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2010/07/06

第一次世界大戦下のフランスを舞台にした映画を見て その3


イギリスに駐在していた日本の知人が、外国で暮らすときの問題を語ったことがありました。現地の学校では、終戦記念日になると、毎年、日本軍がいかに卑劣なことをしたかをテーマにした授業をするだそう。彼女の子どもたちは居心地が悪くなるので可哀そうだ、という話しでした。

「イギリスの学校ではアヘン戦争についての授業をするの?」と、へそ曲がりの私は言葉を返したのですが(本心から興味があったし…)、良妻賢母を絵に描いたような彼女から答えはありませんでした。

「きれいな戦争」というのは絶対に存在しないと思います。敗戦国は、戦争中にやった汚いことがトコトン斬罪される。戦勝国は、戦争中にやった汚いことを正当化できる。そんなものではないでしょうか?

でも、自国がしたことを自ら批判する人たちもいる…。


戦争中にあった「いましめのための銃殺」

前回の日記「第一次大戦期の子どもの心を描いたテレビドラマ」で紹介した映画は、戦争の不条理を描いたお話でした。

主人公の少年モモの父親は「いましめのために銃殺された兵士たち(Soldat fusillé pour l'exemple)」の一人だったのでした。「exempleのため」とは、なんとも恐ろしい呼び名です!

戦いに疲れて「もう動けない」と弱音をはいたり、「そんな作戦は無謀だ」と上官に反抗したりする人たちを銃殺して、他の兵士たちのみせしめにする、という銃殺。

銃殺された人の家族は二重の苦しみを味わったそうです。愛する人を失った悲しみを味わうだけでなないからです。卑怯者の家族として村八分になり、戦死者としては扱われないので遺族手当も支払われない...。

銃殺は他の兵士たちが戦いを続けさせるための「いましめ」だったわけで、まさにロシアン・ルーレットのように選ばれて銃殺された人たちもいたのだそうです。

そんな恐ろしいことがあったという事実は、戦後何年たっても闇にふされていたとのこと。卑怯者の烙印を押されて命を失った人々の家族や友人たちが運動をおこして、彼らも戦争の犠牲者だと認められるようになってきたようです。


銃殺された兵士の墓碑

いましめのために銃殺をされた兵士、フェリックス・ボーディの墓にある石碑です。



1915年、大量の死者が出ていた塹壕戦。ドイツ軍に占領されていた土地に攻撃する命令が出ましたが、250人の兵士が「いま出陣するのは適当ではない」と塹壕を出ることを拒否しました。数日前には600人の死者を出す戦闘があり、ほんの少し前には突撃を開始した15名のうち12名が死傷者となっていたのです。

将官は、彼らを卑怯者として処罰するために軍法会議にかけることを命令します。

結局、みせしめとして5名が処刑されることになりました。2名はクジ引きで選ばれ、ボーディを含む3名は労働組合に入っていたということを理由に選ばれました。このとき、なぜかクジ引きで選ばれた1名は除名されて、銃殺されたのは4名でした。

銃殺された4名は、1934年に有罪判決が取り消され、名誉を回復したそうです。

ボーディの仕事仲間が墓石の上に置いた石碑には、こう刻まれています。
 呪わしき戦争
 その呪わしき死刑執行人たち
 ボーディは卑怯者ではなく
 殉教者だ



みせしめは本当に必要だったのか?...

そういう処刑は、どんな国の軍隊でもしていたはず。そもそも、平和な今の社会でも、強い立場にある人が弱者を卑劣に虐める事例にはこと欠きません。親が子どもを虐待する、学校でのいじめ、職場でのいじめ...。

現代では即座に銃殺にしたりはしないので、勇敢な人は立ち向かえます。でも、一生とりかえしがつかない心の傷を負ってしまった人もいる。虐待を忍んで頑張りすぎてしまったために病気になったり、自殺してしまった友人もいます…。


