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2016/07/05
食前酒として飲むカクテルの中で、フランスで最も飲まれているのは、パスティスなどの名前で知られるアニス酒なのだそうです。.

それに続いて飲まれているのは、キール(Kir)とのこと。

パスティスはアニス酒に冷水を加えるだけ、キールはカシスのリキュールに白ワインを入れるだけでと簡単に作れる食前酒なので、飲む人は多いかも知れない。

キールはブルゴーニュ地方の食前酒なので地元では飲む機会が多いのですが、全国的にそんなに飲まれているのかな?... という気はします。

前々から気になっていて、ブログにもチラホラと書いていたキール酒について調べてみました。


カシスにこだわるディジョン市

カシスをアルコール飲料に浸して作ったリキュールを「クレーム・ド・カシス(crème de cassis)」と呼びます。これを作るために最も良い品種は「ノワール・ド・ブルゴーニュ(Noir de Bourgogne)」で、こちらにもブルゴーニュの文字が入っています。

カシス(クロスグリ)は、ブルーニュ地方の州都ともいえるディジョン市のシンボルの1つになっています。

食前酒 キール
カシスの実

ディジョンらしいデザート 2008/03/31
ディジョンの市電も
カシスの色を採用

ディジョンのトラムはカシス色 2012/09/07


カシスのリキュールを使う食前酒のキールは、ディジョンの市長を長年務めたキールさんの名前。ですから、カシスとディジョンは切っても切れない関係にあります。


La crème de cassis, délice de Bourgogne

ブドウの栽培に適しているブルゴーニュでは、カシスが育ちやすいのではないかと感じます。私の庭にあるノワール・ド・ブルゴーニュ種のカシスも、秋に膝の高さに切るという手入れだけで元気に育っていますので。


本物のキール酒とは?

フランスのどこでも、カフェで食前酒を飲もうと思ったときにキールを注文すれば出てくるのかもしれません。でも、「キール」と言って出されても、美味しいかどうかは、かなり差があります!

最悪なのは、クレーム・ド・カシスの代わりにカシスのシロップを使ったもの。リキュールはアルコール度が強いので、シロップを使うとアルコールに弱い方には好ましいのかもしれませんけど、安いシロップを使ってケチったと私は思ってしまう...。

パリのカフェでキールを注文したら、ピンク色で、キールとは呼べないと思うシロモノが出てきて飲まずにカフェを出たことがありました。それ以来、パリでキールを注文するのは止めました。

ブルゴーニュの食前酒とはいえ、こだわりがあって美味しいキールを出すカフェが見つかるのはディジョンだと思っています。なんでもない食前酒なのですが、2つの材料の選び方でかなり味が変わってしまうのです。


ブルゴーニュの白ワインはシャルドネ種のブドウで作るのが多いのですが、食前酒のキールを作るにはアリゴテ種を使うのが原則になっています。

クレーム・ド・カシス
アリゴテ
 (ブルゴーニュ白ワイン)
=キール


正式のキールは、クレーム・ド・カシスを3分の1、アリゴテを3分の2という調合になっています。「1対2」と言っても良いと思うのですけど、フランスでは「3分の...」という言い方をします。どうせ目分量でするわけですから、微妙な配合の違いはどうでも良いのだろうとも思う。

でも、最近はアルコール度が強いものをフランス人は飲まなくなってきているので、カシスの分量は5分の1というフランス人も多いようです。

使うワインはアリゴテと限定するのは、これはシャルドネ種の白ワインのようにまろやかではないので、甘口のリキュールとブレンドするのには適しているからです。でも、最近のワイン醸造者は、アリゴテが飲みやすいようなワインにしてしまってきているので、キールを作るのに適した超辛口のアリゴテを探すのには苦労するようになってしまいました。


食前酒キールとして名前を残したディジョン市長

Wikipediaの日本ページでは、食前酒のキールはディジョンの市長だったフェリックス・キールが考案したと書かれていましたが、それは間違い。この飲み物を広めた彼の名前が食前酒に使われたというだけです。

キールという食前酒の歴史についてメモしてますが、その前にキール氏を紹介しておきます。

お名前はFélix Kir(フェリックス・キール 1876~1968年)。ブルゴーニュ地方で教会の司祭から司教座聖堂参事会員(chanoine)にまでなった聖職者なので、地元ではChanoine Kir(シャノワンヌ・キール)と呼ばれています。

