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2017/04/08
食卓で使うナイフの先はなぜ丸くなっているのか、というフランスの記事がありました。
あれ、あれ。ナイフの先は尖っていなかったでしたっけ?...

  

フランス製のナイフを並べてみたのですが、右端のは折り畳み式のアウトドア用ナイフ。確かに、それに比べると、テーブルナイフの先は丸くなっていますね。

納得したところで続きを読みました。

シリーズ記事 【フランスの食事の歴史】目次へ
その6



テーブルナイフの先を丸くしたのはリシュリュー枢機卿

フランスでナイフの先が丸くなったのは、1610年の5月13日だった、なんていうことまで書いてあるのでした。

ルイ13世の宰相を務めたリシュリュー枢機卿(1585~1642年)が、食卓で使うナイフの先を丸くすることを思いついたのだそう。

Armand Jean du Plessis de Richelieu
Cardinal de Richelieu

なぜ、そんなことを考えたのか、想像がつきますか?


食事で使うナイフの刃先を尖らせなかったのは、子どもに危ないからと考えてしまいそうですが、そうではない。この時代には、子どもたちは大人とは別のテーブルで食事をさせていて、彼らには刃物は持たせなかったと説明されていました。

リシュリュー枢機卿は、彼とテーブルを囲んでいた人々がナイフの先を爪楊枝代わりに使って歯を掃除しているのを見て苛立ち、ナイフの先を丸くするようにという命令を出したのでした。

リシュリューは、フランス語の純化を目的としてアカデミー・フランセーズ(Académie française)を創設した人ですから(1635年)、そんなこともやりそう...。

アカデミー・フランセーズの建物
(パリ市)
Académie française
初めての
アカデミー・フランセーズの辞書
(1694年)


ナイフで歯をほじくるなんて下品だ、と思ったので止めさせようとしたのでしょうね。でも、尖ったナイフの先で歯の間に詰まったものを取り除くなんて、歯茎を傷つけてしまう方を心配すべきではないかと思うけれど...。


ナイフの先を丸くしたら爪楊枝には使えなくなったわけですが、それでは肉が歯につまった人たちはどうしたのでしょう? リシュリューは、食卓に爪楊枝に置くことにしても良かったのではないかと思ってしまう...。

爪楊枝がヨーロッパには存在しなかったというわけではなくて、原始時代の遺跡からも発掘されているのだそうです。でも、この時代には、この時代は使い捨ての木で作った爪楊枝などは存在していない時代だったのは確かなようです。


ルネサンス期の爪楊枝

16世紀半ば、イタリアの画家パオロ・ヴェロネーゼ(Paolo Veronese)が描いた『カナの婚礼(1562~63年)』に、楊枝らしきものを口にした女性が描かれています。



左にあるテーブルの奥に座っている女性です。

Paolo Veronese - The Marriage at Cana (detail)

クリックで拡大するようにしていますが、口にくわえているのは長い棒であって、ナイフではないようですね? 大勢の人が、これは爪楊枝だとして記事を書いているので、それに間違いなさそうです。

フランスでリシュリュー枢機卿がナイフで歯を穿るのを見て苛立ったのよりも、百年も前に描かれた絵画です。フォークはイタリアからフランスに伝わったと書きましたが(フォークを使って食べることが定着するには、百年以上もかかった)、やはりイタリアの方がずっと食文化の上では進んでいたのでした。


フランス語で、爪楊枝はcure-dentと言います。

この単語がフランスの文献で初めて登場したのは、「中世の食事 (3) 食べる道具としては、ナイフとパンがあれば十分」で紹介したベリー公の、1416年の財産目録だったそうです。

ベリー公の爪楊枝はアメリカの博物館にあるらしいのですが、どんなものなのか画像で見ることはできませんでした。ただし、同じ15世紀にフランスで作られたブロンズ製のものがありました(こちら)。爪楊枝だと言われなければ、携帯用の大工道具かと思ってしまいそう。

現代的な爪楊枝は、16世紀にイタリアからフランスに伝わった、とありました。フォークが伝わった時期ですね。


爪楊枝と耳かきがセットって...