大量の死傷者を出した泥沼的なフランスの第一次大戦では、みせしめの銃殺がかなり行われたそうです。でも、他国でも同じことをしていたであろうことは想像できます。

フランス語のWikipedia情報によれば、みせしめのために銃殺されて兵士の数は次のようになっていました。

1. イタリア: 750人
2. フランス: 600人
3. イギリス: 306人

こういうことをしたのは隠すのが当然ですから、実際の数値は闇に包まれているのでしょうね。戦後、そういうことをしたという社会問題として取り上げられるかどうかにもよっているはず。

日本ではどうだったの?....
☆ Wikipedia:
銃殺刑


イタリアとフランスの数値が多いのですが、きちんと一列に並んで行進させることさえ難しいだろうなと思ってしまうラテン系国民の場合は、こういうことをしないと収拾がつかなかったのかな… という気がしないでもありません。

なにしろ、フランス人たち、食卓でおしゃべりしているときだって喧々囂々に議論しています! ドゴール将軍が、こんなにたくさんのチーズがあるようなフランスという国を統治するのは難しい、と言っていましたが、その通りだと思う。みんないっぱしに意見を主張するし、皆が同じ意見になってしまっては面白くないからと反対意見を言う人さえいる。議論はいつも白熱します。


ドイツの犠牲者は、公式発表では48人となっていました。もっとあったのではないかな という気はしますが、ドイツには規律正しい国民性があります。共通の敵をユダヤ人にした、という作戦もあった...。

ドイツ語は命令口調で言うのには適した響きがあります。フランスで犬を調教するときには、ドイツ語を使うのだそうです。フランス語で怒鳴ってみたって、鼻に抜けてしまう言葉なので、犬がバカにして笑ってしまいそう!

日本人も同じように規律正しい国民でしょうね。サッカーのトルシエ監督が言っていたことで、印象に残っていることがあります。

彼が監督になったときには、一番初めに、選手たちにチームワークが必要なことを教えるのだそう。ところが、日本チームの場合は、それが全く必要なかった。むしろ、選手たちが先んじて自分から攻撃に出るのを躊躇してしまうのがネックなので、それ何とかするように努力しているとのことでした。

日本のニュースを見ていると、余りにも一色に塗られていると感じます。何か事件がおきると、どのチャンネルでもそれを報道しているのが異常に見えます。もしも「戦争をしなければならない!」というカラーになったら、昨日まで平和を唱えていた人が、あっさりと戦争賛成派に回ってしまうのではないかとさえ感じてしまって、怖くなることがあります…。


私が知らなかっただけ?...

テレビドラマで知った「みせしめの銃殺」について、歴史教師をしているフランス人の友達に聞いたら、かなり話題になったスキャンダルなのだと言われました。

フランスのアマゾンで検索してみたら、確かに、このテーマを扱った書籍や映画がいくつも出てきました。発行年を見ると、21世紀に入ってからのものが目立ちます。




友人は「有名な映画『Joyeux Noël』でも、最後に悲惨な状況が描かれているよ」、と言いました。

フランス語の題名は「メリー・クリスマス」という意味なのですが、邦題は『戦争のアリア』でした。そうと分かったら、名前は聞いたことがある映画だったのですが、戦争映画というのは避ける傾向にある私は見ていません…。




「みせしめに銃殺された人」と、ずばり題にしたフランス映画もあったようです。
☆ 子どもたちへの教育資料: Fusillé pour l'exemple


銃殺された兵士の妻が真実を求める実話を扱った
テレビドラマ「Blanche Maupas」予告編:


このドラマのテーマとなった事件「Affaire des caporaux de Souain」に関するモニュメントの写真を見せるサイト:
Le combat de Blanche Maupas pour la réhabilitation des caporaux de Souain et la mémoire de Théophile Maupas dans la Manche

続く


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コメント
この記事へのコメント
見せしめの銃殺、初めて知りました。
亡くなった私の父はよく戦争の話をしてくれました。
何かにつけ上の者が下の者を殴り、誰か一人がミスをすると連帯で全員が殴られたり、とにかくいつも殴られていたそうですが、見せしめ銃殺は聞いたことがありません。
2010/07/09 | URL | 豊栄のぼる  [ 編集 ]
v-22豊栄のぼるさんへ

コメントありがとうございます。

お父様から戦争の話しを聞けたのは貴重なことですね。よほど親しい間柄でないと、戦争体験は聞かせてくれないのではないでしょうか? 私は、ほんの少しでも戦争の話しをしてくれた人が日本にはいないで育ちました。

殴られることが多かったのですか。考えてみれば、銃殺にしないで殴るだけで良かったのに...。

フランスの知人の中には退役軍人が何人もいるのですが、一種独特の頑固さがあって(老後ののんびり生活なのに、食事や就寝の時間を守っていないと気持ちが悪いらしいことなど)、フランスの軍隊生活もかなり厳しいのだろうな... と想像しています。
2010/07/10 | URL | Otium  [ 編集 ]
こんにちは~

見せしめの為の銃殺は、ヨーロッパでは結構古くから行われていたようですよ。ナポレオン戦争なんかでも結構やっています。

スタンリー・キューブリック監督、カーク・ダグラス主演の映画で「突撃」(Paths of glory)ではもろこの問題が取り上げられてましたね。

おかげでスタンリー・キューブリックはフランスに入国禁止になったそうですが。

日本軍の残虐さを教育する国は多そうですが、「罪無き者まず石を投げよ」だと思いますが。どうも一部の欧米人にある、自己正当化、価値観の押しつけには嫌悪感を覚えます。(特に200年そこいらの歴史しかない国や、罪人どもの子孫に言われたくはないです。)
2010/07/10 | URL | 腰抜け外務省  [ 編集 ]
v-22腰抜け外務省さんへ

日記を書きながら次々と疑問がわいてきたのですが、戦争は全くうとい部門なので、解答に近いことでも見つけるのは不可能だと思ってピリオドをうちました。

コメントをいただいて、疑問の解答が見えてきたものがありました。ありがとうございます。

疑問 (1): 上官は適当な理由をつけて兵士を銃殺することもできただろうに、わざわざ「みせしめ」などという形にしたのは、誰かが考えだした軍隊操縦法だったのではないだろうか?

日本にいたときは英雄だと思っていて、フランスに来たら諸悪の根源に見えるようになったナポレオンが始めた手法だとしたら、非常に納得がいきます。

疑問 (2): いつから「みせしめの銃殺」がスキャンダルとして扱われるようになったのだろうか?

映画「突撃」のフランス語での解説を見たら、はっきりと「みせしめの銃殺」という言葉を使っていました。映画が発表されたのは1957年。この時代にすでに断罪されていたのですね。この日記の最後にビデオを入れた映画で扱われた「Affaire des caporaux de Souain」事件は、キューブリックに最も大きなインスピレーションを得た、とありました。この事件がスキャンダルの発端になったのでしょうね。

映画が発表されたときのフランスはドゴール将軍に牛耳られていた時代ですから、キューブリックが入国禁止になったというのもうなずけます。とすると、フランスで「みせしめの銃殺」が公に戦争スキャンダルとして扱えるようになったのは、ドゴールが退いてからなのかも知れませんね。


>罪無き者まず石を投げよ。
⇒ そうですよね...。そういう教えがあるキリスト教だって、宗教の名のもとに残酷なことをしてきた過去がある...。
2010/07/10 | URL | Otium  [ 編集 ]
こんにちは~

見せしめ銃殺は王朝戦争時代、即ち重商主義のころからのものと思います。それまでは傭兵の時代ですから、そのようなことは起こりえません。常備軍のころからの話かと思います。

やはり、第1次大戦以降からではないでしょうか?第2次大戦以降、このような処刑はロシア以外では聞いたことはありません。

はっきり言って、19世紀以降、世界で最も残虐な行為をしてきたのは欧米諸国かと私は存じますが。

ただ、ボナパルティズムがヨーロッパで再評価されたのは普仏戦争前後ですからね。(ドイツの国力の伸長に対応してですが。)
2010/07/10 | URL | 腰抜け外務省  [ 編集 ]
v-22腰抜け外務省さんへ

ナポレオンあたりが考え出したというのなら理解しやすいと思ったのですが、もっと前の時代からありましたか...。

外務省さんはお詳しいのですね。私が歴史をみるときには戦争の部分を飛ばしたい傾向があるのですが、ちゃんと勉強しないといけないですね。
2010/07/11 | URL | Otium  [ 編集 ]
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