キール氏は1945年にディジョンの市長になり、それから再選を重ねて亡くなるまでの20年余りをディジョン市長を務めました。

オート・コート・ド・ニュイにあるドメーヌのサイトに、ドメーヌを訪れたキール氏の写真が入っています。ベンチには食前酒キールを作るために必要がボトル2本とグラスが見えますね。食前酒をつくるために必要なワインを買い付けに来たときの撮影のようです。


Le Domaine Bonnardot

市長とはいえ、soutane(スータン)という聖職者の服を着ていたキールさん。彼については、地元では数々の逸話が語り継がれています。

例えば、議会で共産党の議員から「あなたは神様と言いますが、私は一度も見たことはありません」と言われたキールさんの返事はふるっていました。

Et mon cul, tu l’as pas vu et pourtant il existe !
それで、俺のケツはどうだ。お前は見たことがない。それでも存在しているのだ!

友達とその話題が出たとき、私は言いました。
彼は聖職者だから、奥さんはよく見ていると言い返すわけにもいかないしね。

すると友人は、言いました。
僕だったら、「じゃあ、見せてください」と言い返したけどね。彼はスータンをまくって見せただろう。キールはそういうこともやってしまう人だったから。

独断でディジョンの町に人造湖(これもキール湖と呼ばれる)も作ってしまったような人。湖のオープンは1964年。まだ、都市住民に自然を与えようなどという機運はおきていなかった時代ですから、かなり先駆的な発想でした。もちろん、議会で「賛成の方は手をあげてください」と彼が採決をとろうとしたら、誰も手をあげない。彼は自分で挙手をして、「はい、じゃあ決まりました」と言って計画を進めたのだそう。

川をせき止めて人造湖を作ったのですが、その時に立ち退きになった家の娘だったという人に会ったことがあります。家に交渉に来ていて、ともかく臭くてたまらなかったのだけを覚えていると笑っていました。当時はドライクリーニングがなくてスータンはめったに洗濯できなかったのかな?...

彼は工業化するのは良くないとも考えた人なので、おかげでディジョンには大きな産業などは起きなくて、のどかな地方都市になっています。

キール氏が亡くなったのは1968年4月25日。つまり、フランス人の生き方を大きく変えた五月革命(Mai 68)の直前に亡くなっています。彼はこう社会運動なんかを見るに耐えられなかったからその前に死んだのだろう、とディジョン子たちは冗談を言います。

ともかく、ディジョンっ子にとっては、今でも忘れられない豪快な人だったようです。

コート・ドール県の県議会議員でもあり、国民議会の最長老議員でもあったキール氏。姉妹都市関係を結ぶのが好きで、ディジョンの姉妹都市は20くらいあります。

つまりキール氏は、県内はもとより、パリジャンにも、外国人にも、カシスと白ワインの食前酒を広める機会が多かったわけなのでした。



キール酒を広めたのがキール氏であることは、誰もが認めることです。

ところで、Kir(キール)という単語は、1960年ころから辞書に見られるようになり、プチ・ラルースに入ったのは1976年とのこと。

現在では、白ワインとカシスのカクテルがキールというのは拡大されて、色々なバリエーションができています。

フランスの記事には、日本でも人気があるのだと書いてありました。柑橘類のジュース、冷茶、炭酸水とのカクテルがあり、ミルクとのブレンドもあると書いてありました。炭酸水は想像がつきますが、ミルクとカシスのカクテルなんて存在するの?...


クレーム・ド・カシスの誕生

食前酒のキールに必要なのはクレーム・ド・カシス(crème de cassis)。

このの前身とも言えるカシスのラタフィアは、アンシャンレジームには飲まれていたのに、18世紀に禁止されたという記述がありました。ルイ15世は1746年に狩猟のときに立ち寄ったオーベルジュで気に入っていた、という記述があるそうですが、その後になぜ宮廷で禁止されたたのかは分からない...。

ともかく、ブルゴーニュでは、ボーヌ周辺のブドウ畑の外れにカシスが植えられていたようです。

1841年、ディジョン市のリキュールを作っているAuguste-Denis LAGOUTEが、カシスをアルコールの中に漬けたリキュールを考案しました。アルコール度は15度で、1リットルあたり400グラムの糖分が入っているものだったようです。

現在の社名はLejay-Lagouteとなっています。



それが大成功したために同じものを作る会社が増え、1860年にはコート・ドール県内の29社がカシスでリキュールを作っていたそうです。

県内でのカシス(クロスグリ)の生産も奨励される。当初、カシスはブドウ畑の中や、ブドウ畑の縁に植えられます。1868年からはフィロキセラ禍がブドウ畑に壊滅的被害を与えたので、ブドウは引き抜かれ、代わりにカシスの木が植えられた畑も多かったとのこと。




なお、「クレーム・ド・カシス(crème de cassis)」とは、カシスのクレームなわけですが、クレーム(crème)という言葉はクリームの意味でも使われるのでややっこしい、

シロップ状のリキュールを「クレーム」と呼ぶのだそうで、この意味でクレームという単語が文献に初めて現れたのは1760年となっていました。


食前酒キールの誕生

キール市長にちなんで「キール」という名前が付けられる以前は、白ワインとカシスという感じで「blanc cassis(ブラン・カシス)」、あるいは縮めて「blanc-cass(ブラン・カス)」と呼ばれてました。

「rince-cochon」という呼び名もあった、と書いてありました。直訳で「豚洗い」にはならないスラングですね。口の中をサッパリとさせる飲むもののことを指すそうです。

でも、ディジョン出身でキール大好きの友達に聞いたら、「ランス・コション」なんて呼び名は絶対にしないと返事されました。キールが定着する前に、安いお酒で作っていた時代の言葉なのかもしれません。

白ワインにアリゴテを使わないカクテルは、地元の人は「ブラン・カシス」と呼んで、キールとは区別します。


クレーム・ド・カシスに白ワインを入れたカクテルを誰が考え出したのかには色々な説がありますが、有力とされている説は、ディジョンのカフェでお給仕をしていた人が1904年に始めたというもの。

そのお給仕の人とは、誰か? ボシュエ通りのカフェで働いていたFraivreという名の男性のギャルソンが考えだしたという説、あるいはモンシャペ通りのカフェで働く女性が間違えて作ったという説がありました。

下は、ディジョンのモンシャペ通りにあるカフェで、ここで誕生したというお話しの方。

http://s-www.bienpublic.com/images/CF763E3F-8150-4B9B-8D25-A8FC0303F315/COM_01/photo-1395675383.jpg
Dijon : le blanc cassis ou l’histoire de la serveuse maladroite

ギャルソンが間違えてやってしまった。食前酒は白ワインのストレートか、クレーム・ド・カシスのストレートの注文だったのに、カシスが入っているのに忙しくて気が付かなくて、白ワインを加えてしまった。そうしたら、お客さんに気に入られたというストーリー。間違いから生まれたレシピというのは、フランス料理でよくありますね。

間違いをしてしまったのは、カフェの近くに住む政治家Henri Barabantが、カフェ一緒にいる人達にお酒をおごったときのこと。1904~08年にディジョンの市長でもあった政治家で、彼はレセプションでシャンパンを出すのを節約するために、その代わりとして白ワインとクレーム・ド・カシスのカクテルを出し、それがディジョン市役所の伝統として残ったというストーリー。

キール氏(ディジョン市長在任: 1945~68年)は、この伝統を続けたに過ぎない? もしかしたら、Barabant(ブラバン)と呼ばれていた食前酒になっていたのかもしれなかった?...


キール戦争?

1952年、キール市長はクレーム・ド・カシスを誕生させたリキュールメーカーのLejay-Lagoute社のRoger Damidot氏に、「キール」という名で商品化する権利を与えました。

その4カ月後、同社は「Kir(キール)」と、白ワインの代わりにスパークリングワインのクレマン・ド・ブルゴニュをつかう「Kir royal(キール・ロワイヤル)」を地元ディジョンで商標登録します。

当時は商標とか独占権などというのには神経質ではなかったはず。キール市長が許可を与えたというのも、「キールという名前を使って良いよ」という軽い気持ちでした承諾だったのではないでしょうか。

1955年には、キール市長はHéritier-Guyot社に対して、キールという名前を使う独占権を与えたつもりはないのだから、自分の名前を使っても良いのだ、と言う手紙を出しています。


Héritier-Guyot社は「Kir premier」、「Super kir」、「Hyper kir」と名づけた商品を作ったので、キールの商標登録をしていたLejay-Lagoute社から告訴を受けます。1980年から12年間も、この2つの会社で裁判が続いたのでした。

ついに1992年、「キール」はLejay-Lagouteが所有権を持つ名称だとする判決が下りました。

それまでに告訴は19回あり、裁判費用は800万フラン(2億円くらい?)かかったということ。そこまでしてカシスの名にこだわりますか...。

つまり、今日ではKir® が存在しているわけです。

でも、その名前で商品を販売する権利が制限されているということ。作ったカクテルをキールと呼ぶことには拘束はありません。

でも、この話しを初めて聞いたとき、日本には「キール」という名前のお酒を売っているけどな... と思ったのでした。探してみたら、当時のコマーシャルフィルムが出てきました。


Suntory Kir Royal CM

今は販売されてはいないのではないかと思います。

最近ですが、『À qui profite le Kir® ?(キール®は誰に利益をもたらすか)』と題した探偵小説を出した作家がありました。

本が店頭に並ぶとすぐ、Kir®の権利を持つLejay-Lagoute社から出版した本を回収せよという通知が出版社に来たのだそう。

調べてみたら、この本は販売されているのですが、®は削除されていますね。


クレーム・ド・カシス・ド・ディジョン

ディジョン控訴院は1923年に「クレーム・ド・カシス・ド・ディジョン(crème de cassis de Dijon) 」という原産地名を特定しましたが、欧州連合がその製造法を規定したのはずっと後で、1989年。

クレーム・ド・カシスは小規模生産のものが私は好きなのですが、大量生産しているメーカーの中で地元の人たちに定評があるのは下のガブリエル ブティエの商品です。



ディジョンの町の土産物店ではよく売っているのですが、日本ではほとんど見かけませんね。
クレーム・ド・カシスを楽天市場で検索

このリキュールには「クレーム・ド・カシス・ド・ディジョン」と名前が付いています。この名称に私は馴染みがあるのですが、前回の日記「評判の良いクレーム・ド・カシスを買いに行く」に書いたドメーヌで買ったリキュールのボトルには「クレーム・ド・カシス・ド・ブルゴーニュ」と書いてありました。

ディジョンのと、ブルゴーニュとので、どう違うの?...

それを調べてみたので次に書きますが、キールの名前で戦いああったように、クレーム・ド・カシスにもカシス戦争のようなものがあったのでした!

続き:
ディジョンのカシス vs ブルゴーニュのカシス

クレーム・ド・カシスについて書いた今回の連続記事

 ★ 評判の良いクレーム・ド・カシスを買いに行く 2016/06/21
 ★ 食前酒キール誕生の歴史 2016/07/05
 ★ ディジョンのカシス vs ブルゴーニュのカシス 2016/07/09
 ★ 自家製のクレーム・ド・カシスを作るレシピ 2016/07/12




Le chanoine Kir - Visites privées




ブログ内リンク:
ブルゴーニュ白ワイン「アリゴテ」と食前酒キールの関係 2009/03/03
★ 目次: ブルゴーニュの古都ディジョンの観光スポットや特産品など
★ 目次: フランスで食べる郷土料理、地方特産食品、外国料理
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
☆ Wikipedia: クレーム・ド・カシス = Crème de cassis
Dijon : le blanc cassis ou l’histoire de la serveuse maladroite
Garçon! Un Kir! Sa véritable histoire
Bourgogne : crême de cassis, kir, spécialités
Quelle est la véritable histoire du kir ?
Dijon et ses maires inoubliables : Kir, l’élu culte !
Lejay Lagoute - Créateur de la Crème de Cassis en 1841
Gabriel Boudier, since 1874  /  ガブリエルブディエ
☆ Cassissium: L'épopée de la Crème de Cassis
☆ Cassissium: Utilisation de la crème de cassis
Petite histoire de la crème de cassis de Dijon
☆ Dijon en 1900: La Crème de Cassis de Dijon
Quand une marque interdit la sortie d’un roman
☆ YouTube: EPICERIE FINE - LE CASSIS DE BOURGOGNE


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コメント
この記事へのコメント
キール(Kir)♪
お酒も 件の市長さんも
存じ上げませんでした。。。

さっき ピールを 買いに行ったら
お店に 置いてあったのが
「ルジェ クレーム ド カシス
20度 正規 700ml 」

裏ラベルの 輸入会社を見たら
サントリー。。。買うの 止めました。
サントリーの 製品は 死ぬまで買わないのだ♪
http://blogs.yahoo.co.jp/kons_sss/58198248.html

ちなみに 件の市長さんは
好みの タイプです ♪
2016/07/08 | URL | たかゆき  [ 編集 ]
Re: キール(Kir)♪
v-22 たかゆきさんへ

政治家が想像を絶するような差別発言をしても、いつの間にかウヤムヤになって消えていく日本なので、何年たっても許さない東北人はあっぱれです!

>ちなみに 件の市長さんは 好みの タイプです ♪

たかゆきさんなら、そう思われるだろうと思っていました♪ キール市長は度を超してしまうこともあったけれど、悪気や下心があったことはしていない。こういう政治家が実権を握ることは、今はできないのだろうと感じます。
2016/07/08 | URL | Otium  [ 編集 ]
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