌ(Sauternes)の中でも別格の品質の甘口ワインとして知られています。

満足できる品質でない年は、ワインを市場に出さないほどのこだわりがあるドメーヌ。20世紀の百年間に、不合格としてイケムのミレジムが生まれなかったのは9回もありました。

お値段が高いことでも有名。でも、そういうワインが買えるお金持ちの食卓にのぼるより、オークションにかけられる方が多いワインではないか、などと言っている人もいます。

Château d'Yquem

シャトー・ディケムの建物が私好みの古城であることに興味を持って調べていたら、『Les Quatre saisons d'Yquem(イケムの四季)』と題されたドキュメンタリー映画が見つかりました。DVDも販売されていますが、YouTubeで1時間半の映像を見れてしまうので、それを挿入します。

2000年の冬から、ブドウの収穫が終わるまでの時期を追っています。四季によって移り変わる風景は美しいし、この特殊なブドウを栽培しているシャトーでの仕事ぶりとポリシーが伝わってくるので感動的な記録映画でした。


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その28


ドキュメンタリー映画『イケムの四季』の背景

シャトー・ディケムのブドウ畑は100ヘクタールほど。平均すると、年間9万本くらいを生産。

シャトー・ディケムの歴史は400年前に遡ると言われます。アキテーヌ公、それからフランス国王に属していたドメーヌがリュル・サリュース家の所有になったのは、Françoise-Joséphine de Sauvage d’YquemとLouis-Amédée de Lur-Salucesの結婚によるもので、それは1785年。

その後200年余り、シャトー・ディケムはリュル・サリュース家のドメーヌでした。ところが、数々の高級ブランドを傘下に持つLVMH - Moët Hennessy Louis VuittonグループのCEOベルナール・アルノー氏がドメーヌの株の買い占めを狙い、1996年に38%の株を持ち、1999年には持ち株の過半数獲得に成功(64%)。シャトー・ディケムの経営権は、リュル・サリュース家からLVMHの手に移りました。

『イケムの四季(Les Quatre saisons d'Yquem)』は2000年に録画されているので、このドキュメンタリーに登場しているのはアレクサンドル・ド・リュル・サリュース伯爵。彼は、急死した叔父が残していた遺言に従って1968年にシャトー・ディケムの管理人となり、その任務を2003年まで果たしていました。

2004年からは、アルノー氏の全面的信頼を得ているピエール・リュルトン氏がド・リュル・サリュース伯爵に代わってシャトー・イケムの経営を担っています。リュルトン氏は、アルノー氏からシャトー・シュヴァル・ブランの経営も任されている人で、ここのところ度々私のブログにも登場しています。

Les Quatre saisons d'Yquem
(ドキュメンタリー 93分)
監督:
Jean-Paul Jaud

出演:
Jean-Paul Kauffmann
Alexandre de Lur Saluces
Sandrine Garbay
Francis Mayeur
Antoine Depierre
ほか

制作: 2001年

Collection Quatre saisons en France :
Les Quatre saisons d'Yquem

この映画を作ったのは、Jean-Paul Jaud。
彼が2008年に発表した『Nos enfants nous accuseront』は、日本でも話題になったようです。農薬の危険性を訴えるドキュメンタリーで、「私たちの子どもは、私たちに罪があるとして責めるだろう」という意味の題名なのですが、邦題は『未来の食卓』と、なぜか和らげています。

彼は黒澤明監督が大好きだそうなのですが、何か主張のある映画を作ることに情熱を傾けているのではないかという気がします。この『イケムの四季』も、また1つ、フランスの伝統が消える前のレクイエムとしてドキュメンタリーを作っておきたかったのだろうという気がしました。

La Morale d'Yquem伯爵とブドウは畑やセラーを見学しながらインタビューしているのはジャーナリスト作家のジャン=
ポール・コフマン(Jean-Paul Kauffmann)。

彼はアレクサンドル・ド・リュル・サリュース伯爵と共著で『La Morale d'Yquem(イケムの倫理)』を1999年に出版していました。

コフマン氏がジャーナリストとしてド・リュル・サリュース伯爵から話しを聞くという形で、シャトー・ディケムのこだわりのワインづくり、自然を相手にする仕事であることの哲学などが語られているようです。

シャトー・ディケムを乗っ取ったLVMHのCEOベルナール・アルノー氏との2年間の戦いと、なぜ彼が経営から身を引くことになったかなども書かれているそうです。

この著書がドキュメンタリー制作のきっかけになったのではないかと思います。

ベルナール・アルノー
アレクサンドル・ド・リュル・サリュース


ド・リュル・サリュース伯爵は、シャトー・ディケムが投資家の手に移ることに抵抗したのですが、ついに負けてしまったわけです。

フランスの由緒ある貴族は決して偉ぶったり気取ったりしていなくて、ブルジョワ階級の成金とはひと目見ただけで分かる違いがあります。アレクサンドル・ド・リュル・サリュース伯爵は、私がイメージしている貴族の典型に見えました。

伯爵の力では、金銭的な問題では対抗できなかったようです。彼はシャトーの経営を担う栄誉を与えられたものの、シャトー・ディケムの株は、息子と合わせても10%しか持っていなかったのだそう。経営には携わっていなかったけれど、財産として株を持っていた親族が、いま持ち株を手放した方が得だと考えたのに対して、彼は抵抗する力はなかったようです。
2005年の裁判では、親族が分け持った株を分割する権利はなかったという判決が下りたけれど、LVMHが株を獲得してしまったことについてはそのままにされた、という報道もありました。


ド・リュル・サリュース伯爵時代のシャトー・ディケム

1時間半のドキュメンタリー『イケムの四季』です:


Les 4 saisons d'Yquem

録画されたのは2000年。冬景色から、ブドウブドウの収穫が済んだところまで追っていました。

ブドウを収穫し始めたら、雨ばかりの天気になってしまいます。これではワインを作れないと判断されて、ついに木になっている実をバサバサと切り落として捨ててしまうというショッキングな画面が入っています。

シャトーにはお天気を見る専門家もいるのですから、雨が降るのは予め分かっていたはず。でも、ブドウの熟成を待って、収穫は何度にも分けて行うのが伝統のようです。普通のワインなら、雨が降る前にブドウを収穫してしまえば良いのですけれど、最高の貴腐ワインで作るイケムのソーテルヌは特殊...。

シャトー・ディケムでは、実ったブドウの8割が使えれば良い方なのだそう。ブドウの木が1本がワイングラスに1杯できる、と言われます。

収穫が終わって、働いてくれた人たちをねぎらう食事会が映し出されました。以前に収穫に来ていた高齢者たちも招待されています。

1991年のミレジムが出されているのが見えましたが、イケム・ヌーヴォーとも呼べる発酵途中のワインもたくさん出ています。そんなのは市販されないでしょうから、味わえるのはここで働いた人たちの特権でしょうね。

ド・リュル・サリュース伯爵は、フランスでは消えていっているのが私にも見える、昔ながらの経営者タイプのようです。従業員にはイケムのボトルを年に1回プレゼントしたり、ブドウ収穫が続く間には従業員の子どもたちのために近所のケーキ屋さんで焼かせたシュークリームを週末に配達させたり、などというエピソードを書いているニュースもありました。

収穫者たちをねぎらうド・リュル・サリュース伯爵は、「皆さんが愛情をこめて収穫してくださったブドウから作ったワインが世界中の人たちを喜ばせている」と言っています。

こういう昔ながらの気質を持った経営者がいるドメーヌだったら、皆しっかり働くでしょうね。映像に移っていた畑で働く人たちも、口笛を吹いたりして、明るく仕事をしているのが印象的でした。

優れたワインはチームワークが作り出す、と言っていた伯爵。それを築き上げたのにシャトーを退くのはつらかっただろうな... などと身につまされました。しかも、先祖代々400年も続いていたドメーヌを乗っ取られた相手は、お金儲けしか考えない実業家なのですから...。


2000年のシャトー・ディケムを飲んでみたい

2000年のミレジムができる1年を追ったドキュメンタリーだったので、そのときに作られたワインを探してみました。

こだわりのワインづくりについて記述しているショップがあったのでリンクしておきます:

ここにリンクした2000年のイケムは、他のショップでは倍額くらいで売っているので間違いではないかと思ってしまう。フランスでも6万円くらいでも売っていますから。

それでも、私には手が出ないお値段です。どなたかお飲みになる方があったら、このドキュメンタリーをご覧になって欲しいな...。

シャトー・ディケム 2000年を楽天市場で検索


シャトー・ディケムのワインは、1度だけ飲んだような気がしたので、思い出してみました。

飲んだわけではなかった! ワインセラーの掃除をした友達が、こんなのがあると言って見せてくれたのです。そのボトルを庭に出して記念撮影したのが写真アルバムに入っていました。



「いつか一緒に飲もうね」と言われていたのだけれど、私はすっかり忘れていました。友達夫妻も忘れていてくれると良いのだけど...。

ミレジムは1998年でした。当たり年ではないような...。

この次に会ったら、「シャトー・ディケムのとても良いドキュメンタリーがYouTubeで見れるよ」と言って話しをしてみよう。そうしたら、一緒に飲もうということになったりして...。

でも、この写真を撮っていたのは12年も前のことだったので、もう飲んでしまったかな?... 飲んでしまったと言われても、がっかりしないことにしようと思います。この友達はファッションでもブランド物が好きな人で、ワインも有名なアペラシオンが好きで色々買っているのですが、なぜか名前負けしているワインばかり飲まされたような気がするのです。


シャトー・ド・ファルグのソーテルヌ


シャトー・ディケムを去った伯爵は、同じくソーテルヌを作っているChâteau de Fargues(シャトー・ド・ファルグ)の経営に携わっているとのこと。

こちらは今も一族が所有している城で、伯爵はイケムで経営者になったのと同じ1968年からお仕事していらっしゃいました。

こちらの城は、ほとんど廃墟。ドキュメンタリーの中でもちらりと映っていました。

Château de Fargues (Gironde)

ドキュメンタリーの中では、こんな状態になってしまった城を修復する資金がないと伯爵はおっしゃっていましたが、修復工事が進んでいるという最近の動画もでてきました。

日本の旧家も同じでしょうが、ご先祖様が残したものを守り続けるのが跡継ぎの任務なのですよね...。


私はブルゴーニュワインばかり飲んでいます。個人的には全く興味を持っていないボルドーワインについて書くのは、これで終わりにしようと思っていました。それなのに、考え方が180度違う人が経営者になったシャトー・ディケムがどうなったのか気になって、調べてしまったので続きを書きます。

とりあえず、2002年のシャトー・ディケムのブドウ収穫を見せるニュース番組の映像があったので入れます。


Les vendanges au Château d'Yquem

ブドウは、ドキュメンタリーの映像で見たように、粉が舞い上がるほどの貴腐状態にはなっていません。乗っ取られてしまったド・リュル・サリュース伯爵も、シャトーを去る前年のニュースなので登場していますが、そっくりさんではないかと疑ってしまうほど私には別人に見えるので奇妙...。

このニュースだけ見れば、違和感は全くなかったでしょうけれど...。



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その28

シャトー・ディケムと貴腐ワインに関して:
前の記事:
「本物」と呼べるシャトーをボルドーで見つけた 2016/05/10

続きの記事:
シャトー・ディケムのワインで、新しい経営者は何を変えたのか 2016/03/19
甘口ワインのソーテルヌは、どのくらいの貴腐状態のブドウで作るの? 2016/03/20

 

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フランス貴族の見分け方 2007/09/25
フランス貴族は気取らない 2005/07/13

外部リンク:
Amazon: Collection Quatre saisons en France : Les Quatre saisons d'Yquem
Lur-Saluces (château d’Yquem) Bordeaux
 Libération: Le coeur a ses raisins. 05/11/1999
Libération: Guerre des frères au château YquemLe comte Alexandre de Lur Saluces porte plainte contre le rachat par LVMH. 24/12/1996
Même chez Yquem, les minoritaires arrivent à faire la loi 19/12/1996
Un fleuron du bordelais passe sous le contrôle de LVMH  21/04/1999
Château d'Yquem : disparition d'Eugène de Lur Saluces 07/12/2011
☆ Alexandre de Lur Saluces et Aubert de Villaine: un entêtement de civilisation(2012年): 1/3 2/3 3/3
Le comte Alexandre dans son village (UZA - 40)
オフィシャルサイト: Château d'Yquem
Dico du vin:  Yquem (château d'Yquem)
Figaro vin: Château d'Yquem
Wikipédia: Château d'Yquem
iDealwine: Informations sur Château d'Yquem


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