使い捨てが登場する前の時代、爪楊枝は金や銀でできていて、宝石のように貴重なものだったようです。

どんなものだったのかと画像を探してみたら、フランスのエクワン市にある国立ルネサンス博物館に面白い所蔵品がありました。

爪楊枝と耳かきがセットになっているのです。似たような機能を持っているわけですが、耳垢を取るものと、口の中に入れるものを一緒にするというのは、何となく気持ち悪いですけど...。

下は、17世紀にフランスで作られた折り畳み式の道具。銀製で彫刻がほどこされています。


Cure-oreille avec cure-dent escamotable, 17e siècle, France

上の部分が耳かきで、下の部分が爪楊枝。鋏のように閉じて、折りたたむと耳かきの形で残ります。


下は16世紀のもの。銀に金メッキをしたペンダントだと説明がありました。こちらはドイツ製。


Cure-dents et cure-oreilles

女性がお上品に使う道具のように見えます。眺めていて気がついたのですが、こういう風にカーブしている爪楊枝の方が使いやすそうに思えます。


日本や、その他の国では?...

日本では、仏教と共に爪楊枝が伝わって、平安末期には庶民にも広まっていたようです。


喜多川歌麿『国五色墨 川岸』 1795年頃


飲食店のテーブルに爪楊枝が置いてあるのは日本では珍しくないですが、フランスでは例外的だろうと思います。爪楊枝を使うにしても、フランスでは洗面所に行ってするのがマナーだそうで、食卓で楊枝を使っている人は見たことがありません。

いずれにしても、爪楊枝は、フランス人はそれほどには使わない感じがします。子どもの時に歯並びを矯正するのが一般化しているのも理由かもしれません。


爪楊枝は、国によっては変わった形のもあるのでした。モロッコを旅行したときに、道端から中が覗ける工房で何か作っていたので見学させてもらったら、こういうものをプレゼントされていました。

Herbe aux cure-dents

爪楊枝だと言われたのですが、歯ブラシの間違いではないかとも思いました。なんだか分からないので飾っていたのですが、そのうち、どこかに行ってしまいました。この際、調べてみたら、これは葦の穂を乾燥させて作ったもので、1本ずつ取り出して爪楊枝として使うのだそうです。


続き:
その7 テーブルナプキンの歴史

シリーズ記事【フランスの食事の歴史】目次



ブログ内リンク:
★ 目次: レシピ、調理法、テーブルウエアについて書いた記事
日本のハイテク技術♪ と絶賛される「楊枝とり」 2016/08/09

外部リンク:
Le cardinal Richelieu inventait le couteau de table
Pourquoi y a-t-il des couteaux à bout arrondi
☆ Wikipedia: パオロ・ヴェロネーゼ(Paolo Veronese)
☆ ルーヴル美術館: 《カナの婚礼》  
Une brève histoire pop du cure-dents
ルネサンス美術館―エクアン城
つまようじの歴史
江戸時代の歯磨きは意外に進んでいた。300年前の歯ブラシ・歯磨き粉も紹介


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コメント
この記事へのコメント
楊枝 ♪
ナイフが 楊枝でございますか、、
ナイフよりも フォークの先が
楊枝に向いていると 思いますけど
フォークの先を 丸くしたら、、、
フォークの用をなしませんね。。。

ちなみに ぼくは ナイフは 刃先しか
使わないので 刃先の丸いナイフは
用をなしません 

銀の楊枝を 拝見したことが ございますが
歯肉も 歯にも 良くないかと

最近は 糸楊枝とか プラスチックの歯間ブラシが
あるので 便利

食事の後には すぐに 
歯ブラシと 糸楊枝 歯間ブラシ で清掃するのが
習慣の ぼくは 
それが 憚られる 他人様との会食が
とても とても 苦手で ございます ♪
2017/04/11 | URL | たかゆき  [ 編集 ]
Re: 楊枝 ♪
v-22 たかゆきさんへ

>ナイフよりも フォークの先が 楊枝に向いていると 思いますけど

そうでしょうかね...。この当時のフォークの歯が2本だとして、それを持ってやると、使わない1本の方で顔を傷つけてしまうのではないかという気がするのですけど...。

>銀の楊枝を 拝見したことが ございますが 歯肉も 歯にも 良くないかと

でしょうね。日本の楊枝は適当な柔らかさがあって良いと思います。

>食事の後には すぐに

あら、まあ。清潔好きなのですね...。3つも使うなんて、すごい!
2017/04/11 | URL | Otium  [ 編集 ]